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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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引き返せぬ道

 てっきり俺はロミオが反乱の首謀者だと思っていたのだが、違うというのか。


「そうだ。私にはロミオが、自身の意思で反旗を翻したとは思えないのだ。いくら国が腐敗しているからといって、自ら祖国へ刃を向けるような男ではないはずだ」

「ふむ、それなら一度、直接会って話をする必要があるだろうな」

「だが、ロミオと接触してしまえば、国は確実に私が裏切ったと判断するだろう。そうなってしまったら、もう後戻りはできない」


 重大すぎる決断になることは、俺にもわかる。

 もし戦いが絶望的なものとなれば、命を落とすのはイリアだけではない。この第五軍二千の兵も同じ運命を辿ることになる。


「外の野営地を見せてもらったぞ。レクレア村のときよりは人数が多いが、さすがにイリシュアールの第五軍と言うには数が少ないんじゃないか?」


 イリアは自嘲するように笑った。


「わかるか。やはり私は王に信用されていないようだな。この我ら第五軍が駐屯するアールドグレインも、見張るように配置された第二軍が常ににらみを利かせているんだ」

「その第二軍というのは?」

「カイルハザの息子――ケスタニーが将軍をやっている」


 なんてこった。

 呆れて言葉も出ない。

 腐っている腐っているとは思っていたが、そこまでだったとは。


「ケスタニーはロミオが拠点を構えるシュビーラゼの町と、このアールドグレインとを三角形で結ぶ頂点の位置に、約二万の軍勢で陣を構えている」


 二万。

 十倍の戦力差。

 もしケスタニーの軍と一戦交えることとなれば、まともに戦ってはあっという間に蹂躙されるしかないだろう。

 部屋のドアが激しくノックされた。

 ついで聞こえてきたのは慌ただしい呼び声。


「レメナイリア様!! 大変です!」


 入ってきた兵士が手にしていたのはチラシ大の紙。

 それには新聞のような記事が書かれていた。

 でかでかと見出しに踊るのはこんな文章。


『故マーサウェンス王子のご息女、フェリシアーナ王女現る』


 ああ。

 ついにか。

 おそらくこのビラはキリアヒーストルで用意されたものに違いない。

 それをばらまいて回ったのは反政府勢力の構成員たちか。

 記事ではマーサウェンス王子が謀殺される直前に、すでに王位の継承が行われていた件にも触れられている。

 つまりアンナの王女としての正当性――第一王位継承権を持つ本物の王女であることを説明しているのだ。

 ご丁寧に似顔絵まで描かれ、俺――魔術師クリストファーと行動を共にしているところまでしっかりと書かれている。


「これは……」


 イリアは驚きに目を見開いて記事と俺たちとを見比べる。


「書いてある……通りだ」


 苦々しくも、認めるしかない。

 こうなっては言い逃れることはできないだろう。


「なんということだ……なんという……」


 茫然と繰り返すイリア。

 額に手を当てて震えている。

 顔にはうっすら汗まで浮かんでいた。


「大丈夫、イリアお姉ちゃん?」


 あまりにも激しい狼狽(ろうばい)っぷり。

 さすがに心配になったのか、アンナがそんな声をかけた。

 俺にはイリアの動揺の理由がわかる。


「これでイリアは、明確に現国王側と敵対することになってしまったということだ。俺とアンナがここにいる時点でな」

「あっ!」


 アンナも気付いたようだ。

 反政府勢力の人間が接触してこなかったのも、この一手を打つためだったということか。

 俺たちとラグゼーがここへ来ることに、気付いていなかったわけがないのだ。

 まあ俺とアンナを今すぐ縛り上げて、国に引き渡すという選択肢もないわけではないが。イリアがそんなことをするはずがない。


「この町にもケスタニーの手の者はいるはずだ。ビラはほどなくして敵の手にも渡るだろう。当然、俺とアンナの存在も知られることになる。そうなる前に行動を起こす必要がある。イリア――」


 敵という言葉をはっきりと使ったのは、もう後戻りできないと宣言する意味もあった。

 イリアは気持ちを落ち着かせるように二、三度首を振ってから俺を見た。


「ああ。すまない。少し取り乱した。一つだけいいか、クリス?」

「なんだ?」

「このビラはお前が?」

「いいや。信じてもらえるかはわからないけどな」


 タイミングが良すぎるのだ。

 おそらくは俺たちの動向を監視していて、タイミングを計って撒かれたのかもしれない。

 イリアは一瞬目を閉じた。


「すまない、忘れてくれ。それでクリス……なにか策はあるか?」

「町に潜伏しているケスタニーの手の者が本隊へ早馬でビラを届けたとして、どのくらいの時間がかかる?」

「おそらく半日くらいだろう」

「ビラが届いてから向こうが軍を動かす即断をしても、大軍での移動にはさらに時間がかかる。最低でも明日までは猶予(ゆうよ)はあるだろう。なら間に合う。まずは人を貸してくれ」


 こうなった以上流血は見たくないなどとは言っていられない。

 符術士としての力を最大限駆使して迎え撃つしかなかった。


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