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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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魔界へ

 ラルスウェイン。

 褐色の肌に局部を隠す布だけのような恰好の少女。なにより目を引くのは大きく広げられた純白の翼だ。

 軽やかに俺たちの前に降り立った彼女は、天から遣わされた天使のような美しさだが、フリタウスやシウェリーと同じ魔族だ。


「ずいぶん早いおでましだな。言っても聞いてくれるとは思わないが、一応言っておく。フリタウスを処罰しようというのなら、それを黙って見過ごすつもりはない。また俺と一戦交えることになるが、それでもいいのか?」


 フリタウスは以前ラルスウェインのような調整官の魔族と戦って、人間たちに恐れられたことを悔やんでいた。なら同じ思いはさせたくない。

 フリタウスをかばうように立ちはだかる俺を、ラルスウェインは無表情に見返してくる。

 こうして見つめられるとまるで純真無垢な女の子のようだが、内心なにを考えているかはわからない。


「なにを言っているんだ? むしろ遅くなってしまった。私のほうもあちこち飛び回っていて忙しかったからな。ああ、フリタウス殿が協力していたのか。ならば大事には至らなかったというわけか」

「は? お前、こいつを捕まえに来たんじゃないのか?」


 そういえばフリタウスを捕まえるのなら、その前にこの間の狼男を捕まえに来ていないとおかしい。あいつも強力な力を振るう魔族だったのだから。

 俺は思わずフリタウスを振り返る。フリタウスもきょとんとしていた。


「緊急事態だ。今世界のあちこちで人間が魔族化する事件が発生している。ルールがどうとかそんなことは言っていられなくなった。なにせそれらすべての魔族を処罰しようとなると、とても私一人の手に負えるものではない」

「なんだって!? じゃあキリアヒーストルや……他の国は無事なのか?」

「今回被害が出たのは、魔界に近いイリシュアールやキリアヒーストルのようなアリキア山脈に面する国々だ。キリアヒーストルにはお前が発明した術符の技術が伝わっているだろう? 自力で持ちこたえられるはずだ。他の国々も、今のところは致命的な事態には至っていない。かなりの混乱は見られるがな」


 まさか魔族の発生がこの国だけじゃなく広範囲のものだったなんて。大丈夫だと言われても不安は募るばかりだ。


「じゃあお前がここへ来たのは?」


 なんとなくいやな予感がしつつも、聞かざるを得なかった。返ってきたのは想像通りの言葉。


「協力を仰ぎに来た」

「やっぱりか。で、なにをすればいいんだ?」


 ラルスウェインは驚いたように口を丸くした。


「拒否しないのか? そうあっさり納得されるとは思わなかった」

「この事態はお前にとっても喜ばしいものではないんだろう? 収拾をつけるためならそれは俺だって望むところだ。協力だって……まあ、できることであれば」


 俺の言葉を聞いたラルスウェインは意外なことに――笑った。

 初めて見るラルスウェインの笑顔だった。


「さすがクリスだ。頼りになる」

「あ、ああ……」


 その笑顔があまりに可愛かったので、つい動揺してしまった。


「だがまずはフリタウス殿だ。三千年を生きるあなたに訊きたい。今回の件、いったいなにが原因だと思う?」

「おそらくだが……魔王だ。もうもたなくなっている可能性がある」

「やっぱりフリタウス様もそう思いますか」


 その声はシウェリーのものだ。

 俺は腰に差していた短剣シウェリーを抜いた。

 ラルスウェインは目を見開いた。


「驚いたな。魔装がまた一人……信じられない。失礼ですが、お名前をお聞かせいただいても?」

「ふふふ、お前も魔族のようだな。ならば聞くがよい。私は冷酷にして恐ろしい魔族と呼ばれて人間たちに恐れられた、魔族のシウェリーだ」


 が、ラルスウェインは首を振った。


「だめだ。聞いたことがない」


 俺は思わずシウェリーにこう言った。


「だってさ。お前、いつも偉そうにしてるけどフリタウスに比べて知名度ないんじゃないか?」

「そっ、そんなこと! わ、私は魔王様にだって一目置かれた……本当だぞ! 本当なんだからぁ……うううううー……」


 あ、また泣きそうになってやがる。


「泣くな泣くな。ほれ、よーしよーし」


 俺は短剣の刀身を指でなでてやった。


「泣いてないっ!!!」


 助け舟を出したのは意外にも知らないと言ったばかりのラルスウェインだった。


「いや、魔装化することができるのは強大な力を持つ一部の魔族だけと聞く。今魔王と面識があるようなことを言っていたが、それが本当なら私など足元にも及ばない偉大な魔族に違いない。……フリタウス殿のようにな」

