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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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約束の成就

 魔王城跡地は崩れた巨大樹のガレキの山と化してしまったので、城内居住の魔族たちはひとまずその周辺にテントを張って生活することになったが、彼らに悲観の色はなかった。

 元々己の力だけを頼りにその日その日を勝手気ままに生きてきた連中が多い。従うのは自分より力の強い者にだけ。上位魔族の気まぐれでいつ何時殺されるかもわからない中を暮らしているので、この程度の危機は危機のうちに入らないのだろう。

 星呑みの脅威が無事に過ぎ去ったということで、彼らは毎日飲めや歌えの大宴会を続けていた。俺は魔瘴気浄化のシステムを考えるのに必死だというのに、あちこちの飲み会にひっぱりだこ。どうも魔界を救った英雄ということにされているらしい。リアが俺に信頼を寄せて周囲に隠そうとしないのもそれを助長していた。

 アンナたちも魔族たちのただ中にいるというのに危険なことは一度もなかった。

 そしてリトタキとの戦いから一週間の時が流れた。


「リア、見てくれ」

「なんじゃこれは?」


 魔王のテントに俺が運び込んだのは銀色に輝く金属の箱。ちょうど両手で抱えられる程度の大きさだ。 


「できたんだよついに。名付けて魔瘴気清浄器ましょうきせいじょうき。地下から湧き出す魔瘴気を自動で吸い上げて魔力に変えて放出する。動力はもちろん魔瘴気だ」

「な……な……」


 わなわなと震えるリア。


「なんじゃとぉぉぉおおおおおおおーーーーーーーーー!!」


 絶叫がテントの外まで響き渡った。

 何事かと入り口から顔を覗かせる魔族たち。

 リアはぺたんと地面にしりもちを突いてしまった。


「は……はは……。信じられん。そんなゆめのようなものが……ありえん……ありえぬ……」


 呆けたような顔を晒してぶつぶつとつぶやいている。

 俺は肩をすくめた。


「出来ちまったんだから仕方ないだろ。ちなみに自動修復機能もついてる。溶岩の中に放り込んでも大丈夫だし、どんな酸をかけても溶けることもない。およそ考えうる限りの方法ではこいつを破壊することは不可能だ」


 術符の応用だ。

 魔瘴気を術符に込めたら? というアイデアを術符以外に広げて考えた。物質化魔法で作り出した超金属に、術符のような魔術回路を刻み込んだのだ。箱の内側に刻まれた魔術回路は魔瘴気の供給を受けて半永久的に機能する。

 今までの俺だったらもちろんこんなものは作れなかっただろう。だが魔王を超えるレベルの魔瘴気を取り込んで、自在に使うことができるようになった今ならば不可能ではない。今の俺はおよそ実現不可能と思えるイメージまで魔法化することが可能になっていた。


「設置場所ももう考えてある。リアが眠っていたという地底深く。あそこが魔瘴気の流れの最も安定した場所だから眠りの地に選んだんだろ?」


 ようやく我に返ったリアは俺を見てうなずいた。


「うむ。じゃがおろらくリトタキにめちゃくちゃに破壊されておるであろう。鏡の入り口を使っても、入った瞬間ぺしゃんこになるのがオチじゃ」

「ま、大丈夫だろ。今の俺ならな」


 俺はほとんど自由自在と呼べるほどの力を手にしてしまっていた。地中深くに突然放り出されたとしても、空間を掘り開けて箱を設置してくるくらい簡単にできるはずだ。


「それにしても信じられぬ……信じられぬ……」


 リアは銀の箱をいろんな角度から見たり、触ってなでたりつついたりしながら、しばらく「信じられぬ」を繰り返していた。


「今までの俺の符術士としての技術の積み重ねが役に立ったってことだよ」


 もちろんこの一週間は色々調べたり試したりで必死だった。

 魔瘴気の元凶が、たとえばなにか邪悪な存在が地底にいるのだとしたらそいつを倒せば済む。だから地中深く魔法で穴を掘って調べようともした。結果は灼熱のマグマがあるだけだった。そのせいであわや噴火の危機を招いてしまったりもした。

