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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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ロミオとイリアの複雑な関係

 イリアの祖父ロミオが拠点としているシュビーラゼの町へ到達すると、すぐに馬に乗った四人の兵士が応対にやってきた。

 つや消しの黒鎧に身を包んだ筋骨たくましい男たち。

 一目でわかる歴戦のつわものといった雰囲気だ。

 イリアが馬上の兵士に、ロミオの軍との合流の意図を伝えると、兵士は喜色(きしょく)(あら)わにした。


「おお! この瞬間をどれほど待ちわびたことか!! レメナイリア将軍! ぜひロミオ様にお会いになってください」


 イリアのことは将軍と呼び、ロミオは単に様付け。ロミオは一度は引退した身なので肩書はないのだ。

 感激したように天を見上げて拳を震わせる兵士たち。俺は彼らに反政府勢力がばら撒いた例のビラを渡そうとする。

 俺が差し出したビラを受け取ると、兵士はニヤリと笑った。


「もう知っていますよ。なにせここは決起軍の拠点。簒奪王(さんだつおう)に反対する者たちもこの町を拠点にしています。こういった情報はどこよりも早く手に入るのです。そして――」


 兵たちは馬から降りるとアンナの前に片ひざを突いた。


「フェリシアーナ王女。よくぞ今日までご無事で生きておられました……」

「そんな……やめてください。あたしだって最近まで自分のこと、ろくに知らなかったし……」


 やはりかしこまられるのには慣れていないのだろう。

 アンナは慌てて手で制した。


「アンナ」


 俺は落ち着かせるように声をかける。

 アンナは頼るような目を向けてくる。


「これからはこの手の対応が多くなる。いやでも王女扱いされ続けるだろう。将来的にはなんとかしたいと思っているが、とりあえずは彼らを安心させるよう振舞ってみてもいいんじゃないか? そうしたほうが、この先の戦いにもきっと役に立つ」


 そう。

 万単位の人間同士が争うのだ。

 どんな小さなことでも、それがどれだけ多くの命を救う要素となるのかわからない。

 不器用でも王女らしく振舞って兵たちの士気を高めるのは、アンナにしかできない戦いだ。

 アンナは真剣な顔でうなずいた。


「クリスが言うんなら……。えと、みなさん、ありがとうございました。どうか顔を上げてください。これからよろしくお願いしますね」


 たどたどしい丁寧な言葉遣い。

 こうして意識して言葉を変えるだけでずいぶんと王女らしく見える。

 兵士たちは恭しく一礼した後、シュビーラゼのロミオの元への案内を申し出た。

 俺たち解放軍はケスタニーの軍からの合流者も合わせると一万人に膨れ上がっていた。

 ロミオの軍もほぼ同数。

 やはり全員を町の中へいれるわけにはいかないのか、シュビーラゼの外に野営地を構えていた。

 イリアは解放軍にも野営の準備を指示した。

 人数が膨れ上がって足りない資材は、ロミオの軍に融通してもらうよう使いの兵に頼んでおいた。

 俺はアンナとエリを連れて、イリアとその側近数人の兵士と共にシュビーラゼの町に入った。

 シュビーラゼはイリシュアールの南に位置し、アセルクリラング国との国境に面している。

 アセルクリラングとの貿易と、あとは牧畜や農業などで栄えた町だ。

 シュビーラゼの町で一番立派な建物。二階建てでレンガ造りの、普通の家四軒分はありそうな大きさだ。

 そこがロミオが執務をしている建物なのだそうだ。

 建物へ通されて二階に上がり、やはり今まで泊ったどの宿よりも広い部屋へと案内されると、その奥の執務机で書類に目を通していた人物が顔を上げた。


「来たか。レメナイリア将軍」


 真っ白な髪と、顔中を覆うように生える真っ白なひげが特徴的な巨躯(きょく)の男。

 そのひげに埋もれる顔は岩のようにごつくて、ひび割れのように深いしわが刻まれている。

 イリアを見つめる眼光は鋭い。

 その様子からは一線を退いたとはとても思えない、ただ者ではないオーラがビリビリと伝わって来ていた。


「レメアイリア・フレイムズブラッド、ただいま参りました。我ら一万の解放軍、そちらの軍と合流させたいと思っています」

「我々が将軍に合流するのだ。私はもうただの一般人。将軍の好きに命令してもらっていい」


 表情をぴくりとも変えずに言うロミオ。

 一瞬嫌味でも言っているのかとも思ったが、イリアがふっと表情を緩めたのを見て考えを改めた。


「では孫として。……祖父に命令する孫などいないでしょう?」


 ロミオは豪奢(ごうしゃ)なイスの背もたれに体をあずけた。

 そして少し上を見上げてから一つ息を吐いた。


「驚いたな。お前の口からそんな言葉が出るとは。私はずっと公人(こうじん)としてお前に接してきた。家の中ですら。お前に(うと)まれていたことも知っている。今さら祖父面をするつもりはないと、そう心に決めていたのだ。そんな私を祖父として見てくれるというのか?」


 イリアは柔和に微笑む。


「彼のおかげです。気を張りすぎていて目の前しか見えていなかった私を、もっと先を見るよう(さと)してくれたのです。レクレア村の任務で彼と出会って、私は変わったのです」


 イリアに促されるように前に出た俺に、ロミオは思慮(しりょ)深い眼差(まなざ)しを向けてくる。

 先ほどまでの威圧感はうそのように霧散し、今は静かなる賢者のたたずまいだ。


「孫を成長させてくれたことを、心より感謝申し上げる」


 深々と頭を下げるロミオ。


「そ、そんな。よしてください。俺のほうこそイリアには以前散々言いたい放題言ってしまって……」

「いや、礼を言わせてもらいたい。軍からはみ出してしまった今こそ、私は彼女の本当の祖父になれた気がします。軍で将軍をしていた頃には孫と本当の家族になれる日が来るとは、夢にも思っていませんでした。そしてイリア」


 話を振られたイリアは小さく首をかしげる。


「なんでしょう?」

「私はな。お前に厳しく接してきた今までのすべての時間も、お前を孫として愛していた。本当だ」

「なっ、なにを……そんなこと……知って……うっ……ひぅっ……」


 イリアは笑顔を作ろうとして――失敗した。

 その目から涙が次から次へとあふれ出す。


「うあ……うああっ……おじいちゃん! おじいちゃん……うあああああああっ!」


 ついに大泣きを始めてしまうイリア。

 その様子からは今までの二人の間に、どれほどの深い溝があったのかを如実(にょじつ)に物語っていた。


「ふっ、お前が私をおじいちゃんと呼ぶのは、お前を引き取った最初の日以来だな」


 イスから立ち上がるロミオ。

 俺はイリアの背中を軽く押した。

 イリアはふらふらと前によろめき、そしてロミオの胸に飛び込んだ。


「おじいちゃん! おじいちゃぁぁぁあん!! よかった! よかったよぉぉおお!! うあああああっ!!」


 長い長い年月の間凍り付いていた二人の家族としての時間が、ようやく動き出した瞬間だった。


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