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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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一足飛びの行軍

「うーん……」


 全身に感じるやわらかい感触。そして息苦しさ。


「ぐっ……ぐぬ……」


 なんとか首をひねって息を確保。状況を理解した。

 どうやらエリがいつものように俺を抱き枕代わりに抱え込んで寝ているらしい。でかすぎるおっぱいを押し付けられていたから息ができなかったようだ。


「ふぁ……ふにゅ……」


 顔を動かした俺の髪が頬をくすぐったのか、なにやら小さな声を漏らしている。

 息こそ確保したものの、相変わらずいつものようにガッチリ体を固められていて動けない。

 つーかなんでこいつが一緒に寝てるんだ……。ベッドは全員分あったはずだが。

 昨日はあっという間に寝てしまったからわからなかったが、あのあとベッドに潜り込んできていたのか。

 むにむにとやわらかい感触を、寝間着越しでも感じる。

 首を動かして見ればすぐ横にはアンナの寝顔。反対側にはリズミナ……だけじゃない! 俺とリズミナの間にはユユナが挟まっていた。

 全員か!


「クリス……」


 先に起きていたのだろうか? ラルスウェインがベッド横に立ってこちらに冷めた視線を向けてきていた。


「うわあああっ! ラッ……ラル! そんな目で見ないでくれ!! これは違うんだ!」


 うう、ラルスウェインの冷たい視線が突き刺さるようだ。

 そうだよな、今の俺は女の子に埋もれるようにして寝てる――常識的に考えて不健全な姿だ。だが断じてその――エッチな、そういうのではない。そこだけはなんとしても弁明しておきたかった。

 が、ラルスウェインは小さく首をかしげるだけだ。


「なにを慌てている。ようやく起きたか。ちょっと相談があるんだが、そのままでもいいから聞いてくれ」

「いや、俺がよくない。ちょっと待ってくれ……」


 力を振り絞ってなんとかエリの体を引きはがす。さすがに抱き枕にされたまま相談を聞く事態は回避できた。

 ベッドから降りて上着を羽織り、テーブルに四つあるイスのひとつに腰を下ろした。

 ラルスウェインも対面に座って口を開いた。


「この異空間、中に物を入れて持ち運べるんだな」

「ああ、便利な能力だろ」

「気付いたのだが……なら全員がここにいるまま、一人が外でシウェリー殿を運べばいいのではないか?」

「あっ――!!」


 うっかりしていた。

 たしかにラルスウェインの言う通りだった。

 持ち運びできる無限容量の荷物袋程度に考えてしまっていたが、人を入れて運べばこれ以上ないほどの大型輸送機になる。

 冒険感はなくなって情緒もなにもあったものじゃないが、効率を考えるならそれが一番だ。


「たとえば俺が空を飛べば……」

「飛ぶ? クリスがか? たしかお前はそんな魔法は使えなかったはずだが……いや、できるようになったのか。さすがクリスだ。お前には本当に驚かされる。だが……ダメだ。空を飛べば目立つ。もし敵意ある魔族がいれば余計な襲撃を招くだろう」


 ラルスウェインはそう言って難色を示した。


「そうか……」


 じゃあせめて女の子たちはここにいてもらって、俺だけ歩くという手も考えられるな。

 ラルスウェインはにやりと笑った。


「私がいるじゃないか。空を飛べばたしかに目立つが……私は姿を消すことができる。忘れたか?」

「そうか! その手があったか!」


 姿を消したラルスウェインがシウェリーを持って飛べば、誰にも気付かれることなく魔王の住処(すみか)まで連れて行ってもらえる。


「だが……いいのか? お前ひとりの行軍となると、いざってときに危なくないか? やっぱり俺と歩いたほうが……」

「いざとなったらシウェリー殿に頼んでお前を呼んでもらうから大丈夫だ」


 本当か? 突然襲われたとしてすぐに助けが間に合うとは限らないのでは?

 心配が顔に出てしまっていたのか、ラルスウェインは表情を緩めた。


「そんなに深刻そうな顔をするな。魔界にはお前たちの知らない危険がたくさんある。それらを回避できるのだからリスクはこの案のほうが低い。それに飛んでいけば半日もかからん。いいことずくめだ。違うか?」

「しかし、お前だけに負担を強いるみたいで嫌だな」


 ラルスウェインはさわやかに笑った。


「ふっ、クリスは相変わらずだな。お前はあくまで善意で協力してくれている格好なのに、さらに心配までしてくれるか。本当に呆れたやつだ」

「なんか、よく笑うようになったな」


 正直最初の頃からは想像もつかないほどだ。

 ラルスウェインはびくっとして表情を強張らせた。


「笑って……そうか。そうなのか……。私は今そんな顔をしているのか」


 こいつ、自分が笑っていることに気付いていなかったのか?

 ラルスウェインは普段通りの無表情に戻って席を立った。

 右手だけを出して言ってくる。


「シウェリー殿をこちらへ」

「ああ……」


 俺は鞘に収まった短剣シウェリーをラルスウェインに渡した。


「では……。お前は適当にくつろいで休んでいてくれ」

「クリス、いいのか?」


 シウェリーの問い。


「ああ、頼んだ」


 短く答えた俺の手を取って、ラルスウェインは短剣を持つ自身の手の上に導いた。


「どうした?」


 手を重ねながら訊く。

 ラルスウェインは少し困ったような顔をした。


「私はシウェリー殿の能力を使うことができない。向こうに転送するにはお前の力が必要だ」


 ああそうか。

 シウェリーの能力を引き出すのは魔術を詠唱するようなイメージの技術が必要だ。

 俺が重ねた手の上から集中すると、ラルスウェインは空気に溶けるようにして転移していった。


「んにゃ……クリスー……おはよ」


 目をごしごしとこすってアンナがベッドから体を起こした。


「おはよう」


 アンナに続くように他の面々もゆっくりと起き出したのだった。

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