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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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いざ!シャーバンスへ!

 そして二日後。俺たちは温泉の町アカビタルへ再びやってきた。

 前に来た時はアンナと二人で温泉を楽しむ目的だったが、今回は違う。

 この町はシャーバンスへ向かう山越えルートの玄関口でもあるのだ。


「これはこれは、クリストファー殿。よく来てくれました」


 建物に入るなり喜んで出迎えてくれるのは、以前も泊ったこの宿の店主。たしかガレンという名だったはずだ。


「殿、はやめてください。はずかしい。クリスでいいです」


 前回来たときにリウマトロスの脅威から町を救って、すっかり英雄扱いされてしまっている。


「ははは、ではクリスさんと。……今日はお泊りですか?」

「ああいえ。実はこれからシャーバンスへ向かうつもりでして。この町の人なら色々とお詳しいでしょうから、なにかお話が聞ければと」


 ガレンさんは若干表情を険しくする。


「山越え……ですか」

「なにかまずいことでも?」


 ガレンさんは口元に手を当てて小さくうなる。


「うーむ……。クリスさんは山越えを目指す人々がどういった人たちなのか、ご存じではないのでしょうな」

「ええ、まあ……」

「全員がそうだとは言いませんが、およそまともとは言いがたい連中が多いのです。国を追われるような大罪人とか、命知らずの冒険家とか。交易で一山当てたい商人もいますね。長い歴史の中でここアカビタルからのルートは魔物が比較的少ないと定着はしましたが、どこまで信用できるのやら。今でも生きて帰ってこれるかは半々だというのがもっぱらの噂です」

「そこまで危険なんですか」


 ガレンさんは深刻そうにうなずいた。


「そんな場所へ、女の子を連れて入るとなると……私としてはやめておけ、と言いたいところですね。クリスさんにはご恩があるのでなおさらです」

「大丈夫だよ、クリスは強いんだから。ね、クリス?」

「まーな」


 ガレンさんはアンナの言葉に、苦い物でも口にしたような顔をしていたが、俺は気にせず軽く返した。

 行くと決めたのだから臆さない。

 必要なのは準備だ。


「で、行くとしたら何日くらいかかるんですか?」

「そうですね……大人の足なら七日もあれば着くはずです。無事なにもなければ、ですが」


 なにもなければ、の部分を強調する。

 心配してもらえるのはありがたいが、さすがにちょっと面倒になってくる。

 俺は話を切り上げたくてこう言った。


「大丈夫ですよ。情報ありがとうございます。物資を調達したら出発します」

「ああ、それなら」


 ガレンさんはここで商売人らしい笑顔を浮かべた。


「私におまかせください。山越えに必要な物ならすべて揃えてみせますよ」

「ぜひお願いします」


 慣れない町での物資の調達となると一仕事だ。任せられるのなら任せてしまったほうがいい。

 ガレンさんの申し出はありがたかった。





 俺はガレンさんが用意した物資を積んだ荷車を引いて、ついにアリキア山脈の山道へと踏み入った。

 宿のときはそばにいなかったリズミナも、山に入ってすぐに合流した。

 その山は針葉樹広葉樹入り混ざった雑木林で、なかなかに雄大な自然を感じさせる。

 樹海という言葉がしっくりくる。

 道も獣道というほどではないが、かなり細い。

 魔物対策に大部隊を引き連れてくることはたぶんできないだろう。その辺も山越えを難しくしている要因なのかもしれない。

 この緑の景色が冬には雪に覆われて真っ白になるというのだから、今が寒い季節でなくてよかったと思う。

 アンナは木々に覆われた周囲の景色を興味深そうに見回していた。


「森が珍しいか?」

「うん! 木がいっぱいでおもしろーい!」


 イリアたちと逃げ込んだ山も木々の多い森じゃなかったか? と思ったが、そういえばあのときはゆっくり景色を眺めている余裕なんてなかった。

 自宅の裏の森もここまで豊かじゃなかったしな。


「リズミナも、フードを取ってもいいんじゃないか? 俺たち以外に誰もいないんだから」

「……そうですね」


 若干不満そうな目を向けられるものの、意外にもすんなり素顔をさらす。

 短めのツインテールがぴょこんと揺れた。


「意外とあっさり脱いだな」

「あなたが脱げと言ったんじゃないですか。なんでちょっと残念そうなんですか」

「まあ、そうだけど」

「嫌がる女の子を無理やり脱がすのが趣味なんてちょっと変態っぽーい」


 アンナも話に乗っかってきた。


「違うから! 誤解を招くような言い方はやめろ」

「にひひ」


 アンナは悪びれた様子もない。

 歩きながらリズミナが口元に指を当てて言った。


「そういえば、今日はなんで宿に泊まらなかったんですか? せっかくだから一泊していけばよかったのに」

「なんだ、また温泉に入りたかったのか?」

「違いま――いえ、まあ、温泉には入りたいですけど」

「中途半端な時間だからな。せっかくだから今日は少し進んでみて、早めにテントを張ろうと思ったんだ。魔物対策に色々試したい符も用意してある」


 そう言って懐から一枚の術符(じゅつふ)を出した。

 二本の指で挟んだその紙片には細かい紋様が描かれている。


「どんな符なの?」


 アンナはまじまじとその術符を見る。


感温符(かんおんふ)だ。一定の範囲内に高い体温を持つ生物が近づいたら、音で知らせてくれるんだ。これを起動させて周囲の木にでも貼っておけば、魔物が現れてもすぐに分かる。便利だろ?」

「試しに一枚使ってみよー。えいっ!」


 アンナは俺の手から感温符を素早く奪うと、高らかと掲げた。術符は一般人でも魔法を使うことができるようにしたアイテムだ。

 ビー! ビー! ビー!

 アンナが符を使ったとたん、警告音が鳴り響いた。

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