秒殺
そして数秒後。
「ぐうぅぅ……」「あが……」「いでぇ……いでぇよぉ……」
男たちは全員苦悶の声を上げて地面に横たわっていた。
あっけなさすぎる結果だ。
まあ魔法も持たず特殊な訓練も受けてないただの賊なら、こんなものだろう。
逆に殺さないように手加減するほうに気を使った。
なぜなら、こいつらには聞かなければいけないことがあるからだ。
「それで……」
俺は倒れている男のうちの一人、隻眼の男の腕を踏みつけた。
「ぎゃああああっ!!」
「その誘拐したっていう少女はお前たちのアジトにいるんだな?」
隻眼の男は脂汗をびっしり浮かべた顔を、無理やり笑みの形に歪めて強がった。
「へ、へへ……。素直に言うことを聞くとでも思ってんのかよ」
もう一回。隻眼の男の腕を踏みつける。
「うぎゃああああああっ!?」
そして黙ってもう一度足を振り上げる。
隻眼の男はたった今激烈な痛みに悲鳴をほとばしらせたばかりだが、それでも強烈な目つきで俺をにらみつけてくる。
なかなかに肝が据わっている。
俺に拷問の趣味はない。問い合わせには別の窓口をあたることにしよう。幸いにしてここには他に四つの情報源が転がっている。
この男の口が堅いのなら、他の男に訊くまでだ。
俺は別の男、小太りの男の前に立つ。
小太りの男は左足を押さえて倒れていた。ひざが逆方向へと曲がってしまっている。衝撃符の一撃を受けて折られたのだ。
「足、痛そうですね」
「ひっ――」
小太りの男は顔を恐怖に歪ませる。
俺がゆっくりと足を上げると、たまりかねたように叫んだ。
「や、やめてくれ!! そうだ、あの女はアジトにいる。ここからいくらも離れてない森の中だ。そこに俺たちのアジトがあるんだよ!! こ、殺さないでくれ!!」
「ぎゃあっ!!」
上がった悲鳴は目の前の男のものではない。
別の、ひげ面の男が立ち上がって逃げ出そうとしていたのだ。
走り始めをリズミナがあっという間に取り押さえていた。
俺は今度はその男のほうへ行き、わざと横柄な態度で言った。
「お前は足が無事みたいだな。じゃあそのアジトとやらに案内してもらおうか?」
「な、仲間たちの手当てをしねえと……みんな歩けねえよ!!」
足が無事なのはひげ面の男だけのようだ。足は無事だが、左腕が腫れ上がっている。
俺は笑顔で言った。
「じゃあアジトに戻ったときに、仲間にでも泣きつくんだな。薄情な町の警備兵と違って、もしかしたら助けてくれるかもしれないぞ」
「は……はは……」
ひげ面の男は引きつって弱々しい顔で笑った。
ひげ面の男に案内されてやってきたのは、森の中のちょっと開けた場所。ログハウスのように丸太を組んで作られた家が、四軒ほど建っていた。
家の一軒一軒は物置小屋かと思うほどに小さい。元は森で仕事をする木こりか狩人が使っていたのかもしれない。
そのうちの比較的大きな一軒。そこに盗賊たちの首領がいるという話だった。
家へ入るなり鼻を突くのは、むせ返るような酒の匂い。
部屋のあちこちには空になった酒瓶が散乱していた。
そして無駄に豪華で座り心地の良さそうなソファーに座り、テーブルの上の酒瓶を傾けて直接中身を飲んでいるのは、見るからに悪党といった顔の巨漢の男。
ひげ面の男を先頭に俺たちが部屋へ入るなり、その巨漢の男は剣呑な目を向けてきた。
「おう、なんだぁお前らは? おいラジッド! 他のやつらはどうした。今日の収穫はどこだ? まさか手ぶらで帰ってきたなんて言うんじゃねえだろうな?」
ひげ面の男はサッと走って巨漢の男の後ろへと隠れる。
「お頭ァ! こいつ魔術師です。他の仲間はみんなこいつにやられちまって……」
「ああん? 魔術師?」
ジロジロと俺に値踏みするような視線を向けてくる巨漢。
そして巨漢はひげ面の頭にガツンと拳を落した。
「いてっ」
「ばかやろう! ただのガキじゃねえか! まったく、つまらねえ冗談だ。しかし……へへへ」
今度は俺の後ろのエリとアンナにいやらしい笑みを向ける。
「この女どもを連れてきたことは褒めてやる。でかしたぞラジッド」
どうやら巨漢の男はすっかり俺たちが誘拐されてここへ連れてこられた被害者だと思っているようだ。
まあその勘違いはすぐに改められることになるけどな。
「お前が賊どもの親玉ってことでいいんだな?」
「あん?」
巨漢の男はようやく俺の敵意に気付いたようだ。
「おいおい、まさかマジでお前ら……」
ガシャン。
巨漢の男は手にしていた酒瓶をぞんざいに放り投げた。
放物線を描いて飛んだ酒瓶は部屋に散らばる別の酒瓶に当たって割れた。
巨漢の男はのっそりと立ち上がると、酒瓶の代わりにソファーの後ろから巨大な斧を持ち出した。
「手下どもを可愛がってくれたのが本当なら、たっぷりとお礼をしてやらねえとなぁ!」
酒臭い息を吐き散らすような大声。
やる気のようだ。
ならば仕方ない。
俺は懐の術符を掴んだ。