 つまり魔瘴気の発生はどうやら特定の元凶というより、この世界――惑星の特性として捉えるしかないという結論に至った。

 そして試行錯誤の果てに作り上げたのがこの魔瘴気清浄器というわけだ。


「世界の魔瘴気が浄化され、新たに発生する魔瘴気もない。魔族はゆっくりと数を減らしていくかもしれないが……寂しいか?」


 リアはしずしずと俺に歩み寄り、ゆっくりと体を寄せて背中に腕を回す。


「余はうれしい……。クリス、余は今心の底から満ち足りた気分じゃ。すべてお主のおかげじゃ。……ありがとう」

「どうだ? お前の世界に光は差したか?」

 リアは俺の胸に頬を押し付けるようにして、うっとりと言った。

「うむ。……まぶしいくらいじゃ」


 テントを覗いていた魔族たちから「おおーっ」という歓声が上がった。


「騒がしいの……そういえばここはあの日の夜とは違っておったな」


 野次馬の視線を気にして目を逸らすリアは憮然(ぶぜん)とした顔。野次馬を呼び寄せたのはさっきのお前の絶叫だろ、というツッコミは飲み込んだ。

 リアが言うのは月の見える窓がある部屋でずっと泣いていた夜のことだ。


「魔王の威厳とかを気にしているのか?」

「当たり前じゃ。城がのうなった今こそ、余がしっかりとみなを導かねばならぬ」

「俺の胸で泣いていたお前も可愛かったけどな」

「なっ――」


 リアの顔にサッと赤みが差す。それからぶすっとした半目で俺をにらむ。


「うう……いじわるじゃ。お主はやっぱりいじわるじゃあ……。のう、クリスよ……」

「なんだ?」

「あの日の夜。なんであの部屋で余が泣いておったか、わかるか?」


 その理由ならあの夜に聞かされていたが……たぶん違うことを聞いているのだ。

 魔王に似つかわしくないボロの部屋。そういう意味だろうか。


「月が見えたからか? あの城には窓が少なかったな」

「それもある。……が、一番の理由は余が魔王になる前に過ごしておった部屋だからじゃ」

「それは……」


 魔王になる前。

 リアはあんな狭い部屋で暮らしていたというのか?


「魔王とは魔瘴気に対する適応力の最も優れた者。それはなにも魔族に限った話ではない。余は幼き頃に人間界から連れてこられ、魔王候補の一人としてあの部屋で教育を受けていたのじゃ。だから魔王になってからもつらいことがあると、よくあの部屋にこもって泣いておったのじゃ」

「お前……人間だったのか!?」


 衝撃の告白だった。


「しっ、あまり大きな声を出すでない。魔族の中には人間に対する偏見を持つ者も多い。人間が魔族を見るようにの。だからこれは秘中の秘じゃ。まあ人間と言ってもあくまで魔王になる前の話だから、今は元人間と言ったほうが正しいの」

「なんでそんな重大な秘密を俺に?」


 リアはにっと笑う。


「お主には知っておいてほしかったからじゃ。余のことは……なんでもの」


 その笑顔にはなんの気負いも取り繕いもない。本当に自分のすべてを俺にさらけ出そうとしてくれているのだ。そのリアのいじらしさに、思わず頬が熱くなるのを感じた。


「リア……」


 そこへ新たな声が加わった。


「クリスーーーー! 今アキラスさんが来てね……あっ、アキラスさんっていうのはドラゴンさんでね。それでアトマストライトをいーーーーっぱい持ってきてくれたの! って……あーーーーーっ!」


 俺とリアが抱き合っているように見えたのだろう。アンナはこちらを指差して叫んだ。


「ずるーーーーーい! あたしもーーーーーーー!!」

「おわあっ!?」


 俺とリアはアンナに突き飛ばされるようにして床に転がった。そして倒れた俺の上に覆いかぶさるアンナ。

 いっしょに倒されたリアは目を閉じて、怒るでもなく肩をすくめていた。


「えへへ……」


 にっこり笑うアンナ。

 俺はアンナに笑みを返した。


「で、話の続きは?」

「うん。ドラゴンのアキラスさん、おーーーーーっきな巣を持ってきて「掃除を頼んだ」って言って落っことすもんだから、みんなびっくり。もうちょっとで押しつぶされそうになった魔族さんもいたんだよ! その巣にアトマストライトがいーーーーーっぱい生えてるの! すごかったーーーー。それでね……」


 アンナの話はまだまだ続きそうだった。

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