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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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侵入!魔王城

 そして半日後。


「よし、あがりだ。……うーん」


 俺は手札をテーブルの上に投げ出して、一度背を伸ばした。


「またクリスの勝ちですか」


 リズミナが呆れたように言った。


「すごいです、クリスお兄様」


 ユユナは自分のことのように目をキラキラさせて喜んでいる。


「うーん、今度こそ行けると思ったんだけどなぁー」

「ねえねえ、エリちゃん。次は共同戦線組まない?」


 アンナは俺を横目で見ながらエリに耳打ち。でも話の内容は丸聞こえだ。


「あはっ、乗る乗る」


 エリもエリで乗り気。

 俺たちはみんなでテーブルを囲んで席に座り、トランプに似たカードを楽しんでいた。ゲームの性質上二人で手を組むのはイカサマに相当する。しかし目の前でこうも開けっ広げに言われては文句を言う気にもならない。

 アセルクリラングでもそうだったが、転生してからというものこの手のカードではなぜか負けないんだよな、俺。

 しかし次こそどうやら観念するしかない、そう思ったところで部屋にシウェリーがやってきた。


「シウェリーか。人型に戻ったのか?」


 短剣から人型に戻った彼女は、貴族の令嬢かと思うような気品ある少女の姿をしていた。

 人型のシウェリーをはじめて見るアンナはカードを落として驚いていた。


「シウェリーちゃんなの!? はわぁー……」


 シウェリーは気をよくしたのかにやりと笑う。


「ふふん、いいぞ。これでようやくお前たちも私の恐ろしさに気付いたということか」


 いやシウェリーには悪いがこいつらの反応は……。


「かわいいーーーーー!」


 エリの雄たけび。

 シウェリーはがくっとひざを折って肩を落とした。


「ううう……。可愛いなどと……私は冷酷にして恐ろしい魔族なんだぞ」


 俺はよろけるシウェリーを慰めるように肩に手を置いた。


「ラルスウェインのやつはどうしたんだ?」

「ああ。ラルスウェインは私を使うことが出来ないからな。私がこうして人型に戻ってわざわざ迎えに来てやったというわけだ。感謝するがいい」

「ってことは……」


 シウェリーは表情を引き締めて言った。


「到着だ」


 全員の顔に喜びの色が浮かぶ。待ってましたと言ったところか。

 シウェリーは俺の両肩に手を置いて、まっすぐに見つめてくる。


「え……」


 近づいてくる顔に気付いたのも束の間。

 キスされた。

 みんなが見ている前で。


「あーーーーーー!!」


 アンナの叫び声。

 シウェリーは慌てたように言った。


「勘違いするなよ。これからの危険を考えると再び魔装化したほうが都合がいいと、そう思っただけだ。私は魔王様側の魔族だ。もしクリスが魔王様と敵対するようなことになったら私にはどうすることもできない。だが道具として使われるだけの魔装なら誤魔化しは効く。だからその……魔装化の手続きとしてだな」


 必死な言い訳をしているところ申し訳ないが……その手続きとやらは必要ないとフリタウスからすでに聞いていた。


「ほら、手」


 ぐいっと腕を引っ張られる。

 無理やり手のひらを上向けさせられて――次の瞬間には短剣化したシウェリーがそこに収まった。

 ささっと回り込んできて、アンナも後を追うように俺にキス。


「ほら、早く行こ」


 これ以上ないくらいの笑顔が、少し怖い。


「あ、ああ」


 振り返るとリズミナとユユナも何か言いたげな顔をしていた。

 しかしさすがに、お前たちもするか? とは言えなかった。

 代わりに俺は努めて冷静な声でこう言った。


「じゃ、転移するぞ」





 転移した先は、魔界のどこなのかはわからないが、建物の内部だった。

 壁を構成するのは石積みではなく木。それも木材としての木ではなく生きた木の根っこのように見える。

 細い根が寄り集まって束になり、規則正しく並んで壁になっている。そういう感じだ。

 天井も木の根を編んで作られているような見た目だ。

 それに広い。部屋はちょっとした城の広間程度の大きさがあった。

 俺たちを待っていたのはラルスウェインと、見知らぬ小柄な老人。おそらく彼も魔族だ。


「やや、人間!? これは一体どういうことですか! 調整官殿」

「話した通りだ。緊急事態につき彼らの協力を仰ぐ運びとなった。魔族が人間界に干渉することは禁じられているが、その逆を禁じたルールはない。そうだな?」

「しかし……ここは魔王様の居城。人間を連れてくるなどあまりにも……」


 老人は明らかに狼狽(ろうばい)した様子だ。

 無理もない。魔界の、そのおそらく最奥にあるのだろうこの城へ来た人間はたぶん俺たちが初めてなのだ。


「リトタキ様は?」

「攻め寄せたルニーシアの軍勢を迎え撃つべく出撃中でございます」

「そうか。ここ二百年おとなしかったというのに、やはり最近の異変が原因か」


 老人は深刻そうにうなずいた。


「調整官殿、やはり人間界でも……?」

「ああ。リトタキ様が戻られ次第私から報告させてもらう。この人間たちを城内の魔族たちが襲わないよう言って聞かせられるか?」

「無理です。みな我が強い連中ばかり。わしの言うことなどろくに耳を貸しはせんでしょう」


 ラルスウェインはちらりと俺を見た。

 どうする? と目で訊いてきていた。


「まずは魔王に会いたい。それがここへ来た目的なんだからな」


 老人は今度ははっきりと怪訝な表情を浮かべてラルスウェインを見る。

 ラルスウェインはひとつうなずいて言った。


「そうか、まだ話していなかったな。その魔王だが……どこにいるかはわからないんだ」

「は?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。


「この城で眠りについているという伝説だけがあって、誰もその寝所を見つけた者はいない。三千年の間、ずっとな」

「マジか……」


 そんなことがありえるのだろうか?

 どんなに複雑怪奇(ふくざつかいき)な城の隠された秘密の部屋だって、三千年もすれば誰かしらが見つけていてもおかしくないと思うのだが。

 さて、面倒なことになったぞ。

 さくっと魔王と会って人間界の異変の原因を探るつもりが、当の魔王はどこにいるかわからない。しかも城の魔族たちはいつ俺たちを襲わないとも限らないわけだ。

 戦って負ける気はないが魔族のラルスウェインの手前、派手に暴れるのは最後の手段にしておきたかった。

 一度異空間の拠点に戻って作戦を……。

 そう思ったときだ。部屋の向こうの、入り口のほうから大男が騒がしくやってきた。


「がっはっはっはっは! ルニーシアのクソばばあが! 長く生きてるってだけで調子に乗りやがって! 誰が次期魔王にふさわしいか、その身にわからせてやったぜ!」

「リトタキ様」


 ラルスウェインは大男に向かってうやうやしく頭を下げた。

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