表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/198

捕虜救出 哀れカイルハザ

「クリスさん!!」「ああ、なんてことだ……」「そんな……」


 木を組んで作られた牢には、ウェルニーリの仲間たち七名が捕らえられていた。

 猿轡(さるぐつわ)を噛まされ腕を縛られた俺が牢へ入れられるなり、口々に悲嘆の声が聞こえてきた。

 彼らは猿轡を噛まされていなかったが、やはり両腕を縛られていた。

 ウェルニーリの仲間たちはシャーバンスでは二十名ほどいたのだが、他の人たちはどうしたのだろうか。

 カイルハザに捕らわれた全員がここにいることを願った。

 牢の周りには見張りの人員が四名ほどいた。魔法を使うそぶりを見せれば即座に貫けるようにか、全員長槍を(たずさ)えている。

 とはいえ俺の魔術は脳内詠唱。その兆候(ちょうこう)を目視することはできない。

 まずはもしも異変に気付かれて攻撃されたときのために、障壁符を使うのと同じ魔法を発動させる。

 とっさに発動させれば間に合う術符と違って、詠唱に時間のかかる脳内魔術を使う場合は、こうしてあらかじめ下準備をしておいたほうが安全だった。

 不可視の壁が仲間の全員を囲んだのを確認して、今度は見張りの注意を惹くよう、魔術の焦点を絞った。

 発動した魔法が少し離れた木の後ろから煙を発生させる。


「けっ、煙だ! まずいぞ!」

「火か!? 消せ! 消せぇ!!」


 顔色を変えて慌てだす兵士たち。

 森で火の手が上がれば大惨事に繋がりかねない。

 その隙を突いて、今度は俺の体を縛っているロープを焼き切る。

 火が肌を焼いてしまうが、そんな痛みには構っていられない。

 やけどをした腕を強引に振って、焼けたロープを引きちぎる。

 自由になった手で猿轡を外す。

 ここで俺の異変に気付いた兵士が槍を突き入れるが、不可視の壁に阻まれる。


「ひぃぃっ!?」


 目と鼻の先まで迫った槍の穂先(ほさき)を見て、仲間の一人が恐怖の悲鳴を上げた。


「落ち着け、俺の魔法で守られている。効果範囲から出るな。全員集まれ」


 言いながら俺は他の仲間たちを縛るロープを焼き切っていく。

 熱がる者もいたが我慢してもらうしかない。

 俺は体をくっつけるようにして集まった仲間たちに訊いた。


「他に捕らえられている人はいるか? たしか仲間は二十人くらいいたはずだ」

「いえ、ここにいる者で全員です。家族がいる者は山越えには参加させず、残してきました」


 ウェルニーリが答えた。


「なるほど」


 ならばもう遠慮をする必要はないな。


「今から大魔術を唱える。何が起こっても慌るな」


 俺は仲間たちを見回して言った。

 男たちはそろってうなずく。


「わ、わかった」


 俺は目を閉じて詠唱に集中した。

 俺めがけて再び突き入れられる槍。不可視の壁に(はば)まれて弾かれるが、目に見えない障壁なので破るのが無理なことを理解できないのだ。

 この敵兵がやっている行為は、竹やりで鉄のプレートを貫こうと必死になっているに等しい。


「くそっ! 誰か! 応援を!!」


 見張りの兵の一人が叫んで、その呼びかけに反応して別の一人が走って行った。

 一分ほどの詠唱の後、大理石の女神像のようなものが出現する。


「わわっ」


 驚く仲間たち。

 出現したのは詠唱補助精霊。

 大魔法の準備には欠かせない補助装置だ。

 しかし……一体出すのにこれだけ時間がかかると、やはり術符は必要だと思い知らされる。敵の応援が間に合う前に魔法を発動させたい。

 精密な制御を必要とする魔法は使えないな。

 となると……あれだ。

 俺は地面に手を突いた。


「一体なにを……」

「見ていろ……よし!」


 地面が揺れ始める。

 揺れはすぐに大きくなり、大地震となった。


「うわあああああああ!」


 慌てるなと言っておいたのに動揺を隠せない仲間たち。

 まあ地震のほとんどない大陸だから仕方がないが。

 俺も地面に両手を突いて四つん這いのような格好になってしまう。

 そうするしかないほどの大揺れなのだ。

 狙いも制御もあったものではない。単純な暴力のような魔法。

