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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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反乱軍改め解放軍

 翌日俺たちはイリアの率いる第五軍の兵士二千人と共に、ロミオが拠点としているシュビーラゼの町へ向けて移動を開始していた。

 周囲の景色はイリシュアールらしく草木もまばらな赤茶けた大地だ。特にこの辺りは凹凸の少ない平野で、大規模な軍隊での行軍には適していた。


「アンナを匿ったことでこちらの意思が明らかになって、反乱軍と合流するような動きを見せれば、どうしたって向こうは追いかけてくるだろう。しかも十倍以上の兵力差ともなれば、舐めてかかってくるから対応も性急になる」

「その、反乱軍という呼び方はまずいな」


 俺のとなりを歩くのは、あごに指を当てて考え込むようなポーズのイリア。


「たしかに……」


 こういう場合、言葉面の印象は無視できないくらいに重要だったりする。


「我々の行動の正しさを、我々が保証するんだ。大義がなければ兵たちの士気にだって関わってくる。そうだな……キリリュエードの王位簒奪(さんだつ)にまつわる話は私も昔から耳にしていた。正当なる王位継承者であるフェリシアーナ王女が現れたのだから、王位の返還を迫るのは十分な大義だ。我々はキリリュエードの支配からイリシュアールを解放する解放軍だ」

「解放軍……なるほど。じゃあこの戦いはさしずめイリシュアール解放戦争といったところか」


 イリアの言葉をずいぶんな割り切り様だと責めはするまい。

 なぜならイリアが忠誠を誓って身を尽くしてきたのは、あくまでイリシュアールという国。簒奪者(さんだつしゃ)の王にではないのだから。


「クリス」


 背後にすっと現れたのはリズミナ。一晩でだいぶ回復した様子だ。


「近くの木の上から確認できた。おそろしい大軍。すぐに土煙はお前の目でも確認できるはずだ」

「来たか」


 俺はイリアを見て言う。


「イリア、反転だ。陣形を整えて待機。作戦の通りだ」

「わかった」


 イリアの号令で兵士たちは向きを変え隊列を方陣(ほうじん)に整える。

 ほどなくして地平の先に土煙が現れ、黒い点のような影はみるみる広がっていく。ケスタニー二万の軍勢だ。

 俺は地面に土人形符(ゴーレムふ)を貼っていく。

 轟音と共にモコモコと地面をえぐり、次々と現れるゴーレム。


「おお……」


 兵士たちのどよめきが広がる。

 横一列にずらりと並ぶ、人の背丈の二倍近い体躯(たいく)のゴーレム。その約百体。たっぷりと距離を取って並べて、相手の陣容(じんよう)の長さをカバーできるようにそろえた。

 一般の兵士たちからすれば、さぞ頼もしく見えるのだろう。

 ゴーレムたちはのっしのっしと重い足取りで前へと進みだした。

 歓声を上げる兵士たちには申し訳ないが、単純に歩みを進めるだけのゴーレムは戦力にはならないだろう。

 このゴーレムたちには別の役割があった。


「いい位置だな」


 俺はゴーレムたちの進む先を見て言う。

 このまま進めばちょうどいい距離でかち合うはずだ。


「ああ、狙い通りだ」


 イリアも落ち着いて言った。

 俺たちはただなにもせずにシュビーラゼを目指しているわけではない。術符を地面に、地雷のように散らしながら歩いてきたのだ。

 もしもケスタニーの軍が釣れず、アールドグレインへ入るようなそぶりを見せていれば、昨日兵士たちを使って配置させておいた別の術符が使えたはずだ。


「見てろ……もうすぐだぞ」


 ゴーレム部隊がついに敵の先陣と接触した。

 矢を大量に射かけられるが意に介した風もない。岩石でできたゴーレムに矢など通じるはずもない。

 矢が無駄とわかれば今度は接近戦だ。

 遠くてよく確認できないが、剣や槍は有効打にならないだろう。しかし大槌(おおづち)で叩かれたり縄をかけて転ばされたりするとどうしようもない。

 ほどなくしてゴーレム部隊は沈黙した。

 性急(せいきゅう)な行軍で縦に乱れていたケスタニーの軍も、じわじわと陣を整えつつあるようだ。

 慣れないゴーレムでの突撃を受けて驚いたのかもしれない。このまま急いで蹴散らすのも危ないぞ、と。

 でもまあ、それが思うつぼなんだよな。

 あのゴーレムは攻撃のためのものではない。

 前もって地面に仕掛けてあった術符を起動するための着火剤代わりだ。

 ゴーレムには、特定の術符に影響する魔力パルスを発生させる術符を貼りつけておいた。

 あの辺り一帯に敷設(ふせつ)してあった術符は、そのパルスを受けて一気に起動する。

 小さくしか見えないケスタニー陣営だが、兵士たちの動きが乱れて明らかな異常が見て取れた。


「やったっ……! すごいぞクリス」


 前方ケスタニー軍がもがき苦しみ、バタバタと倒れ始めたのを見てイリアが言った。


「よし、今だ!」


 俺はイリアに合図を送る。イリアは深くうなずいた。


「全軍、突撃!!」


 イリアの号令を受けて一気に戦場を駆ける兵士たち。

 兵士の半数以上が倒れ、残った者もろくに動くことができていないケスタニー軍。

 地雷代わりに使ったのは大量の酸欠符(さんけつふ)だ。以前は意識を奪うところまではいかなかったが、今回威力の改良に成功していた。

 完全に機能不全をきたしたケスタニー軍に突き刺さる解放軍。ここからは一方的な蹂躙(じゅうりん)が展開された。

 将軍ケスタニーの首さえ取れればいいと、事前に言い含めてある。

 敵陣深くで無事ケスタニーを捕らえることに成功。雌雄(しゆう)は決した。

 後は事後処理。

 逃げる者は追わず、倒れた者は後々治療を施す予定だ。

 降伏した者には意思を聞き、去るか解放軍に加わるかを選ばせる。

 思っていた通りそもそもの士気が高い兵士たちではない。抵抗を示すものはほとんどいなかった。

 こうしてイリシュアール解放戦争の緒戦は、無事に勝利を収めることに成功した。

 

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