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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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34/198

戦いの後

 どうやら軍は撤退を決定したらしい。

 野営地まで戻ってみれば、カイルハザ派ではない兵士たちが、手足を縛られて取り残されていた。


「レメナイリア様! よくぞご無事で」


 涙を流して喜ぶ兵士がいる一方、きつい目でにらんでくる兵士もいた。

 彼らの信頼をどう勝ち取るかは、イリアの今後の振る舞いにかかっているだろう。

 俺たちは手分けして縛られた兵士たちを解放していった。


「みな、すまなかった。私がふがいないばかりに、こんな目に遭わせてしまった」


 拘束を解かれた兵士たちは車座になって、イリアの周りに集まっている。

 俺はその様子を、兵たちの環から少し離れて見ていた。


「今回カイルハザに隙を見せてしまったのは、すべて私の責任だ。本当に申し訳なく思っている」


 イリアは握る拳に力を込める。


「私はまだ将軍になって間もない若輩者だ。今回のように至らぬこともあるかもしれない。その時はどうか私を助けてはもらえないだろうか?」


 兵士たちは顔を見合わせてざわつく。

 俺も内心ハラハラしいた。

 さすがに下手に出すぎではないだろうか?

 これでは兵士たちにナメられるということも考えられる。


「たとえば今回みたいに、猪武者のように一人飛び出してしまうことがあれば、頭をぶっ叩いてでも止めてほしい――こんな風に」


 ゴン、と自分の頭に拳を落してよろめくイリア。

 ちょっと強く叩きすぎたのか、イリアが思わず頭を押さえれば、兵士の中の誰かが噴き出した。

 それに釣られるように周囲から笑いが起こる。


「ったくしょうがねえなレメナイリア様はよ!」「ああ、危なっかしくて見てらんねえ!」「俺はついて行きますぜ! どんな戦場でも!」

「レメナイリア様万歳!」「将軍万歳!」


 最後にはそう言って万歳の合唱が始まった。

 気が付けばついさっきまで険しい目つきをしていた兵士まで、和やかな顔になってしまっている。

 心配はいらなかったな。

 まっすぐな心でぶつかれば、周囲をたちまち虜にしてしまう。

 この人間的な魅力こそイリアの最大の武器なのだ。

 これはひとつのカリスマの形なのかもしれない。

 こいつ、意外と大物になるかもしれないな。

 そしてイリアの演説の後少ししてから、もう一ついいことがあった。

 山で助けられてから意識を失っていた少年が目を覚ましたのだ。


「あれ……ここどこ?」


 医療テントの中。

 見守っていた少女の目から涙があふれだした。


「お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁぁあん!! よかったよぉぉおおお! ふえぇぇぇえぇええぇえん!!」


 抱き合う兄妹。

 その周囲には治療に当たった兵士二人、イリア、それに俺とアンナだ。

 この場に居合わせた全員が笑顔になった。

 ふと、となりに立つイリアが、俺にやさしげな視線を向けていることに気付いた。


「ん?」


 イリアは俺を見ていたことに気付かれたのが少し恥ずかしかったのか、照れ笑い。


「ああ、いや。家族とは……兄妹とはいいものだな、と思ってな」


 言われて気付く。イリアは俺と、その横のアンナを見ていたのだ。


「アンナは妹じゃないぞ」

「え? そうなのか? ……すまない。私には家族と呼べるような人はいないからな。つい間違えた」


 そんな小さなことを、とも思ったが、丁寧に謝るイリアを見れば茶化す気にもなれない。


「それはいいんだけど……」


 家族がいないとはどういうことだろうか。

 訊きたいのは山々だったが、さすがに俺なんかが軽々しく踏み込んでいい話ではないだろう。

 口に出す寸前で留まった。

 イリアは俺の疑問に気付いたのか、なんでもないことのように笑う。


「ああ、たいしたことじゃない。別に隠しているわけでもないしな。私は小さい頃に両親を亡くしているんだ。とある山道を馬車で移動していた最中のことだ。道を踏み外してな。馬車ごと谷底へ真っ逆さまだ。私だけ運良く助かった。その後は祖父に引き取られた」

「じゃあその祖父というのが、あの」

「そうだ。イリシュアールの初代炎神。ロミオ・フレイムズブラッドだ。だが彼とは家族というより、剣の師弟というだけだった。私は別に自分を不幸だとは思っていないし、同情も必要ない。だがな、時折思うことがある。家族の暖かさとはどういうものなのだろうか、と」


 遠い目をして話すイリア。

 その様子からは、イリアがどれだけ幼かった頃に両親と別れることになってしまったのかがうかがえる。

 アンナがイリアのスカートにぎゅっとしがみついた。


「おや?」


 驚くイリア。


「……イリアお姉ちゃん」

「おいアンナ……」


 アンナも母親をなくして一人で暮らしてきた過去を持つ。今の話になにか感じるところがあったのだろう。

 それでも将軍相手にいきなりこれは内心冷や汗物だ。

 アンナは時々大胆にすぎることがある。


「ははは。心配されてしまったかな? 大丈夫だよ。ありがとう、アンナ」


 アンナの頭をやさしくなでるイリア。

 イリアはさわやかに笑った。


「もう夜も遅い。お前たちも今日はそろそろ休んだほうがいい。幸いテントの空きはいくらでもあるからな。その点ではカイルハザのやつに感謝だ」


 冗談めかした調子でそんなことまで言う。

 アンナに元気をもらったのかはわからないが、とりあえず心配はいらないようだ。

 イリアと別れ、兵の一人に案内されて空きテントの一つへと入る。

 ござを敷いただけの寝床に毛布という質素なもの。


「ないよりマシか」


 そう言って毛布の上に座り込んで、もらったパンをかじる。

 長くて堅いだけの粗末なパンだ。

 しかし不当な扱いだとは思わない。

 過酷な戦場では補給が滞ればたちまち兵士たちの間には飢えが広がるし、戦争となれば糧食を狙った破壊工作も当たり前のように行われる。食べ物があるだけマシということだろう。

 そもそも俺たちも一応死なない程度の食糧は持ってきているしな。

 アンナはパンをかじりながらも、目は閉じてうとうとと舟をこいでいた。

 すげえ、寝ながら食ってる……。

 アンナの体に毛布をかけてやる。


「あ、そうだ」


 忘れていた。

 軍の連中はレクレアの村にはびこる魔物を撃退できたことで目的を達成したのかもしれないが、俺たちの目的は調査だ。

 明日はレクレア村跡に行って色々と調べたい。

 俺たちで勝手にこそこそやってもよかったが、イリアには話しておくべきだろう。

 俺は昼間にイリアと話をした一番大きなテントへと向かった。

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