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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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果樹園見学

 翌日。俺たちは朝食を取ったあと、村の果樹園を見学しに来ていた。


「へぇー、これがレリレリの木なのか」


 五メートルほどの大きさの木が、一定の間隔を開けてずらっと並んでいた。

 その木には人のこぶし大の大きさの白い果実が無数にぶら下がっている。

 辺りにはほのかな甘い香りが漂っている。


「いい匂いー。すっごーい! いっぱいなってるねー」


 アンナもすんすんと鼻を鳴らして香りを楽しんでいた。

 下草の雑草や背丈の低い雑木なんかが結構生い茂っていて、あまり手入れが行き届いているように見えないのが気になった。


「あのさ、ここって人手足りないのか?」


 アイラは小首をかしげる。


「どうしてですか?」


 その様子からは昨日のことが嘘のように、なんの陰りも感じられなかった。

 昨日の思い詰めた感じはきれいに消えていた。


「いや、なんか雑草とか多いだろ。よくわからない木とかも多いし、こういうのってきれいにしないと肝心の果物の木の栄養が取られちゃうんじゃないか?」


 アイラはおかしそうに笑う。


「なんですか、それ。森の木々だってこうして雑多に生えているんですよ。大丈夫ですよ。たしかにここは人為的にレリレリの木を植えた果樹園ですけど、他の草木だって決して無駄じゃないんです」

「というと?」

「実は最初にここにレリレリを植えたご先祖様は、大変な苦労をなさったそうです。上手く育たなかったり、せっかく実がなっても害虫に食べられてしまったり。それは作為的にレリレリの木だけを植えたせいで、害虫が大量に発生したからなんです」


 科学農薬がないこの世界では結構な死活問題かもしれない。


「害虫を食べてくれる天敵の小動物や、他の虫などが住めるような隠れ家として、これら雑多な草木は必要なんです」


 バランスが大事ってことだろうか。

 さすがは果樹園の村の娘といったところか。


「でも、人手が足りないというのはたしかにありますね。収穫の時期になると、他の村から人を呼んで手伝ったりしてもらってます。今がちょうど一番おいしい時期ですよ、ほら」


 そう言って手を伸ばして、手近な実の一つをもいで差し出すアイラ。


「このまま丸ごと食べてみてください。おいしいですよ」


 言われるままにかぶりついてみる。

 さわやかな甘みがする果汁が、弾けるように口の中に広がった。

 このみずみずしさは、暑い日なんかには最高のジュース代わりだろう。


「うまいな」

「あークリスずるい! あたしもー!」

「あはは。たっぷりありますから、好きなだけ食べてくださいね」


 そう言ってアンナとエリにも手渡してくれるアイラ。小刀で器用につるの部分を切って実をもぐ手際は、さすがだった。


「わはーっ! おいしーーー!」

「ほんと! おいしいねぇー!」


 エリとアンナは大喜び。

 そんな二人を見てアイラも楽しそうに笑っていた。

 俺としては昨日の今日ということで、実はどんな顔をしてアイラと会えばいいのか悩んでいたのだが、心配なかったみたいだ。

 というかアイラはどこか吹っ切れた様子で、昨日よりもずっと魅力的に見える。これが彼女の本来の姿なのだろう。

 俺たちは腹いっぱいレリレリの果実を堪能した。


「おーう、アイラちゃん、久しぶり」

「あ、ベグナフのおじさん」


 そこへやってきたのは十人ほどの大人たち。

 木のはしごを脇に抱えたおじさんや、たくさんの籐のかごを重ねて頭に乗せたおばさん。

 聞けば彼らはとなりの村の人たちで、これからちょうど収穫の作業が始まるということだった。

 このキアルペの村人たちも加わり、果樹園はにわかに活気立った。

 せっかくなので腹いっぱい食べさせてもらったお礼に、俺たちも収穫の作業を手伝うことにした。

 他の二人ももちろん異論はない。

 俺たちの申し出にアイラは手を打って喜んだ。


「本当ですか!? ありがとうございます! 助けていただいた恩人なのに、なんだか申し訳ないですね」


 そして収穫の作業が始まった。


「はーい、気を付けてー! 通るよ通るよー!」


 大量のレリレリの実を入れたかごを頭に乗せて、エリは下草が生い茂って歩きにくい果樹園の中をすいすい進む。

 まるでベテランの農家のような堂々とした働きっぷりだ。

 周りの本職の村人たちも、目を丸くして驚いていた。

 村の作業場へレリレリの山と積まれたかごを置きに行って、再び戻ってきたエリに声をかける。


「エリ、お前この手の仕事もしたことあるのか?」

「そだよ。野菜の収穫から小麦の収穫。それに果物の収穫も。収穫っていうのはどんな作物も大抵時間との勝負。大勢の人手を駆り出してのお祭り騒ぎだから、楽しいよね」


 大きすぎる胸をぶるんと張って、歯を見せて笑う。その様子は本当に頼りになるベテランといった貫禄があった。


「いいぞー、姉ちゃん。うちで働かねえか?」

「あたしのとこの息子の嫁ににおいでよ。食ってくのに困らないのは保証するよ」

「あははー。遠慮しておきまーす」


 その働きっぷりでさっそく農家のみなさんの心を掴んでしまったらしい。

 おっと、俺も手を休めているわけにはいかないな。


「よっと……ああっ!?」


 つるに小刀を入れたとき、勢い余ってレリレリの実が地面へと落ちてしまう。

 べしゃっと潰れるレリレリ。

 うーん、この繊細な作業は魔法でばばっと一気にってわけにはいかないからな。

 結構むずかしいぞ、これ。

 俺は作業中ずっと悪戦苦闘を続けるのだった。

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