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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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鈴に隠された文字

 俺は自宅へ駆け込むなり叫んだ。


「リズミナっ!」

「どうした、クリス」

「うわぁっ!?」


 びっくりした俺は思わず家の中へつんのめるように倒れかけた。

 リズミナが現れたのは家の中じゃなくて外。俺とアンナの背後だったのだから。


「失礼なやつだな。呼んでおいてそんなに驚くな」


 リズミナはフードで顔を隠していた。

 わかってはいるのだが、石コレクションを前に大喜びではしゃいでいたリズミナと同一人物とはとても思えない。

 顔を覆うフード一つでこうも変わるんだもんなぁ……。

 何度見ても面白い。


「悪い。まさかいきなり後ろから現れるとは思ってなかったからな」


 リズミナは小さなため息。


「まあいい。私もちょうどお前に用があったところだ。クリス、レクレア村跡で拾った鈴のことを覚えているか?」


 当たり前だ。

 というかむしろ今ちょうどその話をしようとしていたところだった。


「そうだ鈴だ。リズミナ、あの鈴の謎を解くカギを見つけたんだ。鈴は今どこに――」

「ついさっき報告があったところだ。あの鈴はなくなった」

「……え?」


 リズミナのなにげない一言。

 俺は言葉の意味を理解するのに数秒の時間を必要とした。


「だから、なくなった。部下に頼んで王宮の魔術院へ送ったから、厳重に取り扱われてたはずなんだがな。考えられない話なんだが、どうも盗まれたらしい」

「盗まれたって……うそだろ?」


 王宮内に侵入しての盗み。そんなことが可能ならどんな貴重な宝物だっていつなくなるかわからないということだし、機密文書は他国へ筒抜けということになる。

 しかし……と、ひとつだけ思い当たるフシがある。

 レクレア村跡で見かけた謎の少女だ。

 幽鬼(ゆうき)かなにかのような異様な雰囲気を持っていた。

 常識では測れない。そんな印象が強烈に残っている。

 あの少女ならもしかしたら、王宮内へ侵入して盗みを働くことも可能なのではないだろうか?

 しかし推測にすぎないし、そもそもあの少女は俺しか目撃していない。今口にしたところであまり意味があるとも思えなかった。


「それより、謎が解けたというのは本当か? 宮廷魔術師を始めとしてさまざまな権威ある者たちが調べたんだぞ。それでも、あの鈴に刻まれていた文字を解読することはできなかった」

「ああ。解読したというより、解読に繋がる可能性に思い至ったんだ。でも肝心の鈴がないんじゃあな……」


 思わず肩を落とす俺。リズミナはローブの下でなにやらゴソゴソ。


「写しならある。これだ」


 差し出された紙にはあの鈴に刻まれていた文字が書き写されていた。

 やった!


「リズミナ! お前本当にさすがだな!」


 リズミナの両肩をがっしりと掴んでがくがく揺さぶる。


「おい……やめ……」


 俺は困惑した様子のリズミナを置いて家の二階へと駆け上がった。

 二階の本棚には各種魔術書の類が収まっている。

 中には相当な価値の本もあるのだが、読んで出したままでベッドの下に落ちてるやつが実は一番高かったりする。

 俺は気になる本を片っ端から床に並べて開いていった。

 リズミナからもらった鈴の文字の写し。

 それは複雑怪奇(ふくざつかいき)な模様が四つ並んだものだった。

 その複雑さがポイントだったのだ。

 今日昼飯を食べた帰りに見ただまし絵を思い出す。理屈はあれに近い。

 そう、この模様は複数の文字が重なってできていた。

 それがわかっても、重ねられた文字を特定するには今まで読んだ書物の知識を総動員する必要があった。

 両親の家で読んだ蔵書の数々、それに王宮で読んだ魔術書。今ここにある本たち……。

 目の前の紙と記憶の中の本。全神経を集中させてそれらを見比べる俺は、アンナとリズミナにはどう映ったのだろう。

 二人はそれぞれ俺の両側にひざをついて、そんな俺を覗き込むようにして見ていた。


「違う。あれじゃない。これも違う……くそっ! 画数が多すぎるっ……!」


 記憶と本の文字を次々とめくっていく。

 一体どれだけの時間、そうしていただろうか。


「クリス、大丈夫?」


 アンナが俺の顔にタオルを押し付けてくる。どうやら気が付かないうちに汗を浮かべていたようだ。

 そこまで根を詰めていたつもりはないんだけどな。


「私も、少し休んだほうがいいと思うな。見ろ、こんなに日が傾いている」


 言われて気付いた。開いた本には影が落ちていて、もう読みにくくなっていた。

 よくこんな状態で解読を続けていたものだ。自分でも驚く。


「そうだな。……二人とも悪い。じっと待っているだけなんて、つらかったろ?」


 リズミナは呆れを隠さない。


「やれやれ。そんな状態でも人の心配か。一番疲れているのはお前だろうに」

「はは。そんなことないぞ。さて、暗くなってからの作業には発光符を貼らないとな……おっと」


 壁に発光符を貼ろうと立ち上がった俺は、一瞬めまいがして倒れ込んだ。

 背中で本棚をしたたかに打ってしまい、一冊の本が頭に当たる。


「いてっ」

「ばかっ! いいから休め! 自分の体を大切にしろ!」

「そうだよクリス! お願い!」


 アンナは目に涙まで溜めてしまっていた。

 俺は今頭に当たった本をなにげなく手に取る。

 どうやら本棚の上に乗っかっていたらしい。

 だいぶ前にただ珍しいからという理由で古書店で買った本だ。

 その題字の文字の、特徴的な曲線。


「これだ!!」


 俺は叫んで二人をがばっと抱き寄せた。


「ふぇっ!?」

「おい、クリス……なにを――」


 驚く二人のことなどお構いなし。

 力いっぱい抱きしめて、俺はようやく当たりを引いた喜びを二人へぶつけるのだった。


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