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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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50/198

胸に凶器を持つ者

 オーリンズの町の中心部。円形に広がる大広場。

 そこはこの日、大勢の人で埋め尽くされていた。

 広場の外周には露店が立ち並び、まるでお祭りのような騒ぎだった。

 いや、事実今日はお祭り。年に一度の美少女コンテストが開かれるのだ。

 広場の一角には仕切りの柵が設けられ、コンテナのような大きい木箱を並べて即席のステージを作っていた。

 ステージが背にしている建物は酒場で、今日は貸し切りで楽屋代わりとなっている。

 俺は一応アンナの関係者ということで、楽屋入りをさせてもらっていた。


「どうかな……クリス、似合う?」

「ああ、すごく……かわいいよ」


 嬉しそうに歯を見せて笑うアンナ。

 アンナはフリルのたくさんついた青いドレススカートに、丈の短い薄手の白のジャケット。昨日のうちに奮発してちょっといいところの服屋で選んだものだった。

 パーティーに出る貴族の娘と言っても通るだろう。

 冗談抜きでめちゃくちゃ可愛い。

 こりゃ優勝はもらったな。

 そう確信した――そのときだった。


「うわっちゃあ! もう始まってる? んんっ? まだ大丈夫そうね! よかったぁー!」


 突進するかのように猛然と酒場に走り込んできたのは一人の少女。

 あまりの勢いに他の出場者の女の子たちからいくつも悲鳴が上がった。

 ふわりとやわらかそうな豊かな髪はウェーブがかかり、たれ気味の瞳はやさしそうな印象。生足を見せつけるかのようなホットパンツにシャツ一枚。背丈は俺と同じくらい。

 歳も俺と近いだろう。よくよく見れば人なつっこそうな顔には幼さが残る。もしかしたら年下かもしれない。

 そしてなんと言っても、その胸が……。

 で、でけえーーーーー!!

 シャツをはちきれんばかりに押し上げているそのふくらみは完全に凶器だ。

 男を殺す凶器。

 そしてその威力を十分に発揮できる露出の多い格好。

 元気いっぱいで明るい雰囲気を持ちながら、妖艶とも言える色香を備えている。

 その少女は俺を見てパチッとウィンク。なぜ?

 さらに少女はあろうことか俺のほうへと近づいて来る。


「ふんふんふーん」


 楽しそうな鼻歌交じりに俺の前までやってきて、キスでもできそうな距離までいつの間にか詰められてしまう。

 ち、近い……。


「う……あの……」


 なんの用だ? と落ち着いて言うべきところが、少女のオーラに動揺してしまって言葉が出ない。

 少女はさらに距離を詰めて俺に顔をどんどん近づけ――。

 近い! 近いよ!

 あああ……なんかいい匂いするし!


「君、魔術師でしょ?」

「えっ!?」


 内心のドキドキに冷や水を浴びせるように、耳元で予想外の一言をささやかれる。


「な、なんでそれを?」


 魔術師を、見た目でそれと見抜くことは俺だってできない。それをこの少女は……。

 少女はにやっと笑う。


「わかっちゃうんだなぁ、これが」


 なぜ? と問う間もない。

 少女はぽん、と俺の肩を叩いて距離を離し、今度はアンナに笑いかけた。


「この子が君のパートナーね。わはーっ、こりゃあかわいい。うん、強敵だ。お互いがんばろー。私エリ。あなたは?」

「アンナだよっ。よろしくっ」


 アンナも楽しそうに笑う。

 根が明るい者同士なにか通じるものがあるのだろうか。なんだかもう打ち解けた友達同士みたいな雰囲気だ。


「へへっ、よろしく! んじゃねー」


 そう言って背を向けてさっさと行ってしまう。

 俺の名前は聞かないんだな……。名乗る間もなかった。

 なんというかパワーのある女の子だったなー。

 ええと、色んな部分のパワーも。


「いつまで見てるの?」


 憮然としたアンナの声。


「い、いや見てない。見てないぞ」


 やばっ。去っていくエリのお尻をつい目で追ってしまっていたのがバレてしまっていたようだ。


「クリスのエッチ」


 唇を尖らせてそっぽを向いてしまう。


「強敵だなーって思ってただけでだな……いやほんと。アンナのほうが絶対かわいい。うん」


 アンナは困ったような笑顔で振り返る。


「もう、しょうがないなぁ。でも気を付けてよね」

「なにをだ?」

「クリス、かっこいいんだから。あんまりスキを見せると誘ってるって思われちゃうかも」


 かっこいいなんて初めて言われた気がするが。


「そ、そうか?」


 まあそう言われて悪い気はしないけど。

 アンナははぁ、とわざとらしいため息。


「なに得意になってるの……ほんと、調子いいんだから」

「ほ、ほら。そろそろ始まるみたいだぞ」


 話を変えるのに都合よく、外の様子がなにやら騒がしかった。

 ざわめきが波を打つように何度も沸き起こる。

 そしてついに耳をふさぎたくなるほどの大歓声が巻き起こった。

 

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