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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
八章

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魔族の襲撃!?月夜の狼男

 王都に不穏な空気が広がっていた。

 化け物が出没するというのである。

 それは単なるうわさ話の域を超えて、報告は俺のところへも入ってきていた。

 街を巡回する警備の兵にも死者が出ていた。

 死体にはなにか巨大な爪で引き裂かれたような傷跡が残っていた。

 検分に当った医師も首をひねるばかりで原因の解明には至らなかった。化け物に殺された。そうとしか言えない惨状だったのである。

 犯行時刻は決まって夜。目撃者の証言によると全身毛むくじゃらの大男だとか。

 いったいどんな化け物なのだろうか。

 俺は警備隊に協力することを申し出て、夜、警備の兵士たちが集まる駐在所へと向かった。


「まさか国主様自らが来てくださるとは」


 街中にいくつかある警備隊の駐在所は、地味で小さいながらしっかりとした石造りの建物だ。俺が現れると出迎えた兵はみな驚いた顔をしていた。


「事前に通達はしておいたはずだ。どうしても自分の目で確かめておきたかったんだ。邪魔はしない。巡回に同行させてくれ」

「はっ」


 兵たちは敬礼した。

 こうして俺は巡回警備の兵たちについていくことになった。

 俺を含め兵士は五人。手にランプを持って決められたルートを見て回るのだという。

 他の駐在所からも同じ人数で一組の警備隊が、それぞれの地区の治安を守っている。


「もし化け物を発見した場合、音響閃光符(おんきょうせんこうふ)を打ち上げて合図をする手はずになっています」


 イリシュアールではまだキリアヒーストルのような術符生産体制は整っていないが、今回は俺が連絡用の術符を配っておいた。

 例の化け物による襲撃事件はもう七件に上っていた。今日も現れる公算は高い。


「よし」


 短く言って、周囲に油断なく目を走らせる。

 大通りとはいえやはりこの時間ともなると人通りは少ない。酔っ払いと(おぼ)しきおじさんが足をふらつかせて歩いていた。

 通り沿いの建物もほとんどが明かりを消していて、営業を続けているのは酒場くらいだ。

 どれだけ歩いただろうか? 時間は深夜の二時くらいだと思う。周囲の人通りはすっかりなくなって、しん、と静まり返っていた。

 兵士の一人が声を上げた。


「国主様、あれを」


 兵の視線を追えば、遠くのほうでかすかに上がる発光体。渡しておいた連絡用音響閃光符だ。

 ここからだと走ってもかなりの時間がかかってしまう。

 しかし俺はこんなときのために飛行魔法を完成させていた。


「俺は先行する。お前たちも後からついてこい」

「えっ、どうやって……うわあああああっ!?」


 俺が呼び出した大理石像のような詠唱補助精霊を見て驚く兵士たち。

 詠唱補助精霊がさらに一回り小さい四体の精霊を呼び出す。

 精霊は俺の周囲を囲むように浮かぶ。

 重力制御により俺の体が浮き上がる。


「おおっ!」「飛んだ……」「そんなことが……」


 兵士たちの声は畏怖(いふ)か驚きか。詠唱補助精霊を衛星のように従えて飛ぶ俺の姿は彼らにはどう映っているのだろうか。

 直立姿勢のまま体はぐんぐん浮き上がり、今度は前方へ向けて飛翔を開始する。

 簡単に飛んでいるように見えるが実は相当に難しい。

 姿勢制御は一番大きい精霊に自動で行ってもらっている。体の向きを変えたい場合は脳内詠唱で精霊に干渉して操作し直さなければならないが、直立のままでもまっすぐ飛ぶには支障はないので今は必要はないだろう。

 重力制御は四体の精霊に担ってもらい、その加減を脳内詠唱によって操作し続けなければいけない。飛んでいる間は他の魔法を使う余裕はなかった。それにあまり速度を出しすぎると、体が落下するときのような気持ち悪さがあるのが難点だった。

 俺は前方に落下するように加速を続け、あっという間に音響閃光符が打ち上がった場所に到着した。

 なんだあれは……。

 月明りに照らされて上空からでもぼんやりとわかる。

 兵士たち対峙しているのは、たしかに化け物だ。隆々とした筋肉が目立つ巨体。全身を覆う灰色の毛は波打つようだ。そしてでかい。人間の二、三倍はありそうだ。

 三人の兵士たちはみな剣を構えていた。三人の後ろには倒れている兵士もいた。化け物にやられたのだろうか?

 化け物と兵士たちの間に割って入るように、俺は降り立った。


「あっ、国主様!」

「こいつが例の化け物か……まるで狼男だな」

「グルルルルル……」


 狼男は低いうなり声で答えた。

 黄色く濁った目がぎょろりと俺の姿を捉えている。


「そのけが人は間に合いそうか?」

「はい。この化け物の爪で肩から裂かれて気を失っていますが、出血量から見て傷は深くはありません。襲い掛かられたときに後ろに倒れ込んだのが幸いでした。すぐに手当てをすれば間に合うかと」


 兵の一人の、意外にも冷静な分析。

 よかった。飛んできたかいがあったというものだ。


「お前たちはけが人を連れて治療ができる場所へ! 俺はこの化け物をなんとかする」

「……さっきから化け物化け物と。人をなんだと思ってやがる。てめぇ、空から飛んできやがったな。お前のほうが化け物なんじゃねぇのか?」

「えっ!?」


 狼男が口にしたのはまさかの人語。

 言葉をしゃべれる化け物……それが意味するところは一つだ。


「まさか……魔族か?」


 俺の言葉に狼男は牙を剥き出して怒鳴った。


「だからぁぁっ!! 俺ぁ人間だ! 人なんだよぉぉおおおお!」

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