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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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氷の魔装シウェリー

 間に合え――。

 障壁符(しょうへきふ)を起動させる。

 迫る暴力的な質量の塊を、俺は不可視の壁越しに見上げているしかなかった。

 衝撃。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 土砂崩れのような轟音と地面の揺れが襲ってきた。

 細かく砕けた氷の粒子が舞い上がり、煙のように視界を覆う。

 視界の隅に人の姿。

 体をひねってナイフを振ると、人に見えたそれは砕け散った。

 氷か――!

 氷に映った鏡像を目くらましにして今度は反対側にシウェリーの姿が見える。

 が、それも鏡像。

 どこから来る!?

 雪崩の中のような氷煙に巻かれてろくに視界のない中、俺は必死に神経を集中させる。

 答えは全方向からの攻撃だった。

 俺を半球状に取り囲むように、数百本の氷の矢がいきなり現れた。

 再び障壁符を起動してなんとかその全てを防いだとき、俺は自分の過ちに気付いた。


「ぐっ……」


 体が動かない。

 体の腰から下にびっしりと霜がまとわりついて、完全に固まってしまっていた。

 氷漬けだった。

 鏡像も氷の矢も、その全ては時間を稼ぐためのフェイクだったわけか。


「終わりだ、人間」


 氷煙が収まり、辺りは荒涼とした月面世界に戻っていた。

 動けない俺の前に立ち、氷の剣を喉元に突き付けるシウェリー。

 それだけでなくシウェリーのはるか上空には先ほど俺に落とした氷山のような氷の巨岩が、まるで浮遊島のようにいくつも浮かんでいた。おそらくそのひとつひとつが途方もない質量と重量を持っているに違いない。

 俺を追い詰め戦いながら、抜け目なくこれらの氷島を作っていたのか。

 まったく……あきれるほどの、本当に馬鹿げたスケールの能力だった。

 だが――。


「ええっ!?」


 驚くシウェリーの声。

 時翔符(じしょうふ)発動。

 俺が時翔符で巻き戻った位置は、ちょうどシウェリーの背後を取る場所だった。当然、体も氷漬けにされる前の状態に戻っている。

 後ろからシウェリーを羽交い絞めに拘束し、その喉元(のどもと)にナイフを当てる。


「まさか……幻影!? そんな馬鹿な!」

「いいや違う。さっきまでの俺もたしかに実体だ。まあちょっとした魔法だな」

「き、聞いたことない。そんなの……」

「で、どうする? これで勝負ありだろ? それとも上に浮かんでる氷島のひとつでも落としてみるか? 俺がお前の喉を()き切るのと、どっちが早いんだろうな?」

「うううっ……」


 シウェリーの手から氷剣が落ちてカランと鳴った。

 拘束を解くと、シウェリーはぺたんとひざから地面に落ちた。


「信じられない……こんな人間がいたなんて……」

「それにしても、いきなり勝負だなんて……どういうつもりだったんだ?」


 へたりこむシウェリーの腕をゆっくり取って、立ち上がらせてやる。

 シウェリーは問いには答えずに俺にがばっと飛びついてきた。


「なっ――!?」


 攻撃じゃない。攻撃ならとっさに反応できたはずだ。……単純に抱きしめられただけだ。形のいい胸のふくらみが押し当てられてむにっと潰れる。そして可愛らしい少女の顔が俺に近づいて――。


「んんん――!?」


 キスされたーーーー!?

 頭を両手で掴まれて、力いっぱいのキスをされてしまった。

 なんで!?

 顔を離したシウェリーは少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「んっ……。私に勝ったお前には資格がある……。お前を私の所有者として……認める」


 所有者? それはどういう……。

 一瞬考えている間に視界がぼやけ、シウェリーの姿が消えた。

 慣れない重みを手の中に感じて、なんとなく目の前に持ってきた俺が声を上げそうになったところで周囲の景色が溶け――。

 ――再び元いたダンジョンへと戻っていた。


「クリス!」


 心配そうなイリアの声。


「クリス、大丈夫でしたか? 突然姿が消えたので……心配で心配で」


 リズミナはうっすら涙を浮かべていた。


「ようやく戻って来たか。お前がいない間二人に問い詰められて、こっちは大変だったぞ」


 フリタウスはため息を吐いた。


「ところで、あの少女は?」


 イリアは口元に手を当てた。リズミナも俺の体や背中をきょろきょろと見回す。


「ああ、シウェリーだったか? あいつなら……これだ」


 俺は手にした短剣を二人に見せた。まるで水を固めて作ったような、透き通った短剣だ。うっすらと水色をしている。


「お前……シウェリー……」


 フリタウスの声には若干の動揺があった。

 短剣が答えた。


「えへへ。おそろいですね、フリタウス様。この人たちについて行けば、フリタウス様について行くことにもなりますよね」


 俺たちについてくるための理由作りのために勝負を挑んだのか。たぶん魔族のプライドとかで黙ってついて行くのには抵抗があったのだろう。だからその資格を確認するために戦う必要があったのか。

 戦うときわざわざ死ぬなとか言ってたし、もしかしたら俺の命を奪うつもりはなかったのかもな。口では怖い魔族だとか人間と親しくしないと言いつつも、本心は違うのかもしれない。


「あきれたやつだ……クリス」


 フリタウスは真剣な声を向けてきた。


「なんだ?」

「この子をよろしく頼む。じゃじゃ馬だが、いいやつなんだ」

「ああ。よろしくな、シウェリー」

「……」


 シウェリーは黙り込んでいる。


「返事をしなさい」


 フリタウスの声は妹を叱る姉のような調子だった。


「はぁーい。よろしく、クリス」


 若干ふてくされ気味の声でシウェリーは言った。

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