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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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食べすぎ注意のやみつきお菓子

「こりゃ……」


 食材を置く倉庫として使っているのだろうその部屋は、天井まで積まれた木箱で埋め尽くされていた。そのどれもがジャガイモ。


「食材の発注時にひどい業者に騙されてしまったのです。懇意(こんい)にしている業者は他にいたのですが、新規参入で取引相手が誰もいなくて困っていると泣きつかれて……つい情にほだされて契約を。そうしたら納入数の桁が違うじゃないですか。取引証を偽造したのは明白でした。ですがその業者はとっくに連絡がつかなくなっていて……」

「そうだったんですか」

「今のままのペースで捌いていては、とても間に合いません。このままでは大きな赤字になって店は潰れます。一体どうしたらいいのか……」


 そう言って店主は頭を抱えた。

 たしかにこの量は異常だ。とてもこの規模の店で(さば)ききれるような量じゃない。

 偽造とはいえそれを証明できなければ店は金を支払わざるを得なかったのだろう。足りない支払いは借金だ。他の食材を仕入れるにも困るほど店の経営は危機的状況にあるのだろう。

 俺は目を閉じた。

 たしかにこの店のジャガイモ料理はどれもうまかった。だけど一気に在庫を捌くとなるともっと別のアプローチが必要だ。

 料理というよりむしろ……そうだ!


「ご主人、このジャガイモ、できるだけ薄く切ることはできますか?」

「えっ? いったいどうするるんです?」

「揚げるんですよ」


 俺の言葉に店主は眉をひそめた。


「冗談じゃない。できるだけたくさん捌かなきゃいけないのに、薄く切るなんて。さっきお出しした揚げジャガイモだって、限界まで大きくしたんですよ」

「そう、それです。たしかにこの店の料理はうまかった。でもポテトフライだけは違っていた。たくさん消費しようとするあまり、あんなに大きく切ってしまっては無理が出てしまっていた。それで思いついたんですよ」

「どういうことですか?」


 そう、俺が思いついたのは転生前には当たり前だったあのお菓子だ。


「ポテトチップスですよ」

「ポテトチッ……なんですかそれは?」


 それには答えず俺は、ジャガイモの入った木箱をひとつ抱えて調理場へと運んだ。

 そしてまな板の上でジャガイモを手早くスライスしていく。

 俺だってもう素人じゃない。以前イリシュアール料理大会でトンカツを作ったときに、包丁はさんざん使っていた。肉を切るのとは違うがまあイモを切るくらい問題ない。


「ふう、こんなもんかな」

「わー、すごーい。紙みたいにペラペラだよ」


 アンナはその一枚をつまんで透かし見るようにかざした。


「油、どれですか?」


 店主は調理場に置かれている(つぼ)のひとつを指さした。

 俺は壷を傾けて鍋に豪快に注ぎ入れた。


「あああ……そんなにいっぺんに……」


 他の食材も調達できないほど切羽詰まっているのだ。ケチケチと使うつもりだったのだろう。おそらくポテトフライも炒めるようにして作っていたに違いない。店主は半分泣きそうだった。


「大丈夫ですよ。まあ見ててください」


 スライスしたジャガイモを投入して、カリッと揚げる。

 鉄網でさらって油を切り、皿に乗せる。

 塩を振って完成だ。

 一枚取って食べてみる。

 ん、成功だ!

 転生前の市販品とは違うが、ちゃんとポテトチップスしていた。


「なにこれ!? こんな食感初めてだよ。パリッてしてるーーー!」


 アンナは感動しきりだ。


「おおっ、これは……」


 店主も一枚食べて驚きに目を丸くしていた。

 二人の反応を見て確信する。

 ポテトチップスはこの世界でも通用する!

