勝負は胸の差!?そして賞品は
美少女コンテストが始まった。
俺は酒場から出て大広場の観客たちといっしょにステージ上の少女たちを見る。
やっぱ美少女コンテストってだけあって、みんな可愛いなー。
あのゴスロリっぽい衣装なんか絶対高い。貴族か王族くらいしか着ないだろ。
あ、あの娘いいな。笑顔で手振ってる。
赤いワンピースと大きなリボンの女の子が愛嬌たっぷりに手を振れば、観客たちは割れんばかりの大歓声。
胸元に付けたネームプレートの番号順にそれぞれ三人ずつがステージへと上がる。
なるほど。あの番号で投票する仕組みだな。
投票券は協賛の露店や商店で買い物をすると、金額に応じてもらうことができるらしい。
ちゃんと町が儲かるようになっているのはしっかりしてるなぁ、と感心させられる。
「お、そろそろアンナの番だな」
前の三人と入れ替わるようにステージ上に上がった三人の中に、アンナの姿があった。
『ワアアアアアアアアアア!!』
耳が! 耳がやべえ!!
今までで最大の歓声が上がって、俺は思わず耳をふさぐ。
その歓声がアンナに向けられているのは明らかだった。
やっぱりアンナは他の娘と比べても抜きんでている。
うれしい反面ちょっぴり寂しい気持ちもある。
なんだかアンナがちょっと遠くへ行ってしまったような……アイドルとファンの距離? みたいな。
アンナたちがステージから下がっても、コンテストはまだ続く。
次々とステージ上の少女たちは交代していく。
やはりアンナが出たときほどの歓声はなく、祭りの終わりに向かって観客たちの間にもどこか弛緩した空気が流れ始める。
そして司会の男性から最終組のアナウンスがあり、いよいよ最後の三人――いや四人だ。一人余ったとしても一人でステージに上げて目立たせるようなアンフェアなことはしないらしい。
その四人がステージに上がったとたん、とてつもない歓声が上がった。
『ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
頭をガンと殴られるような不意打ちの大音量。
慌てて耳を抑えるが間に合わない。
何度か目をしばたたかせて気持ちを落ち着かせると、改めてステージ上へと目を向ける。
いた。
あのエリという少女だ。
セクシーすぎるスタイルであっという間に観客の心を掴んでしまったらしい。
グラマラスなボディと可愛らしい顔のアンバランスさは、神のいたずらとしか思えない。
会場に風が吹いて、エリのシャツがめくれ上がりそうになる。
慌てて腕で押さえたエリだったが、その恰好が大きすぎる胸をことさらに強調する結果になってしまう。
『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
再びの超歓声。
大広場は熱狂の渦に包まれた。
こうしてオーリンズの町の美少女コンテストは大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
「おつかれ。がんばったな、アンナ」
「うん……」
楽屋代わりの酒場へと戻ってきたアンナに俺はやさしく声をかけた。
投票期限は日が暮れるまで。まだこれからと言いたいところだが、先ほどの歓声の大きさを聞いて敗北を悟ったのだろう。アンナは少し気落ちしている様子だった。
最初は興味ないと言っていたアンナも、やはりいざ出てみると真剣に勝ちを意識していたらしい。
「安心しろ。お前は一番かわいい。本当だ」
「本当? あたし、クリスの一番?」
「ああ」
アンナはぱっと笑顔になる。
「えへへー」
俺はその頭を少し強めに撫でてやる。
アンナはされるがままにくすぐったそうにしていた。
裏口から酒場を出て、ちょっと大広場の様子でも見て行くことにした。
露店でなにか面白い物があればアンナに買ってやろう。
しかしその考えは浅はかな過ちだったとすぐに気付かされることになる。
「おおお! 四十一番の子だろう! ひょー! 握手してくれー」
店を出るなり男たちに取り囲まれてしまう。
「俺も俺も!! 握手してくれーーーー!」
「俺が先だーーー!!」
ものすごい勢いだ。さすがのアンナも怯えて俺の背に隠れるようにしている。
「あー、すみません。本人疲れてますんで、そういうのは勘弁してもらえますか?」
「あ? なんだてめえ! 引っ込んでろ!」
俺の対応に顔色を一変させて凄む男。
まいったな。
さすがに魔法を使って騒ぎを起こすのはまずいだろう。
いや、酸欠符くらいなら使ってもいいか?
そう思って懐に忍ばせた手で術符を探っていたときだった。
「こら、あんたたち!」
「ひえっ! メイリーン!?」
メイリーンと呼ばれたのは恰幅のいいおばちゃん。酒場から出てきて男たちをにらみつける。
「迷惑行為は禁止だよ。ほら、この子だって怖がってるじゃないか」
たしかこのおばちゃんは酒場の女主人だったはずだ。店を楽屋として貸してコンテストに大きく協力している。
男たちはメイリーンの迫力に気圧されて、三々五々に散っていった。
「ありがとうございます。助かりました」
「毎年ああいう手合いが少なからず出るんだよ。ったく、面倒ごとを起こされたら大会自体どうなるかわからないってのにね。ま、気にしないことだね。今日のところはさっさと帰ったほうがいいかもね。あんたたち、家は?」
「ああ、宿を取ってます」
「そうかい。誰か店のもんをつけようか?」
「大丈夫です。本当にありがとうございました」
「おばちゃん、ありがとー!」
メイリーンは歯を見せて笑う。
「なんのなんの。これも仕事のうちさね。この町でなんかもめ事に巻き込まれたら、いつでも相談に来るんだよ」
メイリーンは堂々とした立ち居振る舞いだけでなく、本当にちょっとした権力があるようだった。
八百屋や飯屋の肝っ玉女将が町の顔役だった、なんてことは実は珍しくない。
俺たちはメイリーンに深々と頭を下げて宿へと帰った。
その日は外に出る気にはならず、宿で用意してもらったパンとサラダとスープの夕食で済ませることにした。
そして翌日。
起きだした俺たちは朝食でも食べようと宿の一階へと降りる。
廊下を歩いていたところで、宿の店主が声をかけてきた。
「おめでとうございます! ちょうど今お部屋へ行こうとしていたところなんですよ」
「えっ」
店主は満面の笑顔。
手には何やら拳大程度の小さな布の包みを持っている。
「アンナちゃんが二位に選ばれたんですよ! 惜しくも優勝はできませんでしたが、見てください! ちゃんと賞品もありますよ! 今朝運営委員会から届きました」
「ほんと!?」
アンナは目を丸くして声を弾ませた。
店主は今度は得意げに口角を上げた。
「ふっふっふ。お客さんたちは本当に運がいい。この間ウェリアドーラの港に着いた交易船にとてつもない品が積まれていましてね。優勝賞品は伝説の食材でしたが、今回はなんと! 二位の賞品も伝説食材です!」
「わあっ!」
アンナはキラキラと目を輝かせた。
「山向こうの国で数十年ぶりに発見された伝説食材……それはぁぁぁ……」
もったいぶって言葉を溜める店主。
そしてばっと包みを開けた。
「リウマトロスの肉だーーーーー!!!!」
宝石のような輝きを放つピンク色の肉。
「え……」
「あー……」
たぶんそれ、俺が倒したやつだ。
あれだけの量の肉。おそらく国の宝物庫に収めきれなかったうちのいくらかが輸出に回されたのだ。
キリアヒーストルからだと山越え以外のルートでは、スタインハイゼンとエールドギムという北側二つの国を抜けて、そこから海路でということになる。なんとまあ遠路はるばる運ばれてきたものだ。
長旅ご苦労さん、といったところか。
アンナと俺の落胆の声が見事に重なるのだった。




