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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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王都騒然 魔族の出現

 そして後日。

 狼男だった男から話を聞くことができた。

 驚くべきことに男はちゃんとイリシュアールの戸籍を持った人間だった。それに、牢で接見した限り性格もおとなしく、戦ったときのような粗暴さは影を潜めていた。

 満月の夜に変身する狼男というのは転生前の世界では聞いた話だが、この世界にもいたとは。

 男が狼男になったのはつい最近、一週間ほど前かららしい。王都で事件が発生し出した時期とも一致した。

 本人は多数の人を傷つけ殺めてしまったことに深い罪悪感を感じているようだった。

 男はイリシュアールの法に従って裁かれることになるが、問題が解決したと思ったのもつかの間。俺はまたしても耳を疑うような報告を聞くことになった。

 昼。俺はいつものように、王宮の執務室でアンナ、リズミナ、エリ、ユユナの女性たちに囲まれながら書類仕事をしていた。


「大変です! クリス様!!」


 部屋に飛び込んできたのは赤毛のメイドだ。


「どうしたんだ? 血相を変えて」

「化け物です! 街に化け物が現れたんです!」

「なんだって!?」


 ついこの間狼男を倒したばかりだというのに。

 狼男は夜に出たが、今度は昼間からか。いったいどんな化け物なのだろうか?


「クリス殿!! 大変です! 街に化け物が!!」


 ルイニユーキも部屋に駆け込んできた。


「ああ、たった今聞いたよ。それで、今度はどんなやつが出たんだ?」

「見ていただいたほうが早いでしょう。こちらへ来てください」


 そう言って背中を向け、ついてくるよう促すルイニユーキ。

 俺たちはお互いに顔を見合わせた。

 王宮を出て城のほうへ向かい、少し開けた場所までやってきた。そこには多くの兵士たちが緊張した様子で集まっていた。

 兵士たちの中心にはなにやら縄で縛られた人間が複数人いるようだ。いや、それは人間ではなかった。


「こいつが例の化け物か……」


 縄で縛られているのは灰色の肌に濁った黄色い目をした不健康そうな男。まるでゾンビのようだなと思った。

 別の男はやはり血の気のない青白い顔をしていて、大きな牙が唇から突き出ていた。なんとなく吸血鬼といった見た目だ。

 ゾンビと吸血鬼。俺はふと思ったことを聞いてみた。


「まさかこいつに血を吸われると感染して化け物が増えるとかそういうことか?」


 ルイニユーキは驚いた顔をした。


「ご存じだったのですか。そうです、この男は突然錯乱し、他の住民を襲って血を吸ったのです。ですが血を吸われた人間まで化け物になるとか、そういったことはありません。もう一人は別の場所で同じように事件を起こした男です。騒ぎを聞いて駆け付けた警備兵たち総出で取り押さえましたが、その後みるみる人間とかけ離れた見た目に変わっていったそうです」


 感染なしと。

 それならばどういうことなんだ? なぜ急に何人も化け物が現れたのだろうか。

 それに警備兵によって捕まえられたというのも気になる。たとえば先日戦った狼男のようなやつなら一般の兵士は何人いたって役には立たないだろう。化け物によって戦闘力には大幅な違いがあるということか? 化け物になりたてだから力が弱いとかそういうことなのだろうか?


「ひっ――」


 ユユナが口元に手を当てて怯えた。

 無理もない。女の子が目にするには少しキツイものがある。

 腰に差している短剣が震えた。シウェリーだ。なにか言いたいことがあるらしい。

 人間を怖がらせて大はしゃぎしていたようなやつだが、あまり一般人の前でしゃべるなと言ってある。それを律儀に守っているのだ。


「ちょっと悪い」


 言って集団から少し離れる。

 まるでケータイの着信を受けた転生前のビジネスマンだなと思いつつシウェリーを抜いて尋ねた。


「どうした?」

「魔族だ。魔族の気配だ」

「あの縛られていたやつか?」

「ああ、微弱だが間違いない。それと……これは言おうかどうか迷っていたのだが、この間の狼男も魔族だった」

「えっ!? なんで早く言ってくれなかったんだ」


 シウェリーは慌てた声を出した。


「し、仕方ないだろ! クリスが倒してあの男は人間に戻って、あとは弱々しい波動しか感じられなかった。でも最初は強い波動を感じた。私も不思議だったんだ」

「誰か他の魔族によって魔族化させられた、とかそういう可能性はないのか?」

「いやそんなことは……待てよ……しかし……」

「なんだよ。もったいぶらないで教えてくれ」


 シウェリーは答えの代わりに別のことを訊いてきた。


「私が眠ってから、三千年が過ぎていると言っていたな?」

「そうだな」

「……」


 沈黙するシウェリー。

 短剣の姿なので黙られてるとなにを考えているかまったくわからない。

 声をかけようかと思ったところでシウェリーが言葉を発した。


「私は魔界に戻らなければならない」

「なに?」

「この異変、魔王様の身になにかあった可能性が高いと思う。フリタウス様とは違い、私はもともと魔王様側の魔族だ。魔王様の身になにかあったのなら、真っ先に駆け付けなければいけない」


