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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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帰還 尾ひれがつく噂

 久々に俺は自宅があるキリアヒーストル領バザンドラへと帰ってきた。

 家の扉に貼られた客たちの貼り紙は、上から赤で注文取消しを表すバツマークが描かれていた。

 国はちゃんと術符を国民へ供給し始めたようだ。

 国に魔術師が何人いるかは知らないが、当分の間はイシュニジルのおっさんが死ぬ気で術符を量産するのだろう。

 過労でくたばるかもしれねーな、あいつ。

 まあその辺りのことは知ったことではないが。

 扉を開けて中へと入る。


「ただいまーーーー!」

「ただいまっと」


 アンナと俺の声が誰もいない部屋の中に響く。

 木造の小さい家の一階は店として使っている応客スペース。六畳ほどしかない。

 待合用のイスが両側の壁際に三脚ずつ。

 そして店主である俺が座る机が一つ。

 奥には二階への階段と台所への扉。

 階段を上り二階へ。

 雑多な荷物が散らかり、窓際にベッドが一つ。壁には魔術書を始めとした古書が収められた本棚。

 アンナがいるのだから新しいベッドを買わなければと思っていて、すっかり忘れてしまっていた。

 ふと、なんとなく予感がして、ポールハンガーを手に取って天井を突く。

 ゴンっと音がした後、天井裏からリズミナが降りてきた。


「こえー、忍者こえー」


 いつの間にかスタンバっていたらしい。


「いきなり呼んでそれか」


 リズミナは顔を覆うフードの下で一つため息。


「どうせ居座るつもりなんだろ。なら普通に部屋にいればいいのに」

「お前の家に天井裏があってよかった」


 まあそれがいいのならそれでもいいけどね。

 アンナはどーーんとベッドにダイブ。

 くしゃくしゃのシーツの上でごろごろ転がる。


「えへへー。やっぱり我が家が一番だねー。うーん、クリスの匂い」

「おい」


 枕に顔を突っ込んで不穏な発言をするアンナを掴んでひっくり返す。


「きゃー! あはははは!」


 なにが楽しいんだか。


「用は済んだか? では」


 それだけ言ってリズミナは天井裏へ消えた。

 と、もう一度天井板が外される。


「そういえば、『ニンジャ』とはなんだ?」

「お前みたいなやつだよ!!」


 ひょっこり顔を出して言うリズミナに、思わず突っ込んでしまうのだった。





 次はカエンのカフェ。

 商店通りの一番外れに、ひっそりと建っているそれなりに立派な建物だ。

 木造なのに古さや汚さは感じさせず、落ち着いたおしゃれ感がある。


「あらクリス。それにアンナちゃん。帰って来てたの?」


 この店の従業員。落ち着いていて優しそうな顔立ちの、俺より三つ年上の女性だ。

 エプロンドレスの上からでもわかる胸の大きさ。豊かな長い髪に白いカチューシャ。


「ただいまーーー!」

「まーな。しばらく王都のほうで……それからアカビタルだ」

「ふふふ。王宮暮らしはどうだった?」


 飛びついたアンナを軽くハグしながら聞いてくるカエン。


「なんだ、知ってたのか」 


 わざと言葉を濁したのだが、カエンは俺が王都で何をしていたのか知っているらしい。


「号外の新聞が配られてたわよ。術符発明の祖、英雄クリストファーって。この町の人ならみんな知ってたのに、おかしいわよね」


 そう言って愉快そうに笑うカエン。

 俺もその新聞には目を通していた。

 城に大穴を開けた件については伏せられている。

 国としては一介の魔術師にそんなことをされたとあっては醜聞もいいところだろう。

 だから伏せられているのはわかるが、そのせいで巷では色々噂が立てられてしまっている。そのなかでも有力扱いされているのはドラゴンが襲ったというやつだ。


「クリス、ドラゴンの撃退にまで手を貸したって書いてあったわよ」

「はは、まさか」


 犯人は俺です! ごめんなさい!

 国が隠している以上口に出すわけにはいかないので心の中だけで謝る。


「これ、土産な。なんでもこの肉、腐らないんだとよ」


 サッカーボール大の大きさの布袋を渡す。

 中には水気を弾く植物の葉で丁寧にくるんだリウマトロスの肉が入っている。

 ステーキなら軽く十人前は作れる量だ。


「えっ、それって……リウマトロス?」

「そうだ。知ってたか」

「知ってるも何も、伝説の食材じゃない! よく見つけたわね」


 口に手を当てて驚くカエン。


「ああ、アカビタルでちょっとな」

「クリスが倒したんだよー」


 得意そうにアンナが付け加えた。


「倒したって……はぁ。新聞の記事も、案外本当なんじゃないの?」


 呆れたような顔をするカエン。新聞の記事とはドラゴンのことだろう。


「そっちは違うよ。とにかく、うまいから食ってくれ。シータさんも一緒に」


 シータさんというのはこの店の店長で、品のいい中年のおばさんだ。


「いいのかしら……これだけの量だと、ちょっとした家が建つわよ」


 金に換算すると、それくらいの価値があるということだ。


「いいんだよ。アカビタルじゃ町のみんなで食ったんだから。それでも全然減らなかったけどな」

「大きいのねえ」

「そりゃあな。例えるならちょっとした城程度はあった」

「本当に!? すごいわねぇ」


 カエンはそのサイズを想像でもしているのだろう。肉の袋を見て感嘆の声を上げた。


「じゃ、そういうことだから。またな」


 俺はそう言って背中を向けた。


「えっ、食べていくんじゃないの? そろそろお昼だけど」

「久しぶりに帰ってきたからな。あいさつ回りだ。メシはどこか適当なところにするわ」


 カエンは笑顔で手を振ってくれた。


「はーい、またね。クリスちゃん」


 油断していたところへ最後にちゃん付け。


「お前なあ」


 店を出ようとしていた足を止めて、一言怒ってやろうと振り返った俺にカエンはやわらかい笑顔。


「帰って来てすぐに、ここへ来てくれたんでしょう? ありがと」

「お、おう……」


 それがあまりにも屈託のない笑顔だったので、なんとなく気勢を削がれて怒る気もなくなってしまった。


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