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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
三章

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異世界ピザとクリーム煮

 俺とアンナはバザンドラの町をふらふらと歩いていた。

 目的は今日の昼飯をどこで食べるかを決めるためだ。

 そう、俺たちは今猛烈に腹が空いていた。


「今日のごっはんっは、なーにかなー♪」


 楽しそうにスキップで歩くアンナ。

 通りの先、その突き当りの店先に飾られている物に目が留まる。

 あれは、画商か?

 立派な額縁に収まる大小さまざまな絵。

 そのうちの一つ。

 遠くからでもはっきりとわかる。あれは……石の絵だ。

 画面の余白いっぱいに描かれているのは石もしくは岩の絵だった。

 他に人物や風景の書き込みはない。

 なんだか石のスケッチ画のようだなと思ったが、それにしては妙に丁寧に、おそらくは油絵具で描き込まれていた。

 リズミナならもしかしたら喜ぶかもな。

 そんなことも思ったが、今の俺たちに必要なのは飯だ!

 アンナも当然同じ思いだったのか、ピタリと足を止めた。

 気付いたのだ。

 突き当りまで行く前に、通りの右側に一軒の店があった。

 飯屋だ。看板にはポドゥカーという店の名前だけ書かれている。

 外から中はうかがえないが、たまには冒険してみるのもいいだろう。

 俺たちは中へと入った。


「いらっしゃいませ」


 店内に入りアンナと向かい合ってテーブル席に座ると、店員だろうおじさんが来て言った。

 店内を見回すと、他に客は五人ほど。

 テーブル四つにカウンター席。普通の規模の店だ。

 テーブルも磨かれてピカピカ。材質には詳しくないが高級そうだ。

 ちょっとお高そうな店みたいだ。

 まあ高すぎなければ大丈夫だけど。

 メニューの冊子をめくると、料金は多少高いもののボッタクリというわけではなさそうだった。


「サウラメリータにテイズカカルチョ、それから……お」


 メニューの中に面白い物を発見した。

 これは絶対アンナは喜ぶ。


「アウルスープお願いします」

「かしこまりました」


 そして料理が来るのを待つ。


「へへへ」


 にやっと笑うアンナ。

 テーブルの下で、自分の足で俺の足をコツコツつついてくる。

 俺が避けようと足を動かすと、アンナも探るように足を動かした。


「はっ、おっ、おっ」

「ほれ、反撃だ」


 両の足でちょこまか動くアンナの足を挟んだ。


「ぎゃー捕まったー! あはははは!」


 などというアホなやりとりをしていると、注文した料理が運ばれて来た。

 サウラメリータ。これは簡単に言えば動物のお肉のクリーム煮だ。このたっぷりの白いソースがこってりしていて大好きなんだ。ちなみに魚の場合だとモヤメリータと呼ばれる。

 テイズカカルチョは堅いパン生地の上にチーズと具材を乗せて焼く。ピザだな。だけどトマトは使われていないしピザよりも分厚い。

 そしてアウルスープ。


「ふぁぁー……」


 アンナはじっとそのスープを見ている。

 それはそうだろう。こんなに鮮やかな青いスープなんてめったにお目にかかれるものではない。

 そしてこのスープには仕掛けがある。


「お、アンナあれ見て見ろ」

「ん?」


 アンナが横を向いた隙に、テーブルに最初からある小さな小瓶の中身を数滴たらす。


「クリス……なんのこと? って、えええええーーーー!」


 これほど驚いてくれるならいたずらのしがいがあるというものだ。

 アンナのスープは青色から赤色へと変わっていた。


「スープが、あたしのスープがなんか……え? え?」


 俺のスープと何度も見比べて驚くアンナ。

 さっそく種明かしをしてやる。


「このスープはな、このちっちゃい瓶に入ってる調味料を入れると、赤くなるんだ。まあ入れすぎると酸っぱくなるから注意が必要だけどな」