 フリタウスが人型に戻れることは知っていた。ならシウェリーも同じように人型に戻って、それで魔界へ帰るつもりなのだろう。魔族が人間界をぶらぶら歩いていればラルスウェインに捕まるのがオチ。だが魔界へ帰るというのであれば戦闘にならずに見逃してくれるかもしれない。

 なら危険を理由に止めることはできない。

 出会ったばかりで別れるというのは寂しいものがあったが、引き留めるべき理由がないのもまた事実。


「シウェリー……」


 なんと声をかけるべきかと思っていたところへ、街のほうから爆発音が聞こえてきた。

 直後に上がる巨大な火柱。

 まるで竜巻のような大きさ。明らかに尋常ならざる力の発現。もし直下に人がいたとしたら、ただ事では済まないだろう。

 俺はシウェリーを腰に戻してすぐに飛行魔法の準備に入る。


「クリス!! どうしたの!?」


 詠唱補助精霊を呼び出した俺のところへアンナたちが駆けてくる。


「様子を見てくる。お前たちは念のため城へ避難してろ。リズミナ!」

「わかった」


 アンナたちにもしものことがないよう警戒をしていてほしい――俺の言いたいことをすぐに理解したのか、リズミナは素早くうなずいた。


「頼んだ」


 言いながらも俺は飛翔を開始する。

 上空へと飛び上がり、たったいま火柱が上がった場所へ向けて一気に突き進んだ。

 夜に飛ぶのとは違う、オレンジ色の屋根が地平まで連なる壮観な景色。しかし見とれている時間はない。

 火柱が上がったのはたしか……あそこか。

 まるで爆弾でも落とされたかのような破壊痕。周囲の建物群が通りの中心から円形に、まるで押しつぶされたようにひしゃげている。

 その爆心地の真ん中に二人の人影。

 イリアだ。それに……フリタウス!?

 こんな街の真ん中で人型に戻っていたのか!?

 俺は急いで二人の下へ降りていった。


「イリア、大丈夫か!?」


 イリアは地面に倒れていて動かない、口元からは血が滴っていた。


「気を失っているが命に別状はない」


 どこか遠くを見るようにして立つ、フタウスの声。

 フリタウスは凛として立ち、暗赤色の衣服には土埃のひとつも付いていない。その立ち姿からは戦闘の残滓などなにひとつ感じられなかった。


「突然街の住民が魔族になった。不意を突かれたイリア嬢ちゃんは強く壁に叩きつけられて気を失ってしまってな。私が何とかするしかなかった」

「ってことは……この惨状は……」

「私がやった」


 まるで竜巻が発生した後のような暴力の痕跡。


「なにも――」


 ここまでやらなくても。そう言おうとして口をつぐんだ。

 フリタウスの横顔に浮かぶ表情は悲しみだったからだ。


「違うよ! お姉ちゃんはみんなを助けてくれたんだよ!! 黒くておっかないのがお空に飛んで、それでおかしな力で建物をぐしゃって……」


 声は潰れた建物の間の、細い路地から聞こえた。小さな女の子が路地から通りに顔を出していた。

 女の子の言葉で気付いた。おそらくさっきの火柱はフリタウスの能力によるもの。それが原因なら周囲の建物は燃えて灰になっていなければおかしい。周りの惨状は炎によるものではなかった。

 フリタウスは眉を寄せてうつむいた。


「力を使ってしまった。私もたった今街を襲った魔族と同じだ。人に害なす存在だ……」


 俺はフリタウスの両肩を掴んだ。フリタウスの肩は驚くほど細い、少女のそれだった。


「しっかりしろ! お前は街を救った。みんなを助けたんだよ。その倒した魔族の力がすさまじかったのはこの惨状を見ればわかる。もしお前が力を使わなかったら、きっともっと大きな被害が出ていたはずだ」


 その相手の魔族とやらの姿は見えない。先ほど見た火柱の大きさを考えれば消し炭すら残さず燃え尽きたのだろう。

 フリタウスは俺の腕にすがるように手を重ねた。

 フリタウスは顔をうつむかせたまま小さく言った。


「三千年経った今もトラウマとして心に残っていた。この姿になって戦うこと。力を使ってしまうこと。怖かった……。だから……ありがとう」


 俺の腕を掴んで肩を震わせるフリタウスは、まるでか弱い少女のようだった。


「でも、力を使ったというなら……あいつに気付かれてしまうかもしれないな」


 俺の言葉にフリタウスは顔を上げた。


「まさか――」

「そうだ。ラルスウェイン。あいつにバレてなければいいが……」


 俺の願いは無情にも――。


「クリストファー・アルキメウス」


 上空から投げかけられた声によって砕かれた。

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