 だからこそ術符なしになんとか使うことができた大魔法だ。

 地震の有効範囲は俺を中心に森の外くらいまで届く。


「ひいいいいいいい!!」「ああああああっ!!!」


 見張りの敵兵たちも狂乱してわめくしかない。

 バキバキと木が裂けるような音まで響く。

 遠くのほうで轟音。倒れた木もあったのかもしれない。

 やがて揺れが収まると、辺りは静寂に包まれた。


「あ……あ……」


 仲間たちですら驚愕に震えていた。


「しっかりしろ。立てるか?」

「あ、ああ……」


 衝撃魔法で牢の木組みを吹き飛ばし、外へ出る。

 敵の兵士たちは一人は気絶し、一人は腰を抜かして立てないでいた。さらに別の一人はそばに積んであった木箱を腹に乗せて、潰されるように倒れていた。

 俺は気絶している兵士の腰から短剣を拝借(はいしゃく)する。

 そこへ、自失から立ち直った兵の一人が槍を突き入れてきた。

 が、隙が大きい。

 動揺したままでのがむしゃらな攻撃など避けるのはたやすい。

 俺は槍を掴んで距離を詰めて、その首筋を短剣で斬りつけた。

 血しぶきを上げて倒れる兵士。


「みんなも武器を取れ! 混乱に乗じてカイルハザをやる!」


 見れば周りの木々は倒れこそしていないものの、根っこがむき出しになって傾いているものもあった。

 地震の揺れでこうまでなるのは震度にするとどれほどになるのか、俺自身わからなかった。しかし確実なのは、軍のテントはすべて倒壊しているはずということだ。

 俺は仲間たちがついてきているのを確認しながら、カイルハザのテントがあった場所を目指して走った。

 そのテントはやはり倒壊してぺしゃんこに潰れていた。

 俺たちが走ってきたときには、カイルハザはテントから這い出そうとしていたところだった。


「おっ、お前らっ!!」


 潰れたテントから半身を出した無様な格好で叫ぶカイルハザ。

 その叫びに気付いた兵の一人が剣を構えて俺の前に立ちはだかる。

 詠唱開始。

 振り下ろされる一撃。

 俺はそのするどい剣撃を、紙一重の見切りで避ける。

 リズミナとの訓練を思い出す。

 兵士が振り抜いた剣を戻すより速く、俺は距離を詰める。

 その首筋を一閃。兵士は断末魔を上げることすらできずに地面に倒れた。

 魔法発動。

 放たれた火球が、横から襲い掛かろうとしていた別の兵士を火だるまにする。

 ただの火球魔法で約二秒の詠唱か。

 わかってはいてもやりずらい。早く術符を取り戻さなければ。


「ぎゃあああああああっ!!」


 炎に巻かれて絶叫する兵士を無視して素早く視線を走らせる。

 カイルハザがテントから抜け出して逃げようとしていた。

 その背中に向けて衝撃魔法を放つ。


「ぐへぇあ!!」


 おかしな声を上げて吹っ飛ぶカイルハザ。

 一息に駆けて、倒れたその背中を踏みつけた。


「ぐはぁぁっ!!」

「よう、カイルハザ」

「き、貴様ぁっ!!」


 背中を踏みつけられたまま、首だけを動かして俺を見上げるカイルハザ。


「俺の術符はどこだ?」

「お、教えれば助けてくれるか?」

「ああ。お前の言う通りにしよう」


 カイルハザは脂汗を浮かべた顔に卑屈な笑みを浮かべた。


「ま、まだテントの中だ。お前の服に収まったままだ」

「よし」


 俺は血に濡れた短剣を見せつけた。


「え?」


 カイルハザは目を見開いた。


「言っただろ。言う通りにすると。約束を守るのはマヌケ、そうだったな?」

「ち、違う! 約束を守るのはいいことだ。マヌケはいつだって約束を破るやつだ! そうだろう?」

「じゃあやっぱりお前のことだ」

「あ――」


 それが最後の一言。

 カイルハザは物言わぬ(かたまり)になった。

 振り返るとウェルニーリと仲間たちも剣を手に兵士を数人倒していた。

 さすがに少人数で山を越えてきただけある。並の男たちではない。

 俺は倒壊したテントを切り裂いて、術符の入った自分のジャケットを見つけ出した。

 (そで)を通しながら言う。


「みんな! カイルハザは死んだ! 長居は無用だ! さっさと帰るぞ!」

「おおおおーーー!」


 仲間たちから雄々しい声が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