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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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33/198

包囲からの脱出

 ――ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ。

 何本もの矢がすぐ目の前の地面に突き立つ。

 矢を射かけられている!


「集まれっ!!」


 叫ぶと同時に障壁符を展開。アンナを背中にかばう。


「リズミナっ!!」


 ローブ姿のリズミナが音もなく現れて障壁符の範囲に収まる。

 リズミナの腕には一人の男の子が抱えられていた。


「そこの木の上にマウランピョの巣があった」


 意識は失っているようだが、生きている。

 マウランピョは巨大な怪鳥の魔物。

 どうやらこの少年を、エサとして巣に持ち帰っていたということらしかった。

 この少年が、探していた女の子の兄妹であることを願った。


「お前は?」


 イリアは驚いた顔でリズミナを見るが、当の本人は顔を覆うフードをぎゅっと掴んでさらに顔を隠すだけ。

 さすがに将軍に顔を見られるのはまずいよなぁ……リズミナとしては。


「気にするな。ただの連れだ!」


 上空から放物線を描いて降り注ぐ大量の矢が、不可視の障壁の上に次々と突き立ち、みるみるうちに密度を増していく。

 気が付けば密集して突き立った矢で剣山のようになってしまっていた。

 恐ろしいほどの大量の矢。

 まるで万の軍勢に対するかのような量だ。


「ずいぶん慎重だな」

「私を恐れているのだ」


 言われて納得した。

 イリアは炎神と呼ばれて恐れられる剣豪将軍。

 その実力はついさっきレクレア村跡で魔物と戦っていた通り。

 遠距離からこれほどの矢を消費しても、慎重すぎることはないということだ。


「だがこちらからの反応がないとわかれば、今度は中へ踏み入ってくるだろう」


 俺は首をかしげた。


「中まで来るかな? 魔物が出るかもしれないんだろ」

「そういえば魔物の気配がしないな。村で戦ったやつらが今回の事件の魔物の全部だったのだろうか?」


 イリアも困惑顔。

 結論が出ないまま、しばらくじっと待つことになった。


「来ないな……」


 暮れかけていた日がついに沈んだ。

 辺りは夜の(とばり)に包まれる。

 山狩りが始まるならあちこちにたいまつの明かりが見えるはずだ。

 と、視界の先に赤い光点が発生した。

 来たか? そう思った。

 だがそれは予想よりもずっと残酷な現実だった。


「まずい! 火だ! あいつら火を放ちやがった!!」


 兵士の一人が叫んだ。

 ここは森の中。しかもここしばらくは雨も降らず乾燥していた。

 火を放たれればその燃え広がる勢いはあっという間だ。


「くそっ!! 出るしかない!!」


 飛び出そうとしたイリアの腕を掴んで止めた。


「何をする! 離せ!!」

「ダメだ。相手は二千人もいるらしい。いくらお前でもここで飛び出せば相手の思うつぼだ」

「それでも……闇に乗じてカイルハザの首くらいは取ってやる!!」


 本当にイリアは頭に血が上りやすい。

 火の手はどんどんその勢いを増す。

 すぐに俺たちが潜んでいるこの場所まで迫ってくるだろう。

 打開する手段は……。

 夜。

 火。

 考えろ……。

 そうだ!

 手持ちの符にはないが今から組み上げれば作れそうな魔法を思いついた。

 俺は目を閉じて脳内詠唱を開始する。


「どうしたの、クリス?」


 アンナが訊いてくる。


「待ってろ、今見せてやる」


 それだけ言って詠唱に集中する。

 理屈は簡単。

 アカビタルで見た光景を思い出す。

 魔力をイメージ化する。

 そしてそれは現れた。


「お、おおおっ!?」「うわっ!」「なんだこれは!!」


 イリアを含め兵士たちの全員が浮足立つ。

 それも無理はない。

 見上げれば恐ろしいほど巨大な怪物が姿を現していたのだから。


「落ち着け、大丈夫だ! 俺が作った!」


 驚く周囲の視線が、今度は俺に集まる。

 リウマトロス。

 俺が作り上げたのはリウマトロスの見た目だけを再現したハリボテ。時間が経てば消えるだけの代物だ。

 詠唱補助精霊のように特殊な効果を付与しなければ、この程度のハリボテなら即席で作ることは可能だ。

 天を()くようなリウマトロスの威容は、森に広がる炎の光に煽られてさぞ禍々(まがまが)しく見えることだろう。

 人とリウマトロスのスケール差は、人数の多寡(たか)など何の意味もなさないと雄弁に物語る。

 森の外で人間の悲鳴が上がった気がした。

 その辺に転がる石に音響閃光(おんきょうせんこう)符を貼り付け、衝撃符を使って打ち上げる。

 即席の花火は上空まで打ち上げられ、強烈な光と爆音をとどろかせた。

 今度こそはっきりと大勢の人間の悲鳴が聞こえた。

 仕掛けを知らなければパニックに陥るのも無理はない。

 森を焼く炎が迫る。

 俺は氷冷符を使って道を開いた。


「こっちだ」


 森を抜けて外へ出る。

 炎の光に照らされて、蜘蛛の子を散らすように逃げていく兵士たちの姿が確認できた。まさに大混乱といった様子。

 成功だ。

 イリアは森にそびえ立つリウマトロスを振り仰いだ。


「驚いたな……。クリス、お前は私が想像していた以上の、とてつもない魔術師だったのだな」

「いや、そんな大層な魔法でも……」


 頭をかきながら、明かりが炎でよかったと思った。

 赤い光なら顔が赤くなっていたとしてもバレないと思ったからだ。


「はぁ……なにテレてるの、クリス」


 アンナにはお見通しみたいだったけれど。


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