「むむむ」


 アンナはなんだか不満そう。


「どうした?」

「なんで勝手に入れちゃうの! それ入れる前のスープの味、わからないでしょ!」

「……ごめんなさい」


 これは俺が完全に悪かった。

 色の変わったアンナのスープと自分のを取り換えてやる。

 赤く濁ったスープの中には、こぶし大の黒いキノコのような塊が入っている。

 それをスプーンでほぐして食べる。

 舌の上ではらりと溶けるそれ自体にはなんのクセもない。海藻か? 植物か? よくはわからないけどおいしいのだから気にしない。

 あっさり系のスープだが小瓶の調味料を足すことで濃いうま味が加わるという仕掛けだ。

 次はテイズカカルチョ。

 両手のひらを合わせたくらいのパン生地の上にチーズがこぼれんばかりに乗っている。野菜や肉もたっぷりだ。

 ピザほど薄くはなく、生地はかなり分厚い。だから食べ応えもがっつり。

 転生前に赤いトマトソースが基本のピザばかり食べていたせいか、俺はさっきアウルスープに入れた酸っぱい調味料をかけるのが好きだ。

 そうして少しの酸味を加えることで、かなりのピザ感が出る。

 ナイフで食べやすい大きさに切って、手で取ってかぶりつく。

 糸を引くようなとろとろのチーズは濃厚な味わいでたまらない。大きめ野菜のゴツゴツした食感も大いに楽しむ。スライスしたブロッコリーに近い食感。

 しっとり火の通った葉物野菜も、いい香りを添えている。

 カカルチョの中でもテイズカカルチョはこの野菜の多さが売りなんだよな。


「んんんんーーーーー!! おいしぃぃぃーーーーー!!」


 アンナ先生もばっちり合格点を出したようだ。

 次はサウラメリータ。

 グラタンとかクリーム煮とか、こういう白い料理の見た目が好き。

 見てるだけで食欲をそそる。だって絶対濃厚なミルク系のコクがあるってわかるもん。

 一口すくって口へ運ぶと、やっぱり思った通りのしっかりとした味わい。

 ああ、たまらない。

 濃厚なうま味が舌に絡んで、この瞬間の幸せを目を閉じてかみしめる。

 肉はなんの肉かはわからないが、やわらかい。繊維の一本一本が、舌の上ではらはらと溶けていく。イメージとしてはやわらかく煮込まれた鳥のモモ肉が近いかもしれない。濃厚なクリームソースと柔らかい肉の歯ごたえが絶妙にマッチしている。

 時折加わる別の食感はネギ系の野菜だ。

 こってりとした味わいに、はらりと乗る香草の香りが色どりを添えている。


「はぅぅーー……お肉とろとろー……おいしいよぉー……」


 アンナは感動に目をうるうるさせている。

 俺もアンナに同意。

 このサウラメリータは本当に大当たりだ。

 最後の最後までスプーンですくい取るのをやめられない。ちょっと貧乏くさいかな?

 さすがに皿をなめるまではしないけど……ってアンナ!?


「アンナ、あんまりそれ、やらないほうがいいぞ」

「ふぇ?」


 ぺろぺろと猫みたいにサウラメリータの皿をなめるアンナ。


「まあできれば……でいいけど」


 キリアヒーストルの宮廷内では誰もやってなかったけど、この世界では結構皿をなめる人は多いんだよな。

 だからもしかしたらあまり悪いマナーではないのかもしれない。

 なので強くは言わない。


「はーーーい!」


 アンナは特に気分を害した様子もなく元気よく返事をしてくれた。

 今日はこってり系の料理を重ねてしまったせいか、だいぶ満腹気味だ。

 支払いを済ませて店を出る。


「お?」


 店を出て横を向けば、気になるのはあの画商。というか石の絵だった。

 近寄ってみると、それは石の絵ではなかった。

 遠くから見ると石の絵だが、近くで見ると動物が四匹描かれている。

 だまし絵というやつだ。

 その瞬間、俺の背中に電流のような閃きが走った。

 そうだ! 間違いない!

 あれは、そういう意味だったんだ!!


「アンナ! 帰るぞ!」

「ええっ!?」


 アンナの手を取って俺は走り出した。


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