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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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パレード

 兵士たちに三百人に先導されて、アンナの乗る馬車が行く。馬車の客車に屋根は付いていない。

 イリアやロミオやその他解放軍中核貴族たちの馬車がそれに続き、その後ろをさらに兵士たちの隊列が続いた。兵士たちはみな士官以上の地位の者たちで、戦時と違って金糸の縫い取りがされた揃いの白い制服で着飾っていた。

 兵士たちの行進は完璧に統制された動きで、見事としか言いようがない。

 大通りは人で埋め尽くされ、気持ちのいい晴天に人々の歓声が絶え間なく聞こえる。

 道沿いの建物は二階も三階も窓から人が身を乗り出して手を振っていた。ひとつの窓に二人三人と押し合うように顔を出していることから、宿屋でもない建物の主も、金を取って上の階の部屋に客を入れているのだとわかる。

 果物のたくさん入ったかごを頭に乗せたおばさんは物売りだ。人が集まれば商売のチャンスだとばかりに大声で自慢の果物を売り込んでいる。

 仕込み用の大きな酒樽(さかだる)に乗って手を振る子供にアンナが手を振り返せば、気付いた子供は大喜びで飛び跳ねる。勢い余って酒樽が倒れて、周りの人々は驚いて声を上げた。


「ああっ……クリス、あの子大丈夫かな?」


 アンナはとなりに座る俺を振り向いて心配そうな顔をした。

 アンナの馬車には俺とルイニユーキが乗っていた。俺の役目は建前上はアンナの護衛。ルイニユーキは国民の前に出るのに二人きりはまずいと言って乗り込んできていた。


「大丈夫みたいだぞ、ほら」


 見れば子供を囲んで大人たちの笑い声が聞こえてきた。親ではないだろうが一際背の高い大男が、ひょいと子供を持ち上げて肩車。子供は今度は大男の肩に担がれて手を振っていた。


「ほんとだ、よかった」


 アンナも笑顔で手を振り返していた。


「それにしても、本当にすごい歓迎っぷりだな」

「パレードに先立って、理不尽に作られていた税の撤廃と役人の不正蓄財を処罰する旨の布告を広場に掲示しておりましたので。自分たちの生活をよくしてくれるのなら、上がどう変わろうとも彼らにとっては大歓迎なのですよ」


 ルイニユーキはつまらなそうに目を閉じて言う。

 この男はいつも真面目くさって陰気な顔をしていて、喜んでいる姿を見たことがなかった。

 それでもその実務能力は際立っていて、書類仕事で右に出る者はいない。


「ですが……本当に大変なのはこれからです。キリリュエード政権下で財を蓄えた貴族の中には我々に反感を持っている者も多いでしょうし、人々の生活は今をもって苦しいのです。我々はそれを正していかなければなりません。地道に、一歩一歩、確実に……。長い道のりになります」


 俺は気になって聞いてみた。


「なあ、お前って貴族なんだよな。なんでそんなに立派なんだ」

「立派……ですか」

「ああ。こう言っちゃなんだが他の貴族連中は解放軍側にしたって特権意識に凝り固まったようなやつらが少なくなかった。お前はなんか違う気がするんだよな。国民思いというか……目線が違う気がする」


 ルイニユーキはここで初めて口の端を少しだけ釣り上げた。

 神経質そうなこの男の、それが笑顔のようだった。


「そう言っていただけたのは初めてですよ。私は人付き合いが苦手でしてね。敵ばかり作ってしまうのです。特に賄賂で道理を曲げるような人間とは仲良くなれる気がしません。だから意識して書類ばかりを相手に仕事をしてきました。書類と向き合うほうが人と付き合うより楽でしたので。書類仕事ばかりだった私にとって貴族も平民もあまり違いはありません。書類上では貴族の名前も平民の名前も等しくただの文字ですから。ですがクリス殿。あなたは私が初めて信じるに足ると思ったお人かもしれません。あなたが提案された選挙制度は素晴らしい。実現すればこの国にとってきっとよい影響をもたらすでしょう。私は過去の文献を紐解いて前例を――」


 やべっ。

 なんかスイッチ入っちゃった?

 会議のときのような退屈な長話が始まりそうな予感がして、俺は馬車の外を指さした。


「見ろよアンナ。あれ!」

「あ!」


 アンナも気付いて体を乗り出した。

 通り沿いの飯屋が店の前でポルポの丸焼きを作っていた。

 鉄串に差して焚火の上でゆっくりと回しながら焼いている。

 もうすでに一匹目が配られているのか、周囲には肉の盛られた皿を持った人たちばかりだ。


「タダで配ってんのかな? 取りに行けばもらえるかな?」

「うぅぅ……クリスぅ。行ってきていい?」


 こっちにまでいい匂いが漂って来ていた。

 アンナは悩まし気な顔で訴える。


「……やめてください、絶対に」


 頭痛を堪えるように眉間に手を当てプルプル震えながらルイニユーキが言った。

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