 次は宣伝だ。

 俺は追加で作ったポテトチップスを山と盛ったカゴを持って、店を飛び出した。


「ポテトチップスいかがですかー? とってもおいしいポテトチップスですよー!」

「食べなきゃ損だよーーーー! カリカリパリパリおいしいよーーーー!」


 アンナもノリノリで声を張り上げる。

 道行く人々はなんだなんだと寄ってくる。

 そして試食のカゴからつまんで口に入れては、食べたことのない食感に驚いていた。


「なんだこりゃ! めちゃくちゃうまいぞ!」「ああ、こんな料理は初めてだ!」


 その反応を見てさらに人が集まる。

 あっという間にアンナと俺を取り囲むような人だかりが出来上がった。

 そして当然俺たちを知る人間だっている。


「あっ、筆頭政務官のクリストファー様だ! 国主様だ!!」「こっちはフェリシアーナ様か!」「一体なにが起こってるんだ!?」


 ざわめきは祭りのような大騒ぎに発展していった。

 その機を逃すまいと俺はすかさず言った。


「さあポテトチップスを食べたい方はぜひ中へ! この店で食べられますよ!」


 人々は歓声を上げた。


『おおおおおおおーーーーー!!』


 あとは嵐のようだった。

 店は人が入りきらないほどの大混雑。気軽に食べれるポテトチップスは大好評だった。水分油分を弾く大きな植物の葉はこの世界では定番の袋代わりで、軽く包めば持ち帰りも簡単だ。

 店主も俺も腕がつるほどジャガイモを切りまくった。

 やがて日が傾き閉店時間になり、最後の客が出て行ってようやく一息つくことができた。


「今日は本当にありがとうございました!!」


 店主は俺の手をがっしりと取って言った。


「いやそんな……いいですって」

「それに、あなた様は筆頭政務官のクリストファー様だったのですね。こんな国民思いの国主様だったなんて……なんと言ったらいいか……ううっ、うおおおおおっ!!」


 ついに大声を上げて泣き出す始末。


「いやほんと、そんな……気にしないでください」

「ううっ……こんなに感動したのは生まれて初めてです。クリストファー様のおかげで店はなんとかなりそうです」

「いけますか?」


 倉庫のジャガイモはまだ半分以上残っていたはずだ。


「ええ。明日以降もこのペースで売れれば、なんとかダメになる前に使いきれそうです。本当に……本当にありがとうございました!!」


 俺も今日の客たちの反応ならどうにかなるような感触はあった。

 たとえジャガイモ料理に飽きてしまっていたとしても、まったく新しい初めてのお菓子なら、町の人たちが飽きるのにもしばらくの時間がかかるはずだ。


「ねえ、クリス」


 アンナはなぜか浮かない顔。


「なんだ?」

「もうこんな時間だよ。お城に帰らないと」

「あっ、そっか。じゃあ俺たちはこれで」


 立ち去ろうとする俺におじさんは声を張り上げた。


「待ってください! お礼を! なにかお礼をさせてください!!」

「そうだなー……」


 俺は笑った。





 夕暮れの道を歩く。

 アンナと俺はそれぞれメガホンのように丸めた巨大葉の包みを持っていた。

 中には作り立てのポテトチップス。

 帰ったらみんなにも食べてもらうか。


「食べカスついてるぞ」


 俺はアンナの口元のポテトチップスのカスを取って食べた。


「えへへー」


 にっこり笑うアンナ。


「クリスも」


 少し恥ずかしかったけど、アンナが取りやすいように少し身をかがめた。


「えっ――」


 唇にやわらかい感触。


「取れたよ」


 そう言ってぺろりと舌を、なまめかしく動かした。

 やられた――。

 食べカスがついていたっていうのも本当だかどうだか。


「はは」


 俺もつい笑みが漏れてしまう。

 アンナの笑顔は店での大仕事の疲労感など吹っ飛んでしまう一番の特効薬。王宮へと戻る足取りは自然と軽くなった。


 これは後に聞いた話だが――あの店のにも俺の銅像が飾られてしまったらしい。例の商売繁盛のうわさはますます盛り上がったのだった。

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