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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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93/198

決着

「その辺にしておくがいい」


 俺は一瞬その声がどこから聞こえてきたものかわからなかった。

 だからロミオを見て、それからイリアに視線を移した。

 地の底から響くような、なにか非人間じみた声。


「ま、まさか――」


 なにかに気付いたように表情をはっとさせて、イリアは自分の手にした大剣を見た。

 レクレア村で何度も見た、ピンク色に輝き剣閃に火の粉を散らす不思議な剣だ。


「魔装フリタウス」


 空中のラルスウェインの口にした単語は聞いたことのない名前。

 それが、イリアの持つ大剣を指しているということが直感でわかった。

 剣が返事をする。


「いかにも」

「剣が……しゃべった?」


 俺の驚きに答えたのはやはりラルスウェインだった。


「魔装フリタウスは所有者を自ら選ぶ。資格を持たぬ者には決して扱うことができない。そして所有を許された者もその声を聞くことはできない。直接言葉をかけられたときに所有者は第二の資格を得る。そして第三の資格を得た者にはその全ての力を貸し与える……だったかな?」

「ほう、よく知っているな。お前のことは知らないが、調整官か?」


 感心したような剣の声。

 ラルスウェインはうなずく。


「そうだ。今は私が調整官の任に当たらせてもらっている。お初にお目にかかる――フリタウス殿」

「やれやれ。今度の調整官はずいぶんと固いようだ。調整官の仕事に介入する権限は私にもないが、できればこの件からは手を引いてもらいたい。お前にはわからないかもしれないが、長年のしがらみというやつがあるのだ。彼らにはきちんと自身の手で決着を付けさせるべきだ」

「しかし、それでは上の意向が……」

「上、か。それは私の頼みを無視できるほどのものなのか?」


 フリタウスの言葉にラルスウェインは沈黙した。


「魔装フリタウス。私が当代所持者レメナイリア・フレイムズブラッドです。まさかそのお声を聞かせていただけるとは。私にはその資格があるのでしょうか?」


 イリアはかしこまった雰囲気で剣に話しかけた。


「レメナイリアよ。私はもうとっくにお前を所有者として認めていたのだよ」

「ありがたきお言葉」

「ロミオ、いい孫を持ったな。こいつはお前以上の素質の持ち主だ」

「自慢の孫ですからの」


 ロミオは孫を持つ祖父としての顔で微笑む。そこには驚いた様子はない。どうやらロミオも過去に剣の声を聞いたことがあるようだ。

 ラルスウェインは音も立てずに床に降り立った。

 純白の羽が一枚キラキラと輝きながら舞い落ちる。

 ラルスウェインはオレンジのローブを拾い上げて再び身に(まと)うと、俺たちに背を向けた。


「あとは好きにしろ」

「待て!」


 立ち去ろうとしていたラルスウェインを俺は呼び止めた。


「どういうことだ? お前は一体何者なんだ?」

「……」


 ラルスウェインは答えない。


「調整官ってなんのことだ? なぜイリアの剣のことを知っているんだ? 訊きたいことは山ほどあるんだ。答えてもらうぞ」


 ラルスウェインは俺を振り返った。

 その表情はやはり感情を伴っておらず、氷のように冷たい目線だけが俺を射抜く。


「その疑問に答えることは私の任に反する。訊きたいのなら……」


 そう言ってラルスウェインはイリアのほうに目を向けた。


「フリタウス殿に訊けばいい。彼は大の人間好きだ。きっと協力してくれるだろう」

「そんなことを言われてもな」

「とにかく、私はこれ以上お前たちに情報を与えることはない。さらばだ」


 それだけ言って今度こそラルスウェインは姿を消してしまった。

 俺はイリアのほうを――いや、その剣フリタウスを見る。


「と、いうことらしいんだが……フリタウスと言ったか? 話を聞かせてもらえるか?」


 少しの間沈黙が流れた。

 相手は剣なので表情はわからないが、悩んでいるような気配を感じた。


「ふーー。やれやれ。構わんよ。調整官殿のお目こぼしもあったことだしな。ただし……」


 フリタウスは少しの間言葉を切った。


「後日、日を改めて……だ。この場には人が多すぎる。あまりおおっぴらに広めるような内容でもない」

「わかった」


 この場での問答は終わりだとばかりにフリタウスは沈黙し、気配を消した。

 イリアは大剣を背中の鞘に戻した。

 後に残されたのは身を守る兵を全て失って怯える王と、俺たちだけだった。

 

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