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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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31/198

レクレア村跡の死闘

 村はひどい有様だった。

 建物はほとんどが焼けて炭と化している。

 人の姿はない。襲撃されてまだ何日もたっていないはずだが、完全に廃墟だ。


「ゴアアアアアアアアアッ!!」


 ゴリラのような姿の、白い巨体。三メートル近くあるその魔物は、腕の一振りで人間を吹っ飛ばすほどの力を秘めているはずだ。

 コウゴラント。

 巨体から発せられる咆哮は、いやおうなしに人間を威圧する。

 だが勇敢な五名の兵士は怯まない。鋭い剣技で対応していた。

 コウゴラントの一撃を紙一重で避け、お返しとばかりにその腕を斬り上げる。

 強い。

 ただの兵士ではない。

 剣に詳しくない俺が素人の目線で見ても、達人の域に達していると感じた。

 一人の兵士の眼前にコウゴラントの足が迫っていた。

 障壁符起動。

 コウゴラントの足は見えない壁に阻まれて止まった。


「あんたすげえな!」


 助けられた兵士が、術符をかざす俺を振り向いて感嘆の声を漏らす。


「お前たちもな!」


 言いながら火炎符の炎をお見舞いする。


「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」


 右足が炎に巻かれて苦しそうに叫ぶコウゴラント。

 別の兵士が答えた。


「当たりめぇよ! 俺たちはレメナイリア様が将軍になる前から同じ部隊で戦った戦友。剣じゃかなわねぇが心意気なら負けてねえ!」


 そのイリアはといえば、一人で別のコウゴラントの足を斬り飛ばしていた。切断されたその足はくるくると回転しながら宙を舞った。

 血しぶきの代わりに上がるのは落葉(らくよう)のように美しい火の粉。

 バランスを失い倒れたコウゴラントの首に、容赦のないトドメの一撃が突き入れられた。


「あれがイリシュアールの炎神、レメナイリア様だ。祖父の七光りなんてとんでもねえ。ちゃんと二代目襲名してらっしゃる」


 炎をまとう大剣は、見たところ魔術の気配は感じない。一体どういう代物なのか興味が出てくる。

 イリアの強さは大剣の力によるものだけではない。その剣技が際立っているのだ。無駄がなく、美しい。よくできた演武のように完成された芸術に思えた。


「おっと」


 火だるまになったコウゴラントが最後の力を振り絞って攻撃してきた。

 俺の頭上に巨大な腕が打ち下ろされるが――。

 コウゴラントの体を極大の電流が貫く。

 神経の電気信号のやり取りをめちゃくちゃにされてしまい、コウゴラントは黒コゲになった上にけいれんを繰り返すだけになった。

 電撃符。

 成功だな。

 作ったのは最近だがなかなかいい出来だ。

 動けなくなったコウゴラントの体を、兵士たちが切り裂いた。

 イリアはフレイムスカルと対峙(たいじ)していた。

 炎に包まれた頭蓋骨の集合体。

 まるで転生前の日本の昔話に出てくる妖怪のような見た目だなと思った。

 いや、こんな気持ちの悪い妖怪がいたかは覚えてないけれど。

 イリアを敵と認識したのだろうフレイムスカルの体を構成する炎が勢いを増した。


「くっ」


 熱波が俺のほうまで届いてくる。

 だが対峙するイリアは姿勢を崩さない。

 大剣を水平に構えて相手を見据えている。

 大剣の刀身は淡いピンク色に輝いていた。

 フレイムスカルが炎を吐き出す。

 まっすぐにイリアを狙っていた。


「はっ――」


 呼気ひとつ。

 イリアは一息に飛び込んで、その勢いのまま大剣を横なぎに振るった。

 たったそれだけでフレイムスカルは吐き出した炎ごと体を両断されて絶命した。

 信じられないほど研ぎ澄まされた剣技。

 炎を――形のないものすら斬ることができるというのか。

 ばらばらになった頭蓋骨が崩れて地面に転がった。


