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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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狩猟メシ

「うおっ!?」

「きゃっ!?」


 アンナもびっくりして身をすくませた。


「私たちの体温に反応しているんでしょうか?」


 リズミナは表情を引き締めて言った。


「いや、そんなはずはない。俺が作るのに失敗していなければ、人間は例外設定してあるからな」


 荷車の持ち手からいったん手を離して、周囲に素早く視線をめぐらせる。

 いた。

 木々の間から堂々とこちらを見ているのは大きな熊。姿を隠すつもりもないらしい。完全に俺たちを獲物だと思っている目だ。


「くっくっく。夕飯が向こうからやってきたぞ」

「うわっ、クリス、悪い目してる」

「一応あれも魔物なんですけどね……」


 赤い目をした狂える巨熊が猛然とこちらに突進してくる。

 俺はすかさず火炎符の炎をお見舞いする。


「グアアアアアアッ!?」


 巨熊は突然の炎に包まれて苦悶の雄たけびを上げた。


「はっ!」


 高く飛び上がったリズミナは一息に巨熊の背後に回り込み、巨熊は後ろを振り向く間もなく首筋から血しぶきを上げた。巨熊を飛び越える一瞬の間に、手にしたナイフで急所の頸動脈を的確に捉えていたのだった。

 リズミナの戦闘を直接目にするのは初めてだが、まさに暗殺者のごとき致命の一撃だった。

 どうと倒れた巨熊はもうピクリとも動かない。


「すごーーーーい! リズミン、かっこいい!」

「リ、リズミン?」


 なんか愛称ついてるーーーー!?

 いつの間に親しくなってたんだこいつら。

「なんだが気が散りますね……まあいいですけど」

 本人は慣れない声援に居心地悪そうにしていた。


「じゃ、この辺にテント張るか」


 ちょうど今いる場所はテントを張るのに十分なスペースがあった。

 動物の皮を継いだテントの頂点の紐を木の枝に縛って、打ち込んだ四つの杭にもテントの紐を通す。小さくて狭いが三人ならぎりぎり寝ることができる四角錐状のテントだ。

 本当に簡素なものだが雨つゆをしのぐには十分だろう。

 テントの中に敷くのは雑巾を編んで作ったようなごわごわのマット。しっかりと燻されていて虫がわかないのが利点だが少々煙くさい。

 俺はテントを張って、感温符を周囲の木に貼り付た。

 風刃符とナイフを使って熊を解体する間、リズミナとアンナは焚火用の薪を拾っていた。

 焼きやすい大きさに切った熊肉に木の枝を刺して、直火で焼く。

 なんだろう、キャンプ飯って感じでわくわくする。

 焼いてるそばから脂がしたたり、火に落ちてじゅうじゅうと音を立てていた。


「はぁーーー。おいしそうな匂い―」


 さっそくよだれをたらすアンナ。

 俺たちは焚火を囲んで、倒木をイス代わりにして座っていた。 


「食料はたっぷり用意してきたけど、節約するにこしたことはないからな」

「そうですね……あ、そろそろ焼けてきたんじゃないですか?」


 ん? なんかリズミナも楽しそうだ。そわそわしているように見える。

 指摘したらせっかく楽しんでいるところに水を差してしまうかもしれない。

 たまにはリズミナともいっしょにわいわい食事を楽しみたかったから、からかいたい気持ちはぐっと我慢しておこう。


「そうだな。ほい、リズミン、塩」

「あ、ありがとうござ――って、その呼び方ーーー!」


 俺が差し出した塩の瓶を受け取ったところで、愛称呼びに気付いたリズミナは慌て顔。

 やっぱ我慢無理だわ。

 だって慌てたリズミナ、面白いもん。あと、まあ……可愛いし。


「なんだよ、アンナにはそう呼ばせてたくせに」

「それはそうですけど……うーーーー」


 恥ずかしそうにうつむくリズミナ。

 リズミナから塩の瓶を受け取り、今度はアンナへ。

 アンナはサッと塩を振ると、瓶を押し付けるように返してさっそく肉にかぶりついた。


「あつっ、あふぅぅ! でもおいしぃぃーーーーー!!」


 どれ、俺も。

 串に刺した肉は不格好で、なんだか骨付き肉のできそこないみたいな見た目だ。

 それでもたっぷりと脂をしたたらせて、こんがりと焼き色が付いたそれは、見るからにうまそうに出来上がっていた。

 塩を振って一口。


「ん、結構いけるな」


 勝手な先入観で熊肉は臭みがありそうだと思っていたが、そんなことはなかった。

 これはただの熊でなく魔物の熊というのが関係しているのだろうか? それとも狩ったばかりで新鮮だからとか。

 少々脂がきつすぎる気がするが、これは部位による違いだろうか。まあ野生動物の解体なんて詳しくないしな。適当に食えそうな部分を切っただけだから、こういうこともあるだろう。

 若干堅い気がするが、問題ない範囲だ。


「はうぅぅーーーー。はふぅぅーーーー」


 リズミナがめっちゃとろけた顔してるーーーー!?

 口元からこぼれた脂がたれ落ちているのにも気づいてない。


「お、おいリズミナ……?」

「はふぅぅ……なんでひゅか?」


 口に肉を詰め込んだまま返事をするリズミナ。


「肉、好きなのか?」


 コクコクコクコク。

 幸せ笑顔のままものすごい勢いで何度もうなずくリズミナ。

 その口は休むことなく肉を噛み続けている。

 そしてようやくごくんと飲み込むと、長い息を吐いた。


「はぁーーーー。おいしぃーーーー。私、お肉ってあんまり食べないんです。だからどうしても……はしたないところを見せてしまったかもしれないですけど。ごめんなさい」

「いや、気にすることないぞ。おいしい物をおいしそうに食べて悪いことなんてなにもない。それにいつも最高にうまそうにメシを食べる名人がそこにいるしな」

「おいしい! おいひい! はふ、ほふっ! んんんんーーー!」


 言われたアンナ本人は夢中で肉をむさぼっている。

 重くて持つのがつらいくらいの大きさなはずなのに、もうその肉はほとんどがなくなっていた。

 俺は新しい肉に枝を刺して火に当てた。

 幸いおかわりはいくらでもある。

 俺たちは日が暮れるまでバーベキューを楽しんだ。

 そして三人でテントへ入り、毛布を被る。


「せまい……ですね」

「だ、だな……」


 なぜか俺は真ん中。

 なんとなくこうなる予感はしてたんだよな。

 いや、正直言うとちょっと期待してた。

 でも二人とも俺が真ん中ということに突っ込んでくれない! その位置はまずいよ! とか、端っこ行って! とか誰も言わない。

 ピッタリと体をくっつけてくるアンナと違い、リズミナはなんとか空間を空けようと努力しているようだが、ほとんど無駄に終わっている。俺は体の両側からやわらかい圧迫を受けるハメになってしまった。


「ふぁぁ……おやすみぃ」


 アンナは心地いい位置を探るようにごそごそ体を動かして、あっという間に眠ってしまう。


「おやすみ……なさい」


 リズミナは遠慮がちな声。ちょっと恥ずかしがっているようだ。


「おやすみ」


 言ってはみたものの、俺、ちゃんと寝れるだろうか。

 正直この状況では、まったく自信がなかった。


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