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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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ミカラ村での宴

 その日の夜。ミカラ村の人々は広場の焚火の周りに集まった。

 キャンプファイヤーのように大きな焚火は、ついさっきまでケリテリが焼かれていたものだ。

 油をたっぷり塗って焼かれたこの鹿に似た動物は、知る人ぞ知る美食のひとつだ。


「いや、すみません。突然村に押し掛けた上にこんなごちそうを振る舞っていただいて」


 村人たちとともに俺たちはそれぞれゴザを敷いた上に座っている。

 目の前には切り分けられたケリテリの肉が載った皿と、パンとスープがある。


「いやいや、なんの。そちらのエリさんには畑仕事を手伝ってもらいましたし、せっかくのお客様をなんのもてなしもせずに帰したとあっては、ミカラ村の恥になります。こんな何もない田舎の村ですが、幸い豊かな森の恵みのおかげで食うには困らないんですよ。それとも……やっぱりこんな粗野な料理、国主様には似つかわしくないでしょうか? 席もゴザを敷いただけですし、失礼にあたったのなら申し訳ありません」

「ああ、知っていたんですか。いえいえ、とんでもない。あたたかいご歓迎本当に感謝します」


 まあイリアとミリエの政務官二人と、アンナも元女王だ。これだけの面々で押しかければ、知っている村人がいて当然だった。

 俺がていねいにお礼を言うと、村人たちから「おおっ」というどよめきが起こった。


「国主様なのになんという謙虚さ……いや、素晴らしい。感服いたしました。クリストファー様は今やこのイリシュアールの大英雄ですからな。こんな田舎の村にもそのご高名はとどろいております」


 あごひげを生やした中年の村長はそう言って笑うが、タダでこんな歓迎を受けるというのも気が引ける。

 城に戻ったらなにか気の利いたお礼の品でも手配させよう。


「それで、森の洞窟をお探しになられたのでしょう? どうです、見つかりましたか? 森には村の者もよく入りますが、ほとんど誰も見つけることができない幻の洞窟として語り継がれているんですよ。ごくまれに森の中で迷った末に見かけたなんて話がうわさになります。中に入ろうとする者はいませんけどね」

「やはりあの洞窟は恐ろしいものとして伝わっているのですか?」

「ええ。村の者であの洞窟に入って帰ってきたなどという話は一切伝わっていません。それはつまり、足を踏み入れてしまえば生きて戻れないことを意味していると、そう考えられてきました。でもつい最近名うての冒険者の一行が向かったと聞きました。青ざめた顔で逃げ帰ってきたという話も。やはり入るべきじゃないんです」


 おそらく人除けの結界のせいだな。並大抵の者では見つけることすら難しいのだ。そして逃げ帰ってきたという冒険者一行はおそらく洞窟で死んだ男の仲間だ。あの男の死体は一応洞窟の外に運んで、埋葬してやっていた。さすがによそ者である俺たちが、同じくよそ者の冒険者の死体を村に運び入れて埋葬を頼むというのは無茶な話だ。国主の立場で無理強いはしたくない。あの男には寂しい場所かもしれないが、いずれ仲間の連中に会えることがあったら、墓の場所は教えようと思った。


「洞窟はありましたよ。特に何もないところでしたが……魔物はいました」

「ほお、魔物……」


 興味津々といった様子でヒゲをなでる村長。


「クリスー……」


 となりに座るアンナが切なそうな目を向けてくる。

 ああ、しまった。

 こんな美味そうな料理を前にして、いつまでもお預けというのはアンナには耐えられないことに違いなかった。

 話を聞きたそうな村長には悪いが、そろそろメシにすることにした。


「いやあいい匂いだ。こんなに美味そうな肉、王宮でだってそうは食べれない」


 俺が言うと村長はぺちんと自分の頭を叩いた。


「おお、これはうっかりしておりました。ささ、どうぞ召し上がってください。せっかくの料理が冷めてはいけません。みなも今日は国主様の歓迎パーティーだ。飲んで食べて大いに楽しんでくれ」


 広場に人々の歓声が響き渡り、賑やかな宴会が始まった。

 俺はさっそく皿に盛られたケリテリの肉にフォークを刺した。

 口に運んでひと噛みすれば、柔らかな肉からうま味の詰まった肉汁がじゅわっと染み出す。パリパリの皮の食感もいいアクセントになっていて、油を塗ってじっくり焼かれた香ばしさが食欲を刺激する。


「おいしいいいぃぃーーーーーーーー!!」


 さっそくアンナが歓喜の声を上げる。

 女王を経験して王宮で暮らすようになっても、こればっかりは出会った頃から変わらない。


「ほんとほんと! ああーーーしあわせーーーー!」


 エリもだらしなく頬をゆるませて肉の味を堪能していた。

 ユユナはナイフで小さく切った肉を上品に一口食べて、驚きに目を見開いてとなりのミリエを見た。ミリエはユユナと顔を見合わせて、どちらからともなく楽しそうに笑い合っていた。

 次はスープだ。

 深い器にたっぷり盛られたそれは、スープというより野菜の煮込み料理のようだ。根菜や葉物野菜がたっぷり何種類も入っていて、体積の半分以上を占めている。とろとろに煮込まれた野菜はやわらかく、口の中で溶けるようだった。

