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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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パギャラモとカギギラ

「どうする?」

「興味なーい」


 半目でつまらなそうに口をとがらせるアンナ。

 正直言うとアンナが出場したら優勝するかも、なんてちょっと思う。

 まあ本人が乗り気じゃないというなら仕方ないけど。


「えーと、部屋は?」

「空いてるよ。二階の三番の部屋ね」

「どうも」


 店主からカギを受け取って部屋へと向かう。

 この宿はごく普通の二階建て中規模宿屋らしいが、どうやら美少女コンテストの受付も兼ねているらしい。

 最初に道をたずねたときの男、絶対知っててここを紹介しやがったな。

 異世界で美少女コンテストかー。

 そういうのがあるんだな。

 そういえば行き交う町の人々もどこか楽しそうで、なんとなく浮ついた雰囲気があった。迫るコンテストの日を、町全体が心待ちにしているよう。

 平和な町だな。

 表向きには和平をうたいながらも軍備の拡張に余念がないイリシュアールや、世界侵略の野望を語っていたキリアヒーストルとは対照的だ。

 そういうキナくささが感じられないんだ。

 たしかかつてシャーバンス地方には小国がたくさんあって、お互いに覇を競っていたはずだ。

 それら小国を統一し建国されたのがシャーバンス国。

 以後長きに渡って平和を保っている。

 用意された部屋に入り荷物を放り投げ、ベッドに座って一息ついた。


「リズミナー」


 天井に向かって呼ぶと、返事は足元からした。


「なんだ?」


 ベッドの下からすっと顔を出し、俺の股下をくぐるように現れる。


「なんつーか、お前ほんとすごいな」


 もういつの間にとか、どうやってとか、いちいち突っ込む気にもなれない。


「シャーバンスに来たのはいいけど……例の鈴の文字の調査、どうする?」

「地道に聞き込むしかあるまい。魔物を操るような魔術師の存在とかもな」

「そうだな。魔術関係を当たってみる必要がありそうだ。それはそうと……」


 ぐーとお腹が鳴ったアンナを見る。


「腹が減った。メシ食ってくるわ」

「わかった。私は独自に調査を進めてみよう」


 リズミナは部屋の窓枠に飛び乗って言った。そこから外へ出ていくつもりらしい。


「ああ、またな」


 俺はアンナといっしょに飯屋を探すことにした。





 その店はごく普通の食堂で、それなりに活気があって地元民が主な客層。狙い通りの店だった。

 メニューの冊子をパラパラめくるが、当然知った単語はない。


「なんにしますか?」


 テーブル席に座る俺とアンナのところへ、店員のおじさんが来て言った。


「なにかおすすめありますか?」

「パギャモラがおすすめだよ。うちじゃ一番人気がある」

「それって肉ですか? ええと、動物の頭とか……じゃないですよね?」


 キリアヒーストルで入ったシャーバンス料理店で注文されていたインパクトのある料理を思い出した。

 おじさんは片方の眉を跳ね上げた。


「ああ、お客さん旅の人かい? ウシャラーズのほうへ行けばそういうのもあるけど、この町じゃあんまりやってないねえ。パギャラモは野菜料理だよ」


 それならば肉も食べたくなるな。


「何か肉系の料理あります?」

「カギギラの焼き肉がおすすめだね」

「じゃあそれで」

「はいよ」


 待ってる間、なにげなくアンナに聞いてみた。


「なあ、なんで出たくないんだ? 美少女コンテスト。こう言っちゃなんだがお前はめちゃくちゃ可愛いし、優勝狙えると思うぞ」

「えっ、そ、そう……? えへへ。でもあたしはクリスにかわいいって言ってもらえるだけで十分かなー」

「そ、そうか……」


 一瞬ドキっとする。

 ストレートにめちゃくちゃ可愛いことを言うんだもんなー。

 恥ずかしくてまっすぐアンナを見ることができない。

 ううう、早く料理来ないかな……。


『なあ伝説の食材って知ってるか?』


