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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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会議

 ロミオと会見した建物は宿ではなく、シュビーラゼの町の行政庁舎(ぎょうせいちょうしゃ)らしい。

 ロミオは将軍職を辞してからずっと、この閑職(かんしょく)とも言える辺境の町の長を務めてきたというわけだ。

 俺たちはどこかで宿を取ろうかと思っていたのだが、この庁舎を使ってほしいと言われた。

 イリアやロミオと同じ指揮官クラスの待遇だった。

 兵員の合流による指揮系統の調整や、軍備の確認。支援者貴族への対応などやることは山積みで、軍はすぐには動かせない。

 会見から一週間が経っていた。

 外の野営地の兵員は日に日に数を増して、今や三万にまでなっていた。

 ロミオの元々の兵士の数が一万。俺たち解放軍が一万。つまり一週間の間にさらに一万人が合流したというわけだ。

 元は農民の志願兵だったり、地方貴族の私兵(しへい)だったりと出身はまちまちだが、共通しているのは現王政権を打倒するという目的だ。

 これは間違いなく今回の戦争が、国中を熱狂させるうねりとなっていることを意味している。

 そして俺とアンナは多くの反王派の貴族や有力者たちと面会を繰り返していた。

 外の兵員が増え続けても兵站(へいたん)をまかなえているのは、彼ら貴族の財力のおかげだと言えるだろう。

 もちろん貴族たちにしても、政権を見事(くつがえ)すことに成功したら、それなりの見返りがあると期待しているに違いない。

 アンナは当然のこととして、俺の影響力までもその政治的嗅覚で素早く見抜いて面会を求めてくる辺り、抜け目がない。

 反政府勢力を組織した人物ももちろん貴族だった。

 だが彼らは利益だけを求めてやってきた他の貴族たちとは違う。

 大半の貴族は自分の利益を求めてなびく先を変えるが、そうでない者もいた。

 表面上は王にへつらいながらも古くから活動を続け、内心では義憤(ぎふん)を燃やしていたような人間。

 彼らの熱い弁舌は長時間にわたり、連日の会議に出席した俺を心底疲れさせた。転生前の学生時代も校長先生のお話とか大嫌いだった。


「で、結局のところ、行動に移すのはいつなんです?」


 シュビーラゼ行政庁舎の応接室。

 貴族の男の演説が終わったのを見計らって、そんな言葉を落してみた。

 貴族の男はルイニユーキという名前だ。細身で若干神経質そうな中年の男。貴族の中でも特に有能で弁が立ち、実質的な貴族のまとめ役を務めていた。

 今は応接室の、高さの低いテーブルをソファーで挟んで、主だった面々が座っている。

 ルイニユーキは片方の眉を跳ね上げて俺を見る。


「ええと、クリス殿。失礼ですが戦争の経験はおありで? もちろん、一兵卒(いっぺいそつ)としてではなく将として軍を率いた経験のことですが」


 持って回ったような言い方だ。 

 そんな経験などありはしないだろう? と言外(げんがい)に言っていた。


「まあ、ないですけど」


 いちいちこの手の嫌味に顔を赤くしているようでは始まらない。

 話の続きを促すように適当に流した。

 声を上げたのはイリアだった。


「待ってください。先のケスタニー率いる第二軍との戦闘、実質的な作戦の立案と指揮を取っていたのはクリスなのです」

「ほう、そうでしたか」


 ルイニユーキは小さく口をすぼめた。


「彼なくしては十倍もの兵力を相手にしての完璧な勝利はありえなかったでしょう。彼は魔術の才だけではない、軍略家としての素質も類まれなものを持っています」


イリアのこの褒めようには頬が熱くなってくる。 


「こほん。それは失礼。では説明申し上げます。今国中では長年溜まった現王政権への批判が高まり、爆発的に広がっています。その流れに呼応するかのように各地から人員が集まり、数はふくれ上がっています。今は流れに逆らわずに人を集めて、戦力を整えるべきときなのです」


 わかり切ったことを繰り返すルイニユーキ。

 この長ったらしさからは、なんというか役人気質を感じる。

 俺は落ち着いて口を開いた。


「ですが、ただいたずらに時間を費やすのではなく、ある程度の見通しというか……達成目標を決めておいたほうがいいのではないでしょうか。現に今をもって人が集まりすぎて、統制が取れなくなりつつあるのではないですか? 貴族方の私兵たちはイリアとは別の命令系統を持っていて、指示に迅速に動いてくれるとは思えません。それに、今は都合よく高まっている人々の熱狂も、いつまで続くかわかりません。世論が味方をしているうちに勝負に出たほうが人々に強く印象付けられるのではないかと。国王側の動きも気になります。ただ手をこまねいて見ているわけではないはずです」


 たとえイリアが突撃の号令を下したとしても、貴族の私兵はまず自分たちの直属の盟主である貴族の指示を仰ぐ。そのタイムラグは戦場では致命的になるだろう。もちろん号令に応じなかった貴族は厳しく罰すればいいのだが、そんな余裕は勝たなければ生まれない。負ければ明日はないのだ。

 ルイニユーキは俺の言葉にあごをなでた。


「一理ありますな……。これ以上の増員はさすがに兵站を圧迫しますし、指揮系統の調整なども手一杯。わかりました。ではいよいよ王都へ向けての進撃の調整に入りましょう。よろしいでしょうか?」


 俺に反感でも持っているのかとも思ったが、意外にあっさりと賛同してくれた。

 ルイニユーキもその貴族の一人なので思うところがあるのかもしれない。

 上から突撃を命令されても、自分の虎の子の兵士は捨て駒にはしたくない。絶対的な信頼があるわけでもない急ごしらえの関係では、そう思う人間がいても無理からぬことなのだ。

 どうやらルイニユーキは実務的な人間らしい。嫌味っぽい言い回しは悪意ではなくただの性格だったようだ。

 ロミオは静かにうなずいた。

 それを見て俺やイリア、他の貴族たちもうなずく。

 いよいよ決戦のときが近づいていた。


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