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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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敵軍を引き裂く魔法

「クリス」


 背後から声。

 振り返ればいつの間にいたのか、フードを被ったリズミナが当然のように、俺の背中に体をぴったりくっつけるようにして立っていた。


「リズミナ」

「木の上から確認してきた。ロミオの部隊は左前方で敵と交戦していて、お互いに矢を射かけ合っている状況だ。台地の上に陣取っているこちらのほうが若干の優勢だ」


 リズミナは再開を喜んだりはしてくれないようだ。

 一瞬フードを取ってやろうかと思ったけど踏みとどまる。


「そうか」

「ロミオは部隊を三つに分け、中央の兵で敵の注意を引きながら両翼の兵が矢を射かける陣形だ。ゆっくりと後退しながら矢を放っている。このまま後退を続ければ、やがて右方こちらの本陣も敵と交戦することになる」


 さすがの采配だと感心する。

 前のめりになった敵の部隊がなし崩し的にこちらの本陣と接する展開となれば、横に長く陣を敷いているこちらが最大効率で敵とぶつかれるということだ。

 だが敵を釣り出すロミオの軍は最も危険が大きく、後退する際に兵の意思の疎通に乱れが生じれば壊乱(かいらん)する危険も(はら)んでいる。

 それを可能にするのは流入した新兵を含まないロミオの元々の兵士一万だからだ。

 兵力で劣勢に立たされているこちらとしては、ロミオの奮戦は大きな希望と言えた。

 だが肝心の解放軍本隊二万は貴族の私兵(しへい)や志願兵、第二軍からの流入兵など雑多で不安が大きい。

 ここはもう一手、最善手を打つ必要があった。

 それは当然――。


「俺が出る」

「えっ!?」


 イリア他全員の視線が集まる。


「本陣が敵軍と接する前に、大魔法で中央に風穴を開ける。敵は大混乱に陥るはずだ。その瞬間に突撃の号令をかけてくれ」


 戦術もクソもあったものではない。

 しかし打てる最善手(さいぜんしゅ)がこれなのだから、やるしかなかった。

 レクレア村のときのようにリウマトロスの幻影を呼び出して威嚇(いかく)する方法も考えたが、味方が混乱するかもしれない。ならばこれしかない。

 多くの犠牲を出すことになるだろう。

 しかしヘタに手加減をして戦いが泥沼化すれば、より多くの犠牲を生み出すことになる。

 俺は覚悟を決めた。


「俺を最前列へ。道を開けるよう先導する兵を付けてくれ」


 イリアの指示で隊長格の兵が一人用意された。

 隊長の怒号によって一般の兵士たちは大慌てで道を開ける。

 俺はすいすいと陣の最前列までたどり着くことができた。

 事情を知らない一般の兵士たちは、突然現れた俺を奇異の眼差しで見ている。

 しかし隊長が横にいるのだから口出しはしてこない。

 解放軍が陣を構えるこの場所は緩やかながら、ちょうど台地の頂点に位置していた。

 人垣(ひとがき)に邪魔されない最前列までくれば、前方に広がる途方もない敵軍の姿が確認できる。

 それはさながら大地に広がる灰色の絨毯(じゅうたん)のようだった。

 十万の軍勢の左側が突出しており、ロミオの軍に釣られるように隊列を崩していた。

 崩れた敵軍は斜めに傾いたままの形で、こちらに近づいてきている。

 俺はさっそく詠唱に取り掛かった。

 使う魔法は……できるだけ被害が最小で済むように、敵の目からはっきりと視認できて、脅威を確認できるようなものがいい。

 決めた。

 詠唱補助精霊召喚。

 精霊たちによる口述詠唱が開始される。

 周りの兵士たちから小さく声が上がるが、いちいち反応はしない。

 さあ、逃げろ。


「魔法を撃つ! お前ら、慌てるなよ!!」


 できるだけ大声で叫びながら魔法を解き放った。

 ゴオオオオオオオオ!!

 目の前に出現したのは巨大な竜巻。家すら巻き上げて吹き飛ばせるだけの大きさと威力を秘めている。人間の兵士などこの竜巻の前では(ちり)(ほこり)のごとく舞い上げられてしまうだろう。


「なっ……」「ひぃぃぃいいいい!!」「に、逃げ……」


 くそっ!!

 魔法を撃つと言っておいたのにやはり自軍にも混乱が生じる。

 大丈夫か?

 突撃の命令が下っても兵士たちが動けなければ意味はないのだ。

 作り出した巨大竜巻はうねうねと蛇行しながら、敵軍のほうへと進んでいく。

 当然、そういう風に制御してある。

 一時混乱をきたした自軍兵士たちだったが、竜巻の進路が前方なのを確認して落ち着きを取り戻した。

 泡を食ったのは敵だ。

 巻き込まれたら地面ごと吹き飛ばされそうな巨大な竜巻、それが襲ってきたのだ。

 竜巻の進路に当たる敵軍は、もうなりふり構わない逃走に移るしかなかった。

 押し合いへし合いしながら壊乱するしかない。


『ワアアアアアアアアアアッ!!』


 (とき)の声が上がった。

 イリアの号令がかけられたのだ。

 俺は兵士たちの勢いに巻き込まれないように、本陣へ戻る意思を隊長に伝えた。


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