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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
四章

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寝苦しい旅

 それはテントの大きさだった。

 行きの旅程で使っていたテントが三人でキツキツだったのだから、四人になるとどうなるか。

 俺はこの日から寝苦しい夜が続くこととなった。

 山旅自体はその後も至極順調に進んだ。女連中はある意味ピクニック気分。日中ずっと談笑に花を咲かせていたくらいだ。

 それ自体は微笑ましくていいのだが、俺は終始寝不足気味だった。

 そして毎朝のように繰り返される、苦しい寝起き。起きだした俺の体の上にはいつもエリが乗っかっていた。

 俺の両側にそれぞれアンナとリズミナ。そしてエリはアンナの横……だったはずだ。

 それがどういう経緯かエリは寝返りを打って転がり、俺の上に乗っかることになったらしい。

 そもそもアンナを挟んでいるのだから、途中アンナの上に乗ることになるだろう。しかしアンナは目を覚まさなかった。

 結果俺は三人に抱き着かれるような恰好となった。

 三人用の抱き枕じゃねえぞ、俺は。

 二人に抱き着かれていたときですら身動きがほとんどとれなかったというのに、それが三人になればもうほとんど警察に取り押さえられた犯人に近い。

 とまあそんな状態が、丸々七日間毎朝続くことになった。

 寝苦しいなら外で寝ればいいと思うかもしれない。だがそれはまずい。なぜなら魔物の出るこのアリキア大山脈では、ちょっとした油断や単独行動が、死につながる可能性があったからだ。

 たとえば俺が一人テントの外で寝ていたとしよう。そのとき猛スピードで巨大な魔物がテントへ突進してきたらどうか? 警報用の感温符は周囲の木々に貼ってあったが、気付いて障壁符を掴み出す頃には小さなテントは潰されていてもおかしくはない。

 術符の射程範囲に全員を収めておくというのは、そういう可能性を少しでも潰すためでもあった。

 もちろん女の子のほうを外に、というのはもってのほかだ。

 こんなことなら大きいテントを買っておくんだった、と思わずにはいられない。

 うっかり忘れてしまった自分の自業自得と言えた。

 しかし結局大した事件もなく帰りも無事に山を抜けることに成功したのだった。


「おー、見えたなー」


 曲がりくねった山道の、崖からの視界が開けた場所。

 眼下遠くに見えるのはキリアヒーストルの温泉の町、アカビタルで間違いない。

 あともうしばらく山道を下っていけば、二時間もかからないで到着するはずだ。


「わはーっ! いい眺めー! あれが山向こうの国なんだね!」


 初めて見る異国にエリは目を輝かせていた。


「ああ、帰ってきたな」

「クリスー、おなかすいたぁ」

「ははは、町に着いたらなにかうまい物でも食べよう」


 アンナにはやっぱり質素な保存食の生活は堪えたようだ。

 今回は都合よく魔物(新鮮なお肉)は襲ってこなかったから、ずっと日持ちをする糧食しか食べられていなかった。


「帰りは行きのときよりもずいぶんすんなりと来れましたね」


 リズミナの言う通り、たしかに帰りは行きのときより若干だが早く着いた。

 最初からゴーレムに荷物運びを任せたことや、魔物と一度も遭遇しなかったこと、それに二度目ということもあって山の旅に慣れたことが大きいだろう。

 驚いたのはエリだ。

 山旅二度目の俺たちと違ってエリは今回が初めてなはずなのに、元気いっぱいでピンピンしていた。

 むしろ俺のほうが疲れでへばりそうだった。アンナも心なしか疲れた様子。


「エリ、お前山とか慣れてるのか?」

「ん? どうだろ。荷物運びの仕事とかやってたから、歩くのは平気かも」

「山道でもか?」

「そ、山道でも」


 どんな過酷な荷物運びなんだ?


「そういやオーリンズでメシ食ったときにさ、狩りもしてたって言ってたよな。そういうのもお前の体力がすごい理由につながってるんじゃないか?」

「あ、あるかもね。あーでもそれだと大工手伝いの仕事のほうがキツかったかも。いや、畑仕事もなかなか……」


 口元に指を当てて視線を宙に向けるエリ。


「お前……どんだけ仕事してたんだ? 全部掛け持ちしてたら死ぬだろ、それ」

「いやいや、いっぺんにじゃないよ? 臨時雇いとかでね」


 アルバイトみたいなものか。

 今例に挙げた仕事はどれも過酷で泥臭いものばかりだが……エリの容姿からはちょっと想像つかない。

 もっとこう、ウェイトレスとかそういう仕事のほうが似合う気もするのだが。


「お前、かわいいんだからそういう方向の仕事はしなかったのか? どの店で働いても看板娘だろ」

「もちろんやったよ。酒場でも食堂でも雑貨屋でも。私が店員やるとどの店もすぐにお客さんが十倍くらい来ちゃってさ。店がパンクしそうになってどうしようもなくなると次の店に移ってた。おかげでどんな潰れかけの店でも持ち直せる最強の助っ人とか呼ばれてたよ。あはは」


 そりゃそうだろう。

 エリみたいな娘がひらひらの服を着て接客なんてしてたら、客が押し寄せないほうがおかしい。

 というかこいつほんとバイトしまくってたんだな。

 アルバイトマスターエリの称号をやろう。


「エリちゃん、すごいんだねー……」

「お前もちゃんと助手の仕事してるだろ」

「えへへー」


 ぽんと頭に置いた俺の手に、自分の手を重ねて目を細めるアンナ。


「でも偉いよな。働いてたのは家のため、なんだろ?」

「まーねー。じいちゃんにはずっと面倒見てもらってたからさ。少しでも恩返ししないとでしょ」


 なんでもないことのように言うが、エリは本当に立派だと思う。

 そんなこんなで何気ない会話をしながら山を抜け、俺たちはキリアヒーストルに到着したのだった。

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