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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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ゴーレム召喚

 山越えの旅は何事もなく四日目に差し掛かっていた。

 困ることと言えば夜の寝不足くらいで、魔物も初日に遭遇した以来姿を見せていない。

 あとは朝起きたときにアンナとリズミナの二人に抱き枕にされていて、ガッチリ体を両側からホールドされて身動きが取れなくなってしまうことか。

 二人よりも先に起きてしまうのは、サンドイッチにされた窮屈(きゅうくつ)さによるところが大きい。

 狭いテントだから仕方ないものの、せめて抱きついて眠るのはなんとかしてもらえないだろうか。

 無理に起きだそうと身じろぎすれば、体のあちこちがむにむに当たる。その上二人には、動き出した抱き枕を逃がすまいと力を込められるのだからたまったものではなかった。

 そういうとき俺にできることといえば、二人が起きるまで拘束された捕虜のような気分でじっと耐えているしかない。

 両側から吹きかかる熱い寝息を頬に感じながら、決まって自分がチーズになって溶けてしまうような錯覚を覚えるのだった。

 ああ、そうだ。問題はまだあった。


「ふー。ふー。くっ……」

「クリス、大丈夫?」


 荷車を必死に引く俺の顔を、心配そうにアンナが覗き込む。

 元々体力に自信があるわけでもない俺は、連日の寝不足もたたって、荷車を引いての山中行軍はかなり堪えるものがあった。

 アンナに心配されてしまうのだから、今自分はきっとひどい顔をしているのだろう。


「私が代りましょうか?」

「いや、大丈夫だ」


 リズミナも心配そうに訊いてくる。

 女の子に代わってもらうというのはさすがに情けない。

 いくら限界だろうがここはやり通すのが男の意地だ。

 でも、なあ……。

 マジでヤバイ……。

 山をナメていた。

 ゴツゴツとした岩や木の根っこだらけの歩きにくい道。しかも登ったり下ったりと常に傾斜が入っている。そんな道を荷車を引いて歩くのだから体力の削られ方もハンパではなかった。

 なんだろう、視界が狭まって……あ、やば……。

 視界が暗くなって、ふわりと体が浮くような感覚。

 俺の意識はそこで途切れてしまった。





 目を覚ました俺が最初に見たもの。それは太陽の光を後ろに受けて俺を覗き込むアンナとリズミナの顔。


「あ、起きたよ!」


 二人は表情を喜色にゆるませて、お互いに顔を見合わせる。

 その拍子に俺の頭がそれまで乗っかっていたやわらかいものから、ストンと落ちて地面を打った。


「いてっ」

「ああっ、ごめんなさい!」


 リズミナの慌てた声。

 体を起こしてみれば、どうやら二人は体をピッタリ寄せてひざまくらをしてくれていたようだ。

 一人一本ずつひざを貸して。

 そんな不安定なひざまくらだから、ちょっと気を抜いた拍子に頭を落してしまっても仕方ない。


「ひざまくらって、一人でするもんじゃないのか?」


 今度は二人してなにやら難しい顔をしてしまった。


「ははは、俺にひざまくらする役を取り合ったとか?」


 ツッコミはなし。

 二人とも恥ずかしそうにうつむいてしまった。

 え、マジ……だったりするのか?

 なんだろう、この空気。

 二人とも黙ってしまって、ちょっと気まずいんだけど!


「よーし、休んで体力も戻ったし、出発するかー」


 空気を変えようとわざとらしく明るい調子で言ってみる。

 立ち上がって荷車の持ち手に手をかけた俺の腕を、がっしりと掴んでくる二人。


「ダメですよ。これ以上の無理は絶対に許しません」

「うんうん」


 リズミナとアンナは今までに見たことがないくらいに真剣な顔をしていた。


「お、おう……」


 そのあまりの迫力に押されて、無意識にうなずかされてしまう。

 結局荷車はリズミナが引き、アンナは俺の手を引いた。

 情けないなぁ、俺。

 これは本格的に対策を考える必要がありそうだ。

 なにしろ帰りもまたこの山道を通らなければならないのだから。

 馬は使えない。

 そもそもこの山には馬は入りたがらない。本能で魔物の気配を感じるのかもしれない。

 もし無理やり連れてきたとしても、魔物の雄たけびひとつで逃げ出してしまうだろう。

 なにかこう……魔法で、いい感じに荷を運ぶ方法がないものか……。

 うーん……。

 あ!

 思いついた!


「二人とも、ちょっと待ってくれ」

「どうしたんですか?」


 荷車を止めて振り返るリズミナ。

 俺は地面にぺたんと座り込んで、無地の術符を取り出した。


「いい術符を思いついた。ちょっと待ってろ」


 術符の紙片に指を当てて、目を閉じて脳内詠唱を開始する。

 イメージを紙へ流し込む。

 ゆっくり目を開け、青い光の灯る指先を滑らせていく。

 術符に描かれる紋様はインクではない。

 あれは魔力そのものなのだ。

 数分かけて術符を作り終わると。描かれた紋様は光を失って黒く定着する。

 成功だ。

 俺は作った符を地面に貼った。


「なにしてるの?」

「まあ、見ていろ」


 ゴゴゴゴゴゴ……。

 地面がうなりを上げてボコボコと盛り上がる。

 土や石がモコモコとうごめいてやがて人の形を取った。

 人よりやや大きい、二メートルほどの土人形(ゴーレム)


「おおおー!」「ああっ!」


 アンナとリズミナの驚きが重なる。


「さ、交代してくれ」

「え、あ、はい」


 戸惑い気味のリズミナは、交代する間も視線がゴーレムに釘付けになったままだ。

 ゴーレムに持ち手を持たせて、その背中を叩く。

 ズン……。

 ゴーレムは鈍い一歩を踏み出した。

 ズズン……ズン……。


「すごーい! 歩いた! 歩いたよ!!」


 アンナはおおはしゃぎ。


「上手くいったな。知性は持たないけど貼りつけた符を剥さなければ、魔力が切れるまでの間単純な動作を繰り返してくれるはずだ。今回はまっすぐ歩くように設定した。軽く左右を叩いてやれば、ちょっとした方向転換もしてくれる。土人形符(ゴーレムふ)とでも呼ぶか」


 術符化しなければ短い効果時間の間に何度も魔法を唱えなおす必要があるが、符なら長時間持つ。

 まあ効果時間は符に込めた魔力量にも依存するのだが。その点は俺の魔力ならば問題はない。


「………」


 ぼーっとしたまなざしを俺に向けてくるリズミナ。


「どうした? そんなに感心したか?」

「あの、こんなにすごいことができるなら……なぜ最初からゴーレムを使わなかったんですか? くたくたになって倒れるまで……そういう趣味……なんですか?」


 最後のほうは胸元に腕を寄せてちょっと引き気味に。

 絶対勘違いしてる!


「今思いついたんだよ!! Mじゃねえよ!」 


 ま、とりあえず荷運びはこれでなんとかなるだろう。

 俺は小さく息を吐いた。

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