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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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麗しき姫将軍

 アリキア山脈側の街道は、以前イリシュアールへ行ったときとはちょうど反対側だ。

 キリアヒーストルとイリシュアールは表向きには敵対関係ではない。

 今回も実にすんなりと入国することができた。

 緑豊かな草原とはいかない。

 やはりイリシュアール側の大地はどこか痩せこけて、生えている木々の数も少ない。それはアリキア山脈に近いこの辺りでも同じだった。

 転生前の世界で例えるならモンゴルの遊牧民が暮らすステップ地帯。

 魔物の被害があったというレクレアの村へ近づくにつれて辺りは物々しい気配になって来た。

 軍だ。

 イリシュアール軍の兵士たちの野営地。

 その数おそらく最低でも百人以上の規模。


「クリス、どうするの?」


 アンナが俺を見上げて聞いてくるが、そこに不安の色はない。

 迂回するにしても辺りは起伏も少ない平原。村へ向かおうとすれば、必ず見張りの兵に気付かれるだろう。


「ま、正面から行ってみよう。門前払いを食らったら、その時はその時だ」


 リズミナは遠目が効くと言っていた。木々はまったくないというわけではなく、人が隠れられそうな岩や木もちらほら見受けられるから、どこからか見ているのだろう。

 俺はテントがたくさん張られている軍の野営地へと足を踏み入れた。


「なんだお前たちは」


 見張りの兵士二人が俺たちに気付いて言う。

 キリアヒーストルの兵士に比べて若干みすぼらしい鎧を着ている。


「どうも。符術士のクリストファーと申します。この辺りに、レクレアっていう村がありましたよね? 何かあったんですか?」


 兵士たちは露骨に顔をしかめて、手で追い払うようなしぐさをした。


「ここは立ち入り禁止だ」

「アダムのおじさん、元気にしてるかなー。はぁー疲れた。はやく家に行ってゆっくりしたいよ」


 もちろん全部うそ。

 俺は兵士が止めるのを無視して野営地の中へ入ろうと試みる。


「止まれ!!」


 槍を突き付けてくる兵士。


「そんなー。せっかくここまで来たんだよー。入れてよー! お願いだよーー!」


 わざとらしく大声を上げてみる。


「ええい! やかましい! とにかく今は何人も村へは通させん。貴様ら、ここがどんな状況かわかってないのか!?」


 言ってから兵士はちっと舌打ち。口を滑らせたことに気付いたのだろう。

 俺はわざとらしく驚く。


「ええっ、じゃあ魔物が出たって話は本当だったんですか!? じゃあ村は……」

「話は終わりだ! 帰れ帰れ!」


 もちろん引き下がらない。


「そんなぁ! 村には親戚が! おじさんが!! 入れろーーーーー!! 中に入れろーーーーー!!」


 アンナも適当に調子を合わせて叫んだ。


「入れろー! うおーー! がおー!」

「こいつら……」


 兵士はうんざりした表情。


「どうしたんだ、お前たち」


 そこへ、野営地の中から一人の人物が歩いて来て声をかけてきた。

 騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。これを待っていた。

 命令だけを守る下っ端より、交渉するならどれだけ偉いやつと会えるかが重要だ。

 見張りの兵士たちより明らかに身なりがいい。将校だろうか?

 驚くべきことに、それは女性だった。

 使い込まれた銀装鎧の胸当て。貼り付けられた金属の装甲板が武骨な紺のスカート。

 豊かな赤毛はきめが細かくサラサラ。ポニーテールは風に揺られて炎のよう。

 そしてその顔は可憐にして凛々しい。姫騎士――そんな言葉がぴったりだ。


「レメナイリア様!!」


 ばっと居住まいを正して敬礼する兵士たち。


「この者たちが急に押しかけてきて、中に入れろと騒いで聞かず」

「符術士のクリストファーと申します」

「アンナだよっ!」


 レメナイリアと呼ばれた騎士の目が、少し見開かれたような気がした。


「入れ。この者たちは私が預かる」

「ええっ!? いやでもレメナイリア様……」

「いいな」


 抗弁しようとした兵士にレメナイリアは軽く目を向けてたった一言。


「……はっ」


 それだけで兵士は表情を固くして直立不動の姿勢を取った。


「ついてこい」


 それだけ言って背を向けて歩き出すレメナイリア。


「侵入成功……ってことでいいんだよな」

「へへっ」


 俺が横をちらっと見れば、にやっとした笑顔を返すアンナ。

 そして連れて行かれたのは野営地の中でも一番大きなテント。

 大きさだけは大きいが、他のテントと比べて豪華ということはない。

 中に入ってもその印象は変わらなかった。

 中央に大きなテーブルが置かれているが、その上の地図は丸めて端に寄せられている。

 その奥に背もたれが高く赤いイス。

 そのイスだけが唯一豪華な家具と言えた。

 レメナイリアはイスに座り、俺とアンナにも背もたれのないイスを勧めてくれた。


「クリストファー・アルキメウス。アカビタルでリウマトロスを倒した件、聞き及んでいる」


 単刀直入にそう切り出すレメナイリア。


「よく信じてもらえましたね」


 リウマトロス討伐の話を知っていたとしても、クリストファーと名乗っただけでそれと気が付くとは。

 俺、初対面ではよく子供と間違われるんだよな。


「一目見てわかったよ。ただ者ではないということがね」

「そんなもんですか」

「ふっ、それ見ろ。今もこうして落ち着いてるじゃないか。ここまで肝の据わったやつはそうはいない」


 なるほど。

 見るべきところは外見ではなく態度。そういうことらしい。

 俺もお前がただ者じゃないってことくらい、さっきから感じてるんだけどね。

 見た目はただ美しいだけの少女。だがその態度や立ち居振る舞いには優雅で堂々とした気品が感じられる。


「私はイリシュアール国軍第五軍将軍レメナイリア・フレイムズブラッド」


 将軍。

 俺も話には聞いたことがある。

 イリシュアールには最強の剣豪と呼ばれて恐れられている、半ば伝説と化した将軍がいたはずだ。

 フレイムズブラッドか。たしかそんなような名だった気がする。

 もっとむさいおっさんを想像していたがとんでもない。

 まさかこんな美少女だったとは。


「意外そうな顔をしているな。まあその手の反応には慣れている。私は将軍の座を継いでからまだ日が浅い、新参者だ。先代の第五軍の将軍はロミオ・フレイムズブラッド。私の祖父だ」


 伝説は先代のほうだったのか。

 この若さで将軍。そして女でこの容姿だ。きっと俺には想像もできないような苦労があったのだろう。

 嫉妬や陰口、もっと露骨な悪意を向けられたりもしたかもしれない。

 それでもレメナイリアはそんなことを微塵も感じさせない自信あふれる笑みを浮かべている。


「お前がここへ来た理由は予想がついている。アリキア山脈の魔物が突如群れをなして襲ってきた件についてだろう?」


 新聞で報じられていたより具体性のある言葉だ。

 魔物が群れで襲う?

 個々で好き勝手暴れるのが魔物の常識のはずだ。もし本当ならそれは重要な情報ではないだろうか。


「いいんですか、そんなことを私に教えてしまって」


 だからついそんなことを聞いてしまう。

 レメナイリアは笑みを深くした。


「クリストファー・アルキメウス。アリキア山脈より下りてきた魔物ども、やつらを撃退するのにぜひ力を貸していただきたい」



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