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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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王子派との出会い

 そして数時間後。教会に集まったのは、二十人ほどの男たちだった。

 礼拝堂に四列ある長椅子に、集まった男たちはそれぞれとまどいの表情で座っている。

 ウェルニーリが祭壇に上がると、みな口々に声を上げた。


「緊急事態の三って……本当なんですか?」「王女様が……」「一体今どちらに」「よかった……生きていてくださったんだ」


 ウェルニーリに促されてアンナが恐る恐る壇上に上がった。


「なんという奇跡か。王女は山を越えてこの町へ来ていらした。彼女がフェリシアーナ王女。マーサウェンス王子とマリア・カーラの間に生まれたご息女に他なりません」


 男たちの間でどよめきが起こる。


「そうだあの子、美少女コンテストに出ていた……」「どおりでお美しいと」「マリア様の面影がある」「本当だ。マリア様そっくりだ」


 男たちは立ち上がってアンナの前に列をなした。

 その一人一人と握手を交わしていくアンナ。


「おお、フェリシアーナ王女様。よくぞ生きておられました」

「いや、あはは……。あたしは王女なんてそんな……」


 突然王女面をしろといったところでそんなことは不可能なのだろう。

 アンナは明らかに困惑した様子で、並ぶ一人一人と握手をしていく。

 俺は礼拝堂の壁に背を預けるようにして、エリと並んで立ってその様子を眺めていた。


「なあ、向こうに立っているのは誰だ?」


 俺のちょうど反対側の壁に静かに立っている人物。

 まるでリズミナのように顔の見えないローブを羽織っている。しかしそのローブは暗い緑色だった。

 エリはなんでもないことのように言う。


「ああ、あの人はリルスウェインだよ。魔術師だね」

「えっ、魔術師?」


 思わず驚いてしまう。

 魔術師という人種はそれほど珍しい。


「そうそう。私が魔術師を見分けられるのは、よくそばで彼女を見ていたからだよ。あまり人と話すタイプじゃないけど、昔から私にはよくしてくれてるんだ。あと、近頃はジュザックとも仲がいいみたい」

「へぇ」


 彼女、というからには女性なのだろうが、顔が見えないので容姿は確認することができない。背は俺やエリよりも少し低い。


「それにしても彼女が一人でいるなんて珍しいな。いつもジュザックといっしょにいるのに」


 そういえば魔術師を久々に見た気がする。キリアヒーストルの王宮にいた頃には、イシュニジルの他にも二人は確認したが。


「そのジュザックっていうのは?」

「ああ、今来たみたいだよ」


 エリの視線を追ってみれば、教会に入ってきた人物がいた。

 使い込まれた銀色の鎧を着ている、スラッとした体格の男。歳は三十過ぎ……おそらく四十はいっていないだろう。精悍な顔にほんの少しのあごひげを生やしている。髪もひげも丁寧に整えられている。目尻が若干垂れていてなんとなく甘い雰囲気の男だ。はっきり言ってイケメン。

 この男なら浮ついた言葉のひとつやふたつ、顔色を変えずに言って女性をその気にさせることが可能だろう。転生前の世界の基準で言えば、ホストでもやってそうな印象だ。


「緊急事態の三と聞いたが……まさかこの子が?」


 ジュザックは驚いた視線をアンナに向けて言った。


「ああジュザック、来てくれたか。そうだ、このお方がフェリシアーナ王女だ」

「確かなのか?」


 ジュザックは射貫くような鋭い眼差しを、今度はウェルニーリに向ける。


「間違いない。私が確認した」

「証拠は?」


 やけに食い下がる。

 他の仲間たちとは反応がだいぶ違うな、この男。


「見た目だけでは他人の空似ということもあるかもしれない。だが彼女はフェリシアーナという名だけでなく、母親の名をシエスタだと教えてくれた。みなは知らないだろうが、それは王子が私に教えてくれたマリアの隠し名なのだよ」