 それにこのスープの濃厚さ。野菜のうま味が凝縮されている。


「あつっ!!」


 イモの熱さに思わず口を上に向けてフーフーやってしまう。

 なんとか食べて横を見れば、アンナも目に涙を浮かべていた。どうやら同じことをしていたらしい。

 肉の皿を空にすれば、すかさず村のおばちゃんが次の皿と交換してくれた。

 酒が入ったのか広場のあちこちでは大声で笑い合う声が響く。


「……」


 ふと俺は気配を感じて、腰に下げた短剣を引き抜いた。

 シウェリーの刀身は焚火の朱を映してキラリと光った。

 俺は周囲の村人に聞かれないよう短剣を口元に近づけてささやいた。


「どうしたんだ?」

「いや……本当に三千年も経っているのか、と思ったんだ。なんというか、変わらない。人間の営みは今も昔も。ふっ、私の頃の人間どもも……戦争が始まる前はこんな風に能天気なやつらだった」


 シウェリーもささやくような声を返してきた。


「お前、絶対人間好きだろ」

「ち、違う! 私は人間などなんとも思っていない! 本当だぞ」

「ま、そういうことにしておいてやる。それにしても、こんな美味いメシ、食べれなくて残念だったな」

「気にしなくていい」


 その口調からは特に悔しさや残念さは感じられない。

 三千年も石櫃の中で眠っていた魔族の少女に食事が必要なのかも、そういや俺は知らなかった。


「どうですか? 国主様のお口にお合いになりましたかな?」


 村長が近づいて来て言った。その顔はもう酒が入って赤かった。

 俺は慌ててシウェリーを鞘に戻した。


「ええ、もう二皿目です。こんなにうまい肉、いくらでも食べられますよ」

「はっはっは! それはよかった。これだけの大物はめったに獲れませんからな。なに、まだまだおかわりできますから、好きなだけ食べてください」

「それにしても……本当にいいんですか? こんなに歓迎していただいて、悪い気もします」


 村長は目を見開いて固まり、それから大声で笑った。


「あっはっはっは! 本当に謙虚なお人だ。イリシュアール解放戦争前のことです。実はこの村にも貴族が搾取(さくしゅ)の魔の手を伸ばしてきていましてな。無茶な税を求められて、村の者たちは首を(くく)るか抵抗するかで、結論が出ないまま憂鬱(ゆううつ)な話し合いを繰り返していたのです。そんなときにちょうど解放戦争が起きまして。クリストファー様の治世になって腐敗政治の改革が進められた結果、貴族も無茶な税を取らなくなって本当に助かっているのです。この程度の歓待(かんたい)では足りないくらいですよ」

「そうでしたか。では遠慮なく」


 そう言って俺は、肉を二切れも同時に突き刺して、豪快にかぶりついた。

 他の面々も一心不乱に食事に夢中になっている。

 俺たち一行の食べっぷりに村長は満面の笑顔になった。

 俺は酔いの回った村人たちに請われるまま、ダンジョンでの魔物との戦いの様子を語って聞かせた。

 その場面の一つ一つに、大きな歓声を上げて喜ぶ村人たち。

 村で平和に暮らしていれば、こうした冒険譚は最高の娯楽なのかもしれなかった。

 みんなの盛り上がりが最高潮に達したところで、民家の方からおばちゃんたちが、数人がかりで大きなケーキを運んできた。担架のような物に乗せられていた。


「村の名物の溶岩ケーキですよ」


 村長が自慢げに言う。


「溶岩ケーキ?」


 黒いケーキには赤い模様が亀裂のように走っていて、たしかに言われてみればそんな見た目だ。


「昔からこの村では祭りの日には溶岩ケーキと決まっていましてね。今日は祭りではありませんが特別に焼かせました」


 おばちゃんは手際よくケーキを切り分けて、みんなに配っていった。

 俺の前にもきれいに皿に乗せられた黒いケーキが用意された。


「へぇ、面白いな。これも食べれるんですか?」


 俺はケーキに刺さっていた赤い棒を抜いて言った。

 赤い棒はどうやら着色されているわけではなく、そういう色の木の枝のようだ。よく見ればきれいに削られていて、食器として使えるようになっている。


「あ、いえ。それを使って食べるんです。理由はわかりませんが昔からこのケーキはそういうことになっていまして」

「おいしいいぃぃーーーーーーーー!! クリス! これ超おいしいよ!」


 さっそく一口食べたアンナがキラキラした目を向けてくる。

 俺はその口元についていたケーキのかけらを取ってやった。


「ふむ、じゃあ俺も……おお、こりゃ美味いな」


 砂糖をふんだんに使える都会のケーキとは違って、やさしい甘さだ。しっとり生地にバターの香り。

 アンナの向こうに座るリズミナも俺に輝くような笑顔を向けてくる。俺はうなずき返してやった。


「わはーーーーっ! 甘くておいしぃぃーーーーー!!」


 このお菓子には女性陣にはたまらないだろう。

 エリも声を上げて喜んだ。

 ミリエとユユナとイリアもパクパクと、口へ運ぶのが止まらない様子だイリアも幸せそうにケーキをパクつきだした。

 俺たちは宴の夜をまったりと楽しんだ。

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