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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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25/198

追加注文 パーティー料理マイユラヘン

 俺は店員を呼んでマイユラヘンを注文した。

 女性店員はテーブルの上のシチュー皿を見てちょっと驚いた様子だ。食べきれるのか心配したのだろう。

 本来なら四人家族でも十分な量なのだ。

 俺はアンナを指さして苦笑い。すると店員も納得したように微笑んで厨房へ戻った。

 何かのお祝いだと思ったに違いない。それなら多少残しても仕方ないと。

 お祝い用の特別料理。値段も張るし時間もかかる。

 俺とアンナはたっぷり一時間近く待たされることになった。


「クーリースー。まーだー?」

「そろそろだ」


 もう十回目のやりとりだ。

 空になったシチュー皿は脇に避けて、アンナはテーブルに顔を落している。つぶれた頬が餅みたいにぷっくり膨れて口元を押し上げていた。

 足は所在なさげにテーブルの下でプラプラ揺れている。

 俺も、転生前の子供の頃は待つのがつらかったっけな。

 家族旅行で行楽地に向かう途中、高速道路の渋滞に巻き込まれると、車の中で今のアンナみたいにくさってしまっていた。


「お、来たみたいだぞ」

「!!!? っ、痛っ!」


 ばね仕掛けの人形のように体を跳ね上げるアンナ。

 勢いがつきすぎてテーブルの裏にひざをぶつけてしまったようだ。


「おまたせいたしました。マイユラヘンです。しばらくこのままでお待ちください。」


 さっそくスプーンを出してパイ生地に突き立てようとしていたアンナは、店員の言葉に残念そうな顔。


「そんな顔をするな。見てみろ。すぐに始まるぞ」


 テーブルに置かれたのはアンナの一抱えほどはありそうな大きなパイの包み焼き。

 そう、見た目は包み焼きだ。

 その表面にはカップケーキほどの凹凸が並んでいる。

 そして――。

 ポポポン! ポポン! ポポン!

 破裂。

 パイ生地の表面が破れて大きな音が鳴った。


「わぁ」


 アンナは目を丸くしてその光景に見入る。

 スプーンで破れた凹凸の一つにザクっと穴を開ける。

 現れたのはとろみのある餡がかかった肉と野菜の炒め物。見た目はチンジャオロースに近い。


「お、これはシャクチーだな。アンナ、お前も他の開けてみろ」


 言われる前にもうアンナは他の凸凹をザクザクと切って開いている。

 パイ生地で仕切られたカップケーキほどのスペースの中には、それぞれ異なる料理が入っていた。

 揚げた小さな丸いイモ。一口サイズの骨付き肉。白いムースのような料理。剥いた木の実は小指の先ほどの大きさで、どんな味付けがされているのかテカテカと光っている。チーズの乗った肉団子は平たく潰した一口サイズ。赤く色づけされたピラフのようなものもあった。


「すごいすごーーーーい! クリス、これ、ごちそうだよ!」

「そうだな」


 目をキラキラさせて大興奮のアンナ。

 これを初めて見て喜ばない子供はいない。


「いただきまーーーーーす!!」


 さっそく骨付き肉をひょいつつまんで食べるアンナ。


「んんんーーーーー! おいしーーーーーー!」


 俺はイモから。

 表面サックリ中はホクホク。イモの食感と甘みがしっかりと感じられるこれは、どちらかというとフライドポテトというより焼きイモ寄りだな。

 木の実は見た目のテカりから想像した通り、甘い味付け。堅くはなくしっとりとした歯ごたえ。でも香ばしい香りは豆ではなくちゃんと木の実。

 どの料理もすごくおいしくて、子供が好きそうな物。

 野菜炒めも肉がメインだから野菜嫌いの子にも嫌われないだろう。

 俺は肉団子をフォークで刺した。

 これはもう見た目的には一口ハンバーグで間違いない。ひき肉を使っているんだ。

 チーズと肉の組み合わせ。絶対にみんな好きなやつだ。

 食べた感じは……なんの肉だろう?

 この淡泊な感じは鳥肉かもと思ったが、チーズの濃厚さとはよく合っている。

 ムースをスプーンですくって一口。

 とたん広がるバターの香り。なるほど。

 でんぷん質のざらざらした食感。カボチャもしくはジャガイモ? 濃厚なうま味は野菜だけでは出せない。どんな味付けをしてるんだろうか。

 最後にピラフ……はもうなくなっていた。


「おいしいーーーーーー!! しあわせぇーーーーーー!!」


 感激しながらも手を動かすスピードは一切落ちない。

 さすがアンナ。

 二人であらかた食べつくし、ついには仕切りのパイ生地まで崩す段になってアンナが手を止めた。

 気付いたか。


「この下……何かあるよ!?」


 パイを避ければその下には、大きなお肉が隠れていた。

 こんがり焼いたポルポの肉が敷かれていた。

 表面に油を塗って丁寧に焼いたのだろう。こげ茶色の表面からは、すでに香ばしい香りがしていた。


「おおおおーっ!」


 喜び半分驚き半分といったところか。

 アンナは海賊の財宝でも見つけたような顔をしていた。

 この財宝までたどり着くには全部の料理を食べなければいけない。

 肉は冷め始めていたが、それでも脂の乗ったジューシーさは失われていない。

 ナイフで一口サイズに切り分けて、皮つきで口に放り込めば肉汁があふれてうま味が舌を楽しませる。

 アンナ真剣な顔で猛然と肉を口に詰め込んでいた。


「はふっ、はふっ、おいひっ、んっ! おいしいいーーーーー!!」


 俺の腹はそろそろ限界を訴えているのだが、アンナの食欲はとどまるところを知らない。

 結局家族用パーティー料理マイユラヘン、きれいに完食。


「ごちそうさまでした」


 俺は店員に笑顔でそう告げて、勘定を済ませた。


「うぅ……」


 アンナは俺の背におぶられて限界の様子。

 このまま家まで背負って帰ることになりそうだ。

 ま、食後の腹ごなしにはちょうどいい。


「さすがに食べ過ぎたか?」

「おいしかったぁ……」


 肩越しにアンナの顔を確認すれば、幸せそうにとろけた表情でそうつぶやくのだからたいしたものだった。


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