 おや? と思った。

 ジュザックの顔が、さらにするどく歪められたからだ。

 しかしそれは一瞬のことで、ジュザックは眉を八の字にして泣き出した。


「おお、おお……フェリシアーナ様! ああっ、どれほどこの瞬間を待ち望んだことか……お会いしたかった……あああああっ!」


 涙を流してアンナへと駆け寄り、騎士のように床に片膝をついて頭を下げる。そのまま手の甲にキスでもするかのような優雅なポーズだ。


「えっ……あのっ、泣かないでください……」


 おろおろと慌てるアンナ。

 ジュザックはアンナの手を取って言う。


「申し訳ありません! ああ、なんとお詫びすればよいか……。私が死ぬべきだったのです。私がこの命に代えてでも王子をお守りするべきだったのです。そうすれば、王子は……うああああああっ!」


 ジュザックはアンナの手に額を押し付けて号泣した。

 困り顔でアンナはウェルニーリを見た。

 うなずくウェルニーリ。


「ジュザックは王子の影武者だったのです。本来ならば王子より先に死ぬのが役目でした。なので生き延びてしまったこと自体が彼の苦しみなのでしょう。その気持ちをわかってやってください」

「うあああああっ! 王女様! どんなご命令でもお受けします! 職務を果たせなかった責を問われるのならば、今すぐにでもこの首を掻き切り自害いたしましょう! ううううっ!」


 狂乱気味に泣き喚くジュザック。

 その様子に違和感を感じる。

 ジュザックの態度が演技だとはっきり断定できるわけではない。

 それでもなにかこう、うさん臭さのようなものを感じるのだ。


「あっ」


 エリが小さく声を上げるが気にしない。

 俺はアンナの下へ歩いていく。

 そしていまだアンナの手を離そうとしないジュザックの肩に手を置いた。


「……あなたは?」


 ジュザックはようやく顔を上げて、俺を見た。

 その顔は気弱に歪められていて、とても教会に入ってきたときのするどさはなかった。

 返事はウェルニーリがした。


「彼はクリストファーと言って、王女と共にずっと旅をしてきた青年です。何度も王女の危機を救い、支えてきたと聞いています」

「クリス……」


 アンナの不安そうな声色で、頼りにされていると実感する。

 俺はさりげなくアンナの肩を抱いて、一歩下がらせた。

 この男にずっと手を取らせているのが気に入らなかったからだ。

 ジュザックの目には敵意のような色はうかがえない。演技だとしたらたいしたものだが……。

 なんとなくお互い言葉を発せず、ちょっと気まずい空気が流れた。

 そんな空気を破ったのは、エリの底抜けに明るい声だった。


「そうだ! せっかく王女様が見つかったんだからさ。お祝いしようよ! みんなが集まるのも久しぶりでしょ。たまにはこうパーっとさ! わはーっ! 楽しみだなー!」


 エリの言葉に他の男たちも続く。


「そりゃあいい! ならエリのコンテスト優勝祝いもついでだ!」

「ついでって……そりゃないよコリフスのおじさぁん……」


 エリは大げさに肩を落としてふてくされる。


「ははは! それならうちの店の、一番いい酒をちょろまかしてきてやってもいいぜ」

「それなら俺だって。とっておきの料理をこしらえてきてやる」

「なら俺の畑の野菜を使いなよ。マキャラベがよく育ってんだ」


 一気に場は和やかなムードに包まれた。

 ジュザックもふっと笑い、立ち上がる。


「いいですね。それなら私も奮発しましょう。山越えの交易で儲けたお金がたんまりあるんですよ」


 山越え。

 ジュザックというこの男は魔物が蔓延る危険極まりないルートでの商売をしているというのか。

 俺は驚いてジュザックを見る。


「はは。仲間からは命を無駄にするようなことはやめろ、と言われているんですけどね。王子に捧げられなかったこの命。せめてみんなのために使えれば本望なんですよ」


 そう言って笑うジュザックは人がよさそうで、あれこれ勘ぐっていた自分が馬鹿らしい気がしていた。

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