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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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21/198

宴の夜 町を救った英雄

 あの魔物――リウマトロスは、半ば伝説扱いされている自然災害のような存在らしい。最後にその姿を確認されたのは十年前だという話だ。

 その時は町までは来ず、アリキア山脈の奥地の方角に小さく姿が見えただけだということだ。

 今回発見が遅れたのは、山間部の朝方にはつきものの霧のせいだった。

 姿が見えた時には町までいくらの距離もないという状況。警備隊は決死の覚悟でリウマトロスの注意を惹き、進路をずらそうとしたらしい。

 しかしリウマトロスはまったく意に介さず町へ向かってしまった。もしかしたら警備隊員たちの姿すら認識できていなかったのかもしれない。それほどのサイズ差なのだ。

 だが幸いにして犠牲者は出ずに済んだ。

 そして伝承の通りならその肉はいつまでも腐らず鮮度を保ち、その美味さはあらゆる人間の舌を虜にする。

 リウマトロスは町が総力をあげて調理に取り掛かることになった。

 かくして町は危機から一転お祭りムードに包まれた。


「町を救った英雄クリストファー・アルキメウス殿にかんぱーーーーーーーーい!!」


 アカビタルの町の中央広場。

 日も暮れる頃。ようやく間に合ったリウマトロスの部分焼きを囲んで、盛大な宴が催された。

 リウマトロスの指一本でもポルポの丸焼きくらいのサイズはある。

広場のあちこちで上がるキャンプファイヤーのような大きな焚火は、リウマトロスの肉に鉄棒を刺して焼いている物だ。

 俺は町の主だった面々に囲まれて、ござを敷いただけの地面に座っている。

 そして大皿にたっぷり切り分けられたリウマトロスのステーキを用意される。

 こんがりと火の通ったそれは実に美味そうな匂いを漂わせていた。


「これがリウマトロス……」


 光の加減か、断面が虹色に輝いてさえ見える。宝石のようなピンク色の、不思議な肉。


「町中の人に行き渡る分の肉を焼いても、まだほとんど減っていません。ですがリウマトロスは腐りませんからね。残りは時間をかけて解体して、王都に運ぶ予定です。リウマトロスは金や宝石と同じだけの価値があります。国の宝物庫に保管されるでしょう」


 そう話すのは俺が泊る宿の主人。ガレンと言ったか。


「そんな貴重な肉、いいんですか?」


 その瞬間俺を囲んだ全員がどっと沸いた。


「何をおっしゃいますか! クリストファー殿がいなければリウマトロスを討伐するどころか、多くの犠牲者が出ていたことでしょう。当然ですよ。あっ、もちろんこれとは別にリウマトロス討伐の報酬は、出させていただきますよ。これは町長含め参事会のみなも納得済みです。どうかお納めください」

「何もそこまで」

「いやいやいや、ご遠慮なさいますな。これだけのリウマトロス。国からの褒賞に加えて解体や運搬は大きな雇用を生みます。労働者だけでなく観光客も大勢やってきますし、それらすべてを合わせた利益は途方もありません」


 お金の話を露骨にするのは、俺の遠慮を取り除くためのものだろう。

 ならば乗ってあげるのが礼儀というものだ。


「ありがとうございます。なら腹いっぱい食べさせていただきますよ。でも後悔しても知りませんよ。なにせこいつは、俺よりも大食らいだ」


 そう言ってとなりに座るアンナの肩に手を乗せる。

 アンナは抗議するように頬をふくらませた。


「もう! クリスってば。女の子になんてこと言うの!」


 口ではそう言うものの、アンナは今にも食べたくてウズウズしている様子だ。


「じゃ、食べるか」


 そう言って笑いかければ、アンナのふくれっ面はあっというまに笑顔に変わる。


「おーーーーーーー!!」


 俺はリウマトロスの肉にナイフを入れた。

 わずかな抵抗を残して、すんなりと切ることができた。

 切った肉をフォークで刺して口元まで持っていき、少し観察する。

 キラキラと輝く肉質。

 宝石のように美しい。本当に不思議な見た目をしている。

 そして一口。

 おっ。

 最初の驚き。

 意外としっかりした歯ごたえ。

 硬いとまではいかないが、伝説の食材と言われているだけあってもっと柔らかいと思っていた。

 それもそうだろう。あの巨体を支えるなら肉は筋肉質であって当然だ。


「えっ」


 そう思っていた次の瞬間だ。

 まるで固まった糸をほぐすかのように、口の中で肉の繊維がはらはらと溶けて濃厚なうま味が一気に広がったのだ。

 脂の甘みが舌全体に絡みついて美味しさをアピールしてくる。

 そしてごくんと飲み込めば、すべてが夢か幻だったかのようにきれいに消えてなくなった。

 後味のしつこさなどかけらも残らない。

 うそだろ!?

 気が付けばもう一口行っていた。

 繰り返される夢のような体験。

 こんな肉ならいくらでも食べられる!!

 俺もアンナも獣のようにガツガツと肉を貪り食った。

 軽く一人前があっという間だ。

 俺はアンナのほうを見た。


「ふぁぁぁぁーーーー……」


 アンナはうるんだ瞳で宙を向いて夢見心地になっていた。

 そしてぐっと体を折って力を溜め始め。


「おいっっっしいいぃぃぃぃいいいいーーーーーーーーーー!!」


 歓喜の絶叫。


「クリスぅ。このお肉すごいよ。今まで食べたお肉で一番おいしい!!」

「ああ、そうだな――いてっ」


 俺の後頭部にアンナのチョップが入る。

 なんで叩くのアンナさん!?


「クリス! 超超超おいしいんだよ! そんな冷静な場合と違うよ! もっとこう……あああっ! ダメダメダメ! おいしすぎて言葉がでないよぉぉーーーー!!」

「そうだな。超超超おいしいな」

「うんっっっ!!」


 たった今魔王でも倒してきましたというような、自信満々にして最高のキラキラ笑顔。

 ただでさえ可愛いのに、今この瞬間のアンナは絶対に最強だった。

 俺はスープの器を手に取った。

 白くてトロっとしたポタージュっぽいスープ。

 煮込んだ玉ねぎにバターの香り。

 スプーンですくって一口。すぐに分かった。この食感はパンだ。

 トロトロに煮込まれた茶色っぽいパンは外側の皮の部分か。

 横を見れば宿の主人ガレンさんが、にっと笑う。


「パンの皮もこうして煮込めば定番のスープの材料なんですよ。おいしいでしょう?」


 焚火を囲んでいる連中の中には、白っぽいものを手で持って食べてる人もいた。


「クリストファー殿に教えてもらったサンドイッチという料理。大人気ですよ」


 リウマトロスのサンドイッチ。それはいいな。

 さっそく差し出された皿から一つを取ってパクリと食べる。

 うおっ。

 思わず変な声が出そうになる。

 シャキシャキの野菜の食感とリウマトロスのコラボ。それをパンがふんわり包み込んでいる。

 合うなーこれ!

 そうだ、リウマトロスをトンカツにしてみたらどうだろう?

 サクサクのカツサンド! 食べたいなぁ。

 でもこのサンドイッチもすげーうまい。

 もう一個を手に取ったところで、空になっていた俺の大皿に新しいリウマトロスのステーキが用意された。

 今日の俺のお腹、大丈夫かな?


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