 聞こえてきたのはとなりのテーブルの食事客の会話。


『リウマトロスに、パールウィーンに、アトマストライト……ええと、あとなんだっけ?』

『キリマルインの実にクラメラ、それからピリスクリだ。他にも知られていないのがあるかもしれねえけどな』

『へぇーよく知ってんな、お前』


 アンナもそのテーブルのほうこそ向かないものの、ピタリと動きを止めていた。話に耳を傾けているのが丸わかりだ。


『ああー一度は食ってみてぇなー。どんな味なんだろう』

『無理無理。俺らじゃ一生かかったって食えやしないさ』

『だよなぁ』


 そのうちのリウマトロスを腹いっぱい食べたことのある身としては、ちょっと背中がむずかゆくなるような話だ。

 アカビタルでは一般庶民も含め町中のみんなで食べたから、彼らにもそのうち幸運が訪れることだってあるかもしれない。

 人生なにがあるかわからないのだ。

 と、そこへ料理が運ばれて来た。


「はい、お待ちどうさま」

「わーーーい!」


 アンナはスプーンを掲げて大喜び。


「これは……すごいな」


 俺は圧倒されてしまっていた。

 パギャラモは一人用鍋といった感じの深皿に入った薄黄色のポタージュスープ。そしてどかんと器の中心に居座るのはどでかいカボチャのような見た目の野菜。

 そのカボチャのような野菜の上部分には、はっきりとわかる切れ込みが入っていた。

 パカっと開けてみれば中には白い米のような粒の山。それに細く切られた赤や緑の野菜たちがきれいに詰められている。

 ふわりと立ち上る白い湯気はじつにいい香りだ。

 さっそくその白い部分をスポーンですくう。

 米のように見えたそれは米よりもかなり大きい。形も不ぞろい。一口食べて口の中に広がるでんぷん質の味わい。種類はわからないが、なにかのイモを小さく切ったものか。

 淡泊な味わいにおや、と思ったがスープを一口飲んでみて仕掛けがわかる。こっちのスープのほうにしっかりした味が付いているのだ。

 つまりスープとカボチャの器の中身を交互に――いや、もしかしたら混ぜてしまってもいいのかもしれない。

 カボチャを傾けようとスプーンで押したら、たいして力を入れてないのにぐずっと崩れた。

 ああ、やっぱり。

 こんなに崩れやすいんだから元々こうしてスープに混ぜて食べる物に違いない。

 器役のカボチャ自体おどろくほどやわらかく、一口食べればトロっとした食感と自然な甘み。

 混ぜてみればどの野菜も、濃くてしっかりした味のスープによく合う。


「んんんーーーー! おいしーーーい! ふんふんふふん」


 アンナはスプーンを加えたまま笑顔で、一口食べるごとに肩を揺らしていた。

 見てるこっちが楽しくなってしまう。

 次はカギギラ。

 よく焼けた薄い肉が、少しずつずらして十枚皿に並べてある。一枚一枚は転生前の焼き肉を思い出す大きさだが、この枚数だと結構食べごたえがありそうだ。

 黒っぽいタレがたっぷりとかかっている。皿の端にちょこんと盛られているのはすりおろしたなにか。

 ショウガやワサビじゃないよなぁ……たぶん。大根おろしでもないし。

 ほんの少しスプーンに乗せて、食べてみる。

 ニンニクだこれ!

 いや完全にニンニクというわけじゃない。

 辛みや香ばしさこそニンニクだが、臭いがスッと抜けて残らない。

 こんなニンニクなら大歓迎だ。

 そのすりおろしたニンニクを焼き肉にタップリと塗って、口へと運ぶ。

 ほんの少しの甘みのある濃い味のタレとニンニクの辛みが、肉のうま味を最高に引き出している!

 少しコリコリとしたこの肉の食感も、初めての出会い。カギギラってどんな動物なんだろう?

 こんなおいしい焼き肉、食べたことない!

 はっとしてアンナを見れば、当然のごとく感動に目をうるませていた。


「お、お、お……おいしいいいぃぃーーー!! クリス! これすっごいおいしい!」

「だな!」


 俺の声もつい弾んでしまう。

 夢中で食べてパギャラモもカギギラもきれいに完食。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまーーーー!!」


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