「ああ、こいつ三千年間洞窟の奥で眠ってたんだ」


 ラルスウェインは頭を下げた。


「そうでしたか。私はラルスウェイン。四百年ほど前から調整官の任に就かせていただいております。お見知りおきください」

「おおっ、そうであったかー。若い魔族であれば知らぬのも無理はない。よきにはからえー」


 芝居がかった口調で尊大に言うシウェリー。めちゃくちゃうれしそうだな。つい今泣きそうになってたとは思えない変わり身の早さだ。


「話を戻すぞ。魔王がもたないと言ったが、それはつまりどういうことなんだ?」


 フリタウスは顔を少しうつむかせて、あごに指を当てた。そうすると深謀遠慮巡らす賢者のように見えなくもない。見た目は十代の女の子なのに、さすがは三千年を生きる伝説の魔族か。


「魔王が死ぬと、魔族の統制が取れなくなって魔族同士の争いが起こるのはもちろん、様々な天変地異が起こると言われている。新しい魔王が現れるまで混乱は続き、世界は闇に閉ざされるとも。その天変地異の中に人間や動植物の魔族化という一節があったと記憶している。私も魔王の代替わりの時代は経験していないがな。今の魔王は眠っているとはいえもう三千年以上生きている。そろそろ寿命が来てもおかしくない」


 魔王の寿命。

 そういえば洞窟のときもシウェリーが、魔王は短命だと言っていた気がする。


「私もフリタウス様と同じで、今の魔王様の前の時代には生きてなかったからわからない。でも似たような話は聞いたことがある」


 シウェリーも口をそろえた。

 話が本当だとするならやはり原因は魔王か。

 ラルスウェインもゆっくりとうなずいた。


「貴重なお話、感謝します。これで方針は決まった。よし、クリス。次はお前の番だ。お前は私と共に魔界へと向かい、直接原因の究明と解決――これに協力してほしい」

「ああわかっ……ええっ!? 魔界!?」

「なにを驚いている。魔王が原因なら当然魔界に行って調査をする必要がある。クリス、協力してくれると言ったはずだが?」

「言ったけど……。どうしても行かなきゃダメなのか? そういやお前、前に上司の魔族がいるとか言ってなかったか? そいつに訊いてみればいいだろ。人間の俺がいきなり魔界へ行ったら戦争をふっかけるようなことにならないか?」


 ラルスウェインは表情を曇らせた。


「連絡が取れない。もしフリタウス殿が言ったように魔族間で闘争が発生していたとしたら、私も巻き込まれる可能性は高い。魔界に戻るとしても、戦力はできるだけ欲しいところだ。だからお前には協力してほしい」

「しかし……」


 俺はイリシュアールの筆頭政務官だ。守るべきは国民の命。


「このまま手をこまねいていたら、魔族の発生は続くだろう。時間が経てば経つほど事態は悪化する。魔界の情勢次第ではかつてのように人間界へ戦争をしかけることだってあるかもしれない。そうなったとき、取り返しのつかない被害が発生するかもしれないんだ」


 俺は目を閉じた。

 そうだ。

 このままじっとしていたって何かが解決するとは思えない。

 俺が守ると息巻いていても、国は広い。その全土を同時に守ることなどできはしない。現に今だってフリタウスに力を使わせることになってしまったじゃないか。

 俺はひとつ息を吐いてから目を開けた。


「わかった。ただし――アンナたちが納得してくれたら、だ」


 ラルスウェインは小さく微笑んだ。


「ありがとう」

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