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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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森の中の脱出行

 火炎符(かえんふ)風刃符(ふうじんふ)衝撃符(しょうげきふ)障壁符(しょうへきふ)

 四枚の術符を指に挟んで森の中を駆ける。


「いたぞおおおおお!!」「殺せえええええ!!」


 森の中に兵士たちの怒号が響き渡る。

 目の前の三人の兵士が剣を振り上げるより早く、火球を放つ。

 炎を叩きつけられた二人がもがく様子を確認もせず、外れたもう一人の剣の軌道を短剣で反らした。

 肩でぶつかり、ふんばる相手の力を利用して、足をかけて転ばす。

 倒れた兵士の首をしたたかに踏みつけた。

 音だけで右後方から襲い掛かる別の兵士の存在を察知。狙いを付けない衝撃符を放った。


「ぐああっ!」


 吹っ飛んだ兵士が別の兵士を巻き込んで茂みの中に倒れる。


「急げ! 囲まれるな!」


 叫び、仲間たちに呼びかけながら走る。


「た、助け――」


 仲間の一人が敵兵に掴みかかられ、そこに剣を構えた別の兵士が走って来ていた。

 俺はとっさに風刃符を放つ。

 背中を大きく裂かれた兵士が力を失って拘束を緩めた隙に、掴まれていた仲間は脱出する。

 ジャケットの内側に手を突っ込んで新たな術符を掴み取った。

 前方から新手。

 次から次へと湧いてきやがる。

 俺が放った火球は、目の前まで迫っていた敵の体を直撃した――が、その兵士は口元に笑みを浮かべて耐える。

 魔術師!

 普通の兵の鎧を着ているが、こいつは魔術師だ。


「イリシュアール第三軍副将。魔術師ニヒケルだ。……貴様が例の魔術師のガキだな」


 そう言ってぶつぶつと呪文の詠唱を始める。

 長ったらしい口述詠唱を必要とする普通の魔術師が、ずいぶんと余裕だな。

 今しがた俺の火球を防いだ魔法は、障壁符によるものよりも小さく狭い範囲しか守れないが、魔法としては一般的な盾の魔法だ。詠唱にかかる時間が短いのが利点。それでも俺の火球を見てからでは間に合わないはず。おそらくは俺の姿を見た瞬間に、すでに詠唱を始めていたのだろう。

 なかなかに戦い慣れている相手。

 しかし、口述詠唱しかできないのに会話をする余裕を見せるなど、ナメすぎだ。

 お返しと放たれる敵の火球を、俺は障壁符を展開して完璧にガード。

 先ほどの一発でこの男が展開した盾の位置はわかっている。

 俺は風刃符で盾の下――男の足を切り裂いた。


「ぐあああああっ!!」


 倒れる魔術師の男。

 魔術師はその特異な力によって慢心する者が多い。この男もただ魔法が使えるというだけで副将という地位まで上り詰めたのだろう。

 個を優先して組織に属さず好き勝手生きる魔術師の多い中軍隊入りとは恐れ入るが、相手が悪かったと思ってもらうしかない。

 倒れながらも男は走り抜けようとした俺の足を掴んだ。


「魔術師が……術符に頼るとは……笑わせる……」


 俺はその背中に風刃符の刃を叩きつけた。


「悪いな。作ったのは俺なんだ」


 数えきれないほどの敵を倒し、返り血にまみれながら必死に森を走り続けた。


「外だ!」


 森を抜け、振り返る。

 ウェルニーリ他仲間たちも、必死についてきていた。

 全員が脱出したのを見計らって、最大出力の衝撃符をお見舞いする。

 森の中へ向けて放たれる、半円状の衝撃。

 巨人の手で払われたように木々が(かし)ぎ、森の中からは兵士たちの悲鳴が上がった。

 今だ。

 俺は大魔法の準備に入る。

 術符で呼び出される三体の詠唱補助精霊。さらに三体の精霊によって呼び出される一回り小さい七体の精霊。

 十体の精霊たちによる呪文の大合唱。

 それは高音のノイズのような、音楽とも声ともつかない人間とは異なった詠唱だった。

 後は周辺環境に合わせて魔術の調整。

 発動した大魔法は再び大地を震わせた。


「おおお……」「なんと……」


 仲間たちは口々に感嘆の声を漏らす。

 今度の魔法は地震ではない。

 大地が揺れたのは出現した土の壁のせいだった。

 森と平野の境界を、切り分けるように出現したのは高さ二メートル、長さ一キロにも及ぶ大土壁。


「これで兵たちは追ってこれないだろう。さっきの地震魔法の混乱もある。指揮官も死んだ。あいつらはもう完全に機能不全だ」

「あなた様は……」


 仲間たちの俺を見る目。

 そこには明らかな畏敬(いけい)の念が込められていた。


「やめてくれ、様付けなんて。今まで通りクリスでいい。いやあ、それにしても、みんな無事脱出できたな」

「あなたが……クリスさんが血路を開いてくれたおかげですよ」

「ああ、俺たちだけじゃ絶対に無理だった」

「俺たち……生きてるんだよな……」


 土や泥、返り血にまみれて汚れに汚れていたが、全員無事だ。

 仲間たちはようやく表情を緩めて、生還できた喜びを分かち合った。


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