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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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イリシュアール解放戦争

 その日はシクフ村で納屋を借りて夜を明かした。

 すぐにでもアンナたちと合流したかったが、虜囚(りょしゅう)の身で疲弊(ひへい)していた仲間たちはそうもいかなかった。

 特にここ数日はカイルハザの第三軍の行軍に付き合わされていたせいか、その疲労は極限に達していたらしい。

 そこへきてあの過酷な脱出劇だ。

 脱出に成功して緊張の糸が切れたとたん、仲間の一人などは気を失って倒れてしまったくらいだ。さすがに休むしかないという結論に至った。

 俺だけ先に行って欲しいとウェルニーリは言ってくれたのだが、彼らを置いていって万が一があったらエリに合わせる顔がない。

 幸い解放軍の行軍ペースならまだなんとか間に合う計算だ。

 夜が明けて出発するに際し、農家の村人がいくばくかのパンと野菜をわけてくれた。どうやら第三軍の人間からひどい徴発(ちょうはつ)を受けていたらしく、俺たちが解放軍の人間だと知って力になりたかったのだという。軍に搾取されて貧しい村の、なけなしの食糧。

 仲間たちは涙を流して貪り食っていた。虜囚の間は満足な食事も与えられていなかったらしい。

 俺を含めウェルニーリたち八人。村を出発して解放軍の後を追った。


「しかし……馬が欲しいな」


 徒歩ではどれだけ急いだとしても、ちゃんと追いつけるのかどうか怪しいところだ。

 こんなことなら脱出の際に馬を奪ってくるんだった。

 とはいえ仲間全員分の馬を悠長に探して奪取してから逃げるなど、神様だって眉をひそめるような幸運に違いなかった。


「追いつけますかね?」


 仲間の一人が言った。


「わからん。急ぐしかない」

「はい」


 返事こそしっかりしたものだが、彼らの顔にはまだ疲労の色が濃い。

 一日歩き通して日が傾きかけた頃。

 前方に小さく軍影が見えた。


「間に合ったな」


 足取りもにわかに速くなる。

 しかし、解放軍に近づくなりその様子が少しおかしいことに気付き始めた。

 なにやら騒がしいのだ。

 隊列も乱れている。


「なにがあった?」


 適当な兵の一人に訊く。


「敵軍です! おそらくすでに前方の部隊は交戦を始めているものかと」

「なんだって!?」


 たしか残る一軍と四軍は王都の防衛に就いていたはずだ。

 まだ王都までは一日弱の距離があるはずだが。

 俺は混乱する兵たちの間を()うように前方へ急いだ。

 イリアたちのいる本陣の周りはすでに隊列が組まれてた。横に長く陣を組んで敵軍を迎え撃つ構え。


「イリア!」


 馬上のイリアは俺の姿を認めるとぱっと笑顔を浮かべた。


「クリスか! よかった!」

「クリス! あああっ! よかった!! あうう……」


 アンナなどは俺を見るなり泣き出してしまった。


「じいちゃん!」


 エリは遅れてやってきたウェルニーリたちを見て文字通り飛び跳ねて喜んだ。


「ああっ! よかったぁぁーーー!! クリス! ありがとう!!」


 がばっと抱き着いて思いっきり力を込められる。

 く、苦しい。

 つぶれるほど押し付けられるおっぱいの感触を名残惜しいと思ってなどいられない。

 俺はエリをなんとか引きはがしてイリアに叫んだ。


「イリア! なにがあった!」

「一軍と四軍だ。王都の守備を解いて、進軍を始めていたんだ。斥候の一部と連絡が取れなくなって気付くのが遅れた。大慌てで陣を組むように指示したのだが、ロミオの部隊はもう敵と衝突している」


 この辺りは緩やかに盛り上がった地形。日常生活の範囲では視界の妨げになるようなものではないが、地平線を見るような距離となると話が違ってくる。

 きっと敵はそのことを知っていて、台地の向こう側に陣を敷いていたのだろう。

 森の中に伏兵を用意していたカイルハザを思い出した。

 あんな手紙を寄越して俺を呼びつけるなど、兵を隠した意味がないとは思っていた。

 伏兵の存在がバレたとしても、裏が取れるまでは全軍の進路を変えることはないと思っていたのか。それとも解放軍の進路など関係のない状況を作るつもりだったのか。

 答えは後者だ。解放軍がどちらへ進軍しようとも、すでに敵は挟撃するために進軍を始めていたというわけだ。

 もし解放軍の全軍がカイルハザの潜む森へ進路を変えていたとしても、森の中ならばどうしたって泥沼の混戦になる。

 背後を突く一軍と四軍の到着を待つにはもってこいだったということだ。

 そして一軍と四軍の進軍のタイミングも偶然ではない。

 こちらが斥候を出して逐一相手の動きを確認するように、向こうもこちらの動きを察知していたのだ。

 圧倒的な兵力差を見せつけるような作戦。

 だが敵はひとつだけ間違いを犯した。

 挟撃するはずだった部隊の片方、第三軍は俺によってすでに機能不全の状態だということ。

 ならば守備力の高い王都から出て野戦に持ち込んだ分は、少なくともこちらに有利に働くことになる。

 イリアは馬上から背後を見て言う。


「ええい、後方の部隊の動きが鈍いな。やはり練度が……くそっ、今挟み撃ちにされたらひとたまりもないぞ」

「大丈夫だ。カイルハザと、やつが森に潜ませた第三軍は俺がなんとかしてきた。前方にだけ集中しろ」

「は?」


 イリアは言葉の意味が理解できないかのようにぽかんとして固まった。


「カイルハザに捕らえられていた人質の全員がここにいる。それでも信じられないか?」


 俺はウェルニーリたち七人を手で示した。

 イリアは一度天を見上げてから俺に向き直り、苦笑いだ。


「本当に……凄まじい男だ……。クリス、お前の活躍は間違いなく後世まで語り継がれるだろうな」


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