「危ない!!」


 俺はイリアの死角から巨大なサイが突進してくるのを確認していた。

 モーガス。サイよりも巨大でどっしりとしている。まるで戦車のような威圧感。頭頂部に生えるツノは人間の体など一突きにしてしまえるだろう。

 重機のような突進を、イリアは体をひねることでかわした。

 体を回転させた勢いでモーガスの体を斬りつける。


「ブオォオオオォオオォオオオオ!!」


 モーガスは耳をふさぎたくなるような雄たけびを上げるが、体を大きく切り裂かれても止まらない。

 突進の勢いそのままに、今度は向きを俺のほうへと転換した。

 障壁符を発動させる。

 家一軒は吹っ飛ばせそうなその激しすぎる突進は、見えない壁に阻まれてようやく止まった。


「いいぞ!」


 短く言ってイリアは上段に振り上げた大剣を、モーガスの背後から叩きつけた。

 イリアの大剣は衝撃波すら発生させてモーガスの胴体を真っ二つにすると同時に、激しい火柱を吹き上げた。


「なっ――」


 イリアは一瞬驚愕に目を見開く。

 俺が飛ばした氷冷符の氷柱が、顔のすぐ横を飛んで行ったからだ。

 だがそれは彼女を狙ったものではない。

 氷柱はイリアの頭をかみ砕こうと音もなく忍び寄っていたペンサスネークの頭部を貫通していた。

 一瞬後に振り返り事態を理解したイリアは、俺に笑みを向ける。

 しかし言葉を交わす余裕はない。

 イリアの周りには新たなコウゴラントが三体襲い掛かっていたのだから。

 俺とイリアと兵士たちは、次々と襲い来る魔物の群れを倒していった。

 幸いにしてイリアは一騎当千。さっきの一回以降助けが必要なほどのピンチには至らなかった。

 おかげで俺は兵士たちのフォローに専念できる。

 だが兵士たちとアンナの両方を守りながら戦うのはかなりしんどかった。

 そして魔物の数が多い。戦闘は長時間に及んだ。

 がむしゃらに戦い続けて気が付けば日が傾き始めていた。


「これで……全部か?」


 村の廃墟はあらかたの魔物を片付けて静かになった。


「いいやまだだ」


 イリアは村の向こう、山のほうを見据える。


「あの子の家族が連れて行かれたと言っていた。ならば助けに行くしかない」

「一度戻ったほうがいいんじゃないか?」


 俺はうすうす無駄と思いつつも、そんなことを言ってみる。


「見ていたぞ。たいした腕だ。さすがはリウマトロスを倒した男なだけはある。だが私は行かねばならん。なに、一時間もかからんだろう。ちょっと行ってあの子の兄を助けてくる。それだけだ。帰りたいのならお前だけでも帰るがいい」


 やっぱりか。

 本当に将軍か? こいつ。

 考えなしの突撃が最悪の結果を招くことも、往々にしてあるというのに。


「ついて行くよ」


 こう言うしかないんだよなぁ。

 イリアを始め俺と兵士たちは、魔物たちの死体を踏み越えて、山へと向かった。

 木々が生い茂り、うっそうとして不気味な山の入り口。

 そこまで来たところで、背後から声がした。


「クリス」


 リズミナだった。


「どうした?」

「緊急事態だ。イリシュアールの軍隊が迫っている。その数およそ二千人」

「なんだって!?」


 俺は足を止めた。

 リズミナはここまで走ってきただろうに息一つ切らしていない。


「野営地にいる兵たちは半数が拘束された。もう半数は後続の部隊の息のかかった者だったようだ。こっちへ向かっている」


 脳裏に浮かんだのはカイルハザの陰湿そうな顔。

 テントでの会話を思い出す。

 あの時カイルハザはなんと言っていたか。

 迫る後続の部隊のことを、援軍と偽ることでイリアの警戒心を解こうとしていた。それに戦果を急がせるようなことも。

 イリアを炊きつけて魔物と交戦させ、その背後を突く。

 カイルハザの部隊は後詰(ごづめ)ではなく最初から裏切りのためのものだったのだ。

 俺は前を見た。

 イリアたちはもう山林の中へと入っていったところだった。


「くそ!! どうなってんだ、この国は!」


 俺は急いでその後を追った。


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