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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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32/198

将器の目覚め

「なんだと!?」


 驚いた声はイリアのもの。

 俺たちは今、山中入ってすぐの森の中。倒れた朽木の上に座っている。

 イリアはすぐにでも森の奥へと入っていきそうな勢いだったが、軍の裏切りを伝えるとさすがに顔色を変えてへたり込んだ。


「カイルハザ……やつだ。兵を用意したのも編成したのも全部あいつなんだ」

「お前は何をしてたんだ……」


 ついに呆れが口から漏れてしまった。

 イリアは悔しそうに唇をかむ。


「言っただろ。私は将軍になったばかりだ。古なじみ以外の兵士からはまだほとんど信用されていない。それにカイルハザには権力がある。兵の人事はやつの思うがままだ。今回私の部隊として選出された百余名は、特にカイルハザの意図が強く反映されていると見て間違いない」


 そう言って五人の兵士に目を向けるイリア。

 五人は兜から露出した口元に不敵な笑みを作った。ここにいる五人がイリアの最も信頼する古なじみなのだろう。


「お前、言ったよな? 一人でも多くの民を救いたいって。その結果がこれなのか? 無策に突撃して、仲間を危険にさらす。知っているか? 今野営地ではカイルハザ派ではない多くの兵士たちが拘束されているそうだ。将軍としての責任を甘く見すぎているんじゃないのか?」

「てめぇ!!」


 五人の兵士は激昂した。

 それはそうだろう。

 軍人でもましてやイリシュアール人でもない俺が突然こんなことを言い出せば、首をはねられたって文句は言えない。

 だが俺も引く気はない。

 イリアはたしかに強い。一騎当千だ。それに(こころざし)も立派。それだけに惜しい。

 こいつが本当の将器(しょうき)に目覚めれば、イリシュアールのためだけではない……もっと大きな流れのようなものがいい方向へと向かう。そんな予感がしていた。


「待て」


 イリアは手のひらで激昂する兵たちを制した。


「たしかにそうだ。……私は自分が情けない。この力が民のためになる。そう信じて剣を振るってきた……しかし」

「そんなことはありません!」「レメナイリア様は立派に戦ってこられました!」「戦場で何度も救われました!」


 兵士たちは口々にイリアを慰める。

 しかしここでイリアを甘えさせるわけにはいかない。


「お前はたしかに強い。一騎当千だろう。だが他の者はそうではないことをよく考えなければいけない。将はそういった者たちを使っていかなければいけない立場なんだ。将が無能だと多くの兵が命を落とすことになる」


 兵士たちはそろって剣を抜いた。

 無能。

 そう言ってしまった俺は彼らの、越えてはならない一線を越えたのだろう。

 今度は態度こそ静かだが、触れれば斬られるほど殺気を兵士たちから向けられる。

 俺自身、自分がなんでこんな偉そうな説教をしているのかわからない。

 魔物たちとの血なまぐさい死闘を繰り広げたことで、アドレナリンが出すぎてしまっているのだろうか?

 俺は異邦人。

 危なくなれば逃げだせばいいだけの気楽な立場。そんな俺の言葉にいったいどれだけの意味があるというのか。

 こんなことは言うべきじゃない。

 頭ではわかっていた。


「本当は、功を焦っていただけなんじゃないのか?」


 イリアがものすごい顔で俺をにらむ。


「違う!!」


 立ち上がったイリアは俺に肉薄すると、襟元(えりもと)を掴んで吊るし上げた。

 すさまじい力。とても見た目的には可憐な細い少女の腕とは思えない。


「ぐっ……」


 息が苦しい。

 イリアは俺の体を片手で持ち上げながら、泣いていた。


「違う! ……違う違う違う!! 私はただ救いたい。助けたかっただけなんだ。私は……私はぁ……」


 ぼろぼろと涙をあふれさせ続けるイリア。

 その顔を見て、ようやくわかった。

 俺はどうしてこんなにもイリアのことを気にかけてしまうのか。

 こんなにも踏み込んだ真似をしてしまうのか。

 ああ、俺は、こいつの……イリアの人としての魅力に気付いたんだ。

 こいつのまっすぐな心を見せられて、それで力になりたいと心から思ったんだ。

 俺はイリアの腕に手を重ねた。


「知っているよ……お前はそんなやつじゃない……。だから、悩め……考えろ……そうして成長するんだ……」


 イリアは俺の襟を放した。


「できるのか、私に?」

「できる」


 俺は力強くうなずく。

 イリアは涙でぐしゃぐしゃになった顔に笑顔を浮かべた。

 ひゅっ――。

 鋭い風切り音。


「がっ……」


 兵の一人が倒れる。

 肩に矢が刺さっていた。


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