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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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30/198

戦闘開始

 野営地を突っ切るようにまっすぐ歩いて、俺たちがここへ来たときの入り口とは反対方向へと出る。

 そこから小さく見える村の影は、全体的に黒っぽかった。


「まさか……」


 俺は思わず息を飲んだ。

 嫌な予感は的中した。


「全焼、だな。おそらく生き残っている者はいないだろう」


 魔物が村に火を放つ? そんなことがあるのだろうか?


「フレイムスカルがいたらしい。常に燃え続けている、空飛ぶ頭蓋骨の集合体だ。山火事が発生した時にはだいたいがこいつの仕業と言われているな」

「他にはどんな魔物が?」

「モーガス、マウランピョ、ペンサスネーク、コウゴラントとかだな。何を考えているのか今もあの村に居座っている」


 たしかに異常だ。

 そんなに多種多様な魔物が、まるで統一した意思があるように固まって行動しているなんて、文献でも読んだことがない。


「どうだ、戦えそうか?」


 イリアは何気ない調子でそう訊いてきた。

 そうだ。俺は彼女に助力を求められていたんだ。

 アンナは真剣な顔で俺を見てくる。

 なら、期待には応えなければなるまい。


「わかった。俺でよければ、力になるよ」

「よかった。見てもらえれば分かるんだが、イリシュアールの第五軍と言うには数が少なすぎるだろう? これは先ほどのカイルハザのやつが親切にも王に進言した結果だ。辺境の田舎の村をなんとかする程度で大軍は出せないとかなんとかでな。だから今は確実に魔物を撃退するために、どんな小さな助けでも欲しい状況だ。クリス、お前の助力は本当にありがたい」


 カイルハザ……なんてやつだ。

 言葉も通じず恐れも知らない魔物は、絶対に妥協が許されない相手。

 隙を見せればあっという間に殺される。

 基本的な身体能力からして人間より高いのだ。

 その魔物が大群でいるとなると、百人程度しか用意しないというのは死ねと言っているようなものだ。


「レメナイリア様!! 前方に人が!」


 一人の兵士が叫んだ。

 見えた。

 まだかなり遠くにだが、たしかに人間がいる。

 こっちへ向かっているようだ。

 魔物の姿はまだ確認できないが、気付かれればすぐにでも追われるだろう。

 イリアは大声で叫んだ。


「救助だ!! 出るぞ!!」


 兵がついてくるのも確認せずイリアは駆け出してしまう。

 その背にはあの紅蓮の大剣が背負われていた。

 俺とアンナもすぐに後を追った。





 それは小さな女の子のようだった。

 よほど慌てているのだろう、何度も転んでは起き上がって走ってきている。

 まずい!

 魔物だ。

 女の子を追いかけるのは人間の大人よりも大きい大蛇。ペンサスネークだ。

 女の子の体など一飲みにできるだろう。

 ペンサスネークはみるみる女の子との距離を詰め、そして――。


「おおおおおおおおおっ!!」


 炎が一閃。

 火の粉を散らしながらイリアの大剣が宙を薙いだ。

 舞い上がる炎が大きく広がり、一瞬不死鳥の翼のように見えた。

 ペンサスネークは胴を両断されて倒れた。

 間に合ったらしい。

 俺も遅れてイリアと女の子の下へ駆けつけた。


「大丈夫か?」


 イリアは炎をまとう大剣を背中の鞘に納めて訊いた。


「う……うぅ……村が、みんなが……」


 心に相当なショックを受けているのだろう。女の子はガタガタと震えてまともな言葉を喋れない状態だ。

 イリアは女の子を優しく抱きしめる。


「大丈夫。もう心配ない。大丈夫だから」


 女の子は顔をくしゃくしゃに歪めて泣き出した。


「うえぇぇえぇえええええん!! 私たち、床下に隠れてて……そうしたらお兄ちゃんが……ひっ、見つかって……ひぅっ……それで連れて行かれて……」


 二十人ほどの兵士たちが後方からやってきた。


「レメナイリア様! ご無事ですか!」

「ああ、彼女を医療テントへ。早く」


 兵士の一人がうなずく。

 女の子は兵士に抱きかかえられた直後、イリアに手を伸ばして叫んだ。


「お兄ちゃんが! 山のほうに連れて行かれて! 助けて! お願い!!」

「ああ、必ず」


 イリアは兵たちに向き直る。


「他の連中はどうしている?」


 兵たちは顔を見合わせた。


「くそっ、仕方ない。私たちだけで始めるぞ。魔物退治だ!」


 兵たちは慌てだした。


「無茶です!」「一度戻って作戦を!」「せめて増援の部隊を待ってからでも……」


 イリアは鬼気迫る顔で村のほうを見据え叫んだ。


「おじけづいた者は来なくていい! 行くぞ!! うおおおおおおおお!!」


 背中の大剣を抜いて走り出すイリア。

 マジか……。

 こんなやつだったのか、こいつ。

 脳筋。そんな言葉が浮かんだ。

 将軍などという肩書があるとは思えない。無策にして無謀な突撃。

 でもまあ、ついていくしかないよな。

 さすがにこのまま見送るというのは危なっかしすぎる。

 そう思って一歩踏み出した俺の横に、兵士が一人進み出た。


「へっ、相変わらずだなレメナイリア様」

「えっ」


 兵たちのうち、何人かは動揺を見せずに進み出てきた。


「ああ、まったくだぜ。おい、お前ら!」


 動揺しない兵は、他の兵たちに言った。


「その女の子のこと、頼んだぜ。絶対助けてやれよ。それがレメナイリア様の願いだ」

「あ、ああ……」


 女の子を抱えた兵士は弱々しく答える。


「行くぞ! レメナイリア様に続け! うおおおおおおおお!!」


 そして五名の兵士たちが、イリアの後を追って駆け出した。

 体育会系すぎるだろ、この人たち……。

 俺もアンナの手を取って後に続いた。



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