緑豊かな国シャーバンス
八日目。術符ゴーレム君の活躍もあり、俺たち三人は無事シャーバンスへと抜けることに成功した。
山を抜けた先はキリアヒーストルやイリシュアールでは想像もつかない光景。なんというか、山を抜けてもまだ森が広がっていた。
とにかく緑が豊かなのだ。
漫画とかだとこういう森にはエルフの里とかがあったりするんだよな。
転生前のことを思い出して小さく笑う。
林の中を道なりに歩いていくと、やがて町の市壁が見えてきた。
「やったーーーー!! 着いたーーーーーー!!」
アンナは大喜びでぴょんぴょん跳ねている。
最初こそ森の景色に一喜一憂していたアンナだったが、二日も歩く頃には代り映えのしない景色にはうんざりした顔をしていた。
そのぶん山を抜けた喜びは大きいのだろう。
「やれやれ。お前が無理をして倒れたときは肝を冷やしたが、無事たどり着いたな」
「あ、もうフード被ってやがる」
全身砂色ローブ姿のリズミナは、さっそく顔をすっぽり覆うフードを被っていた。
「町へ入るのだから顔を出したままでいる必要もあるまい」
「まあ、そうだけど」
ちょっと残念というのが本音だ。
おそらくこの町の市壁も魔物対策のものに違いない。特に警戒されるでもなく、開け放たれている門から中へと入ることが出来た。
門横に打ち付けられた石板の彫刻を見ると、どうやら町の名前はオーリンズというらしい。
まっすぐ通る大通りの両側に、木造の家々が狭い間隔で遠くまで続いている。
なかなかに規模の大きい町のようだ。
道行く人々の何人かから好奇の目を向けられる。
衣服や格好は特にキリアヒーストルと変わった感じはしないが、やはり異国人だとわかってしまうのだろうか?
筋骨たくましい職人風の大男に声をかける。
「あのー」
「あん?」
男はいぶかしげな目を向けてくる。
「この辺りの宿を教えてもらえませんか?」
「あんた、旅の人かい……って、もしかして山を越えてきたとか言うんじゃないだろうな?」
男は俺の後ろの門のほうを見て言った。
「ええ、そうですけど」
なんかまずかったりするのか?
しかし男は目を見開いて驚いた。
「はーーー、たまげたな。兄ちゃん若いのにたいしたもんだな」
よかった。特に問題があるというわけではないようだ。
「宿か。そうだな……おっ」
男は今度はアンナを見た。
「おっ、おおお! おいおいおいおいおい! まじかよ。こりゃすげえ! 兄ちゃんラッキーだな! この子も出るんだろ? まさかそのために山を越えてわざわざ? なるほどな。それなら納得だ」
突然喜色をあらわにして興奮気味にまくしたてる。
なにがなんだかわからない。
混乱する俺をよそに男は笑顔でアンナに言う。
「宿ならこの先の大きな十字路を左に行った先にある宿がおすすめだぜ。嬢ちゃん、名前は?」
「ア、アンナ」
男の勢いに押されてさすがのアンナも引き気味だった。
「そうかそうか。アンナちゃん、ぜひ優勝してくれよな! 応援してるよ!」
「はい……あの……あわわ」
アンナもおどおどと慌てている。
男は笑いながら去って行ってしまった。
めちゃくちゃな勢いだったなあの男。
まあいい人っぽそうではあったけど。
とりあえず宿はわかった。
「じゃ、ひとまず宿に行くか」
「うん」
アンナは一度俺を見て、ようやく落ち着いたように返事をした。
リズミナは……やっぱりもういない。
人前では極力目立たないように隠れているんだよな。
ほんと、忍者してるんだなーあいつ。
さっきの男に教えられた宿に入るなり、受付カウンターの――おそらく店主だろう男性が、座っていたイスから立ち上がった。
「はいいらっしゃ――おお、こりゃあすごい! たいした別嬪さんだ。もちろん登録だろう?」
店主はそう言ってカウンターに身を乗り出して言った。
見ているのはやっぱりアンナ。
「いえ、ここが宿だとうかがったものですから。あの、合ってますよね?」
「ああ、客ですか」
憮然とした様子でイスに腰を落とす店主。
なんだなんだ。普通客が来たことのほうを喜ぶもんじゃないのか?
さっきの男性といいこの店主といい、どうも対応が腑に落ちない。
「ええと、その。『登録』ってなんのことですか?」
店主はぽかんと口を開けて、信じられないとばかりに数秒間言葉を失っていた。
「あ、ああ。旅の方ですね。どこか遠くからいらっしゃったんでしょう? シャーバンスに住んでいたら知らないわけはない。このオーリンズの町が誇る年に一度の美少女コンテストのことはね」
「「び、美少女コンテストーーーー!?」」
俺とアンナの絶叫が重なった。




