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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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石板の著者

 ダンジョン。そんな言葉がぴったりだ。

 階段を下った先に広がっていたのは、先ほどのような部屋がいくつも連なる地下迷宮だったのだから。


『ガアアアアアッ!!』


 巨大熊の魔物が大きく爪を振り上げる。

 俺は風刃符の刃を叩きつけた。

 巨大熊の首は振り上げた腕ごと両断されて宙に舞った。

 部屋の中にはむせかえるような血臭が充満する。

 先ほどからダンジョン探索中に幾度も魔物に襲われていた。

 イリアもリズミナも並の腕前ではないが、さすがに疲れが見えだしていた。


「地下迷宮。まさか森の地下にこんな場所があったとは……」


 イリアの言葉にリズミナもうなずいた。


「これほど強力な魔物が居座る地下迷宮は、キリアヒーストルにもありません」

「さっきの石板。あれに似たような物があれば教えてくれ。なにか手掛かりになるかもしれない」

「ダメです。見つかりません」


 あらかた部屋の中を検分していたリズミナはそう言って首を振った。

 ダンジョン内をしばらく探索して、さらに階下へと続く階段を発見した。


「またか」

「どうする? 進むのか?」


 訊いてくるイリアの声に不安はない。


「ああ。だがあと五時間……いや四時間が限界だな。安全を考えるとそれくらいで帰還したほうがいい。俺たちは食糧を持って来てないんだからな」


 ダンジョン三階。やはり何体もの魔物に襲われ、とある一室で例の石板を見つけた。

 床に倒れていた石製の本棚の中に入っていたのだ。

 本棚にはその石板の他にはなにも入っていなかった。


「ふむ、どれどれ……」


 俺は石板に書かれている記述を読んだ。


『夜の帳のような絶望が私の心を押し包む。もう誰とも会いたくない。このまま消えてしまいたい。でもそれも叶わない。世界から隔絶されたこの地下に暮していても、心はまだ地上に縛られている。ああ、もっと深く……もっと奥へ……そうすれば』


 まるで日記のようだな。

 地下で暮らしていた? どうやらこのダンジョンには何者かが住んでいたということか。

 だとしたら当時は魔物はいなかったに違いない。さすがにこんな狂暴な魔物に囲まれていては、まともな生活などできるはずもないだろうからだ。

 魔物たちは、いったいいつからこのダンジョンにいるのだろうか。


「なんだか悲し気な内容ですね。これを書いた人が思い悩んでいるのはいったいなんのことなんでしょうか?」

「よし、次を探すぞ」


 四階に降りた俺たちは魔物の群れをなぎ倒して突破した。広さ的には二階三階と変わらず、教会の礼拝堂並みの大部屋が二十以上ある巨大な造りだった。

 そして五階へ到達。

 やはり大型の魔物たちに襲われ、そのことごとくを撃破。奥へ進んだところで、またあの石板を発見した。


「あった。読むぞ」


 俺は石板を読み始めた。


『今日来客があった。そっとしておいて欲しいのに。一人にしておいて欲しいのに。あの子の気持ちはわからなくもないけど、今はわずらわしいだけだ。一人にしてほしい。いや……違う。本当はうれしかった。こんな場所に一人で暮らしていて、私はどうしようもなく人恋しかった。誰かと話をすることを望んでいた。みんなからは英雄だのなんだのと言われていたけれど、私の心はこんなにも弱かったのだ』


「来客? こんな場所に?」


 イリアは眉を寄せた。ちょっと遊びにといった気軽さで来れるような場所ではないことは明らかだ。


「本当に日記みたいですね。短くて、とりとめがなくて」


 俺もリズミナに向かってうなずいた。


「この来客とは……そもそもこいつはいったい誰なんだ? 続きが気になるな。急ぐぞ」


 俺たちは六階、七階、八階と怒涛のように突き進んだ。

 このダンジョンは部屋が広いだけではなく、通路も長かった。歩くだけで時間がかかり、体力も消耗する。

 かなりの広さと規模のあるダンジョンだったが、どれだけ強力な魔物だろうと俺たちの敵ではない。さすがにリズミナとイリアの疲労は蓄積していたから、主に俺が術符を駆使して戦った。

 強力な魔物こそ多数いるものの、トラップの類がなかったのが幸いだった。もしもトラップにかかって不意を突かれたら、俺はともかくイリアとリズミナが心配だった。

 そして地下九階にたどり着いた。


「ふう、相当な深さだな。さすがにこの規模ではこれ以上進むのは危険かもしれないな」


 時間もギリギリだ。そろそろ帰るのを考慮しなければいけなかった。


「ありました。石板です」


 リズミナが部屋に転がっていた棚をどかすと、その下から一枚の石板を発見した。

 今までのそれとは違って、記述からは著者の感情の高ぶりが感じられた。


『人だ! 信じられない! こんなところまで人間が来るなんて! ああ、何十年ぶりだろうか。私はあまりの人恋しさに、知らず知らずのうちに飛び出していた。彼らは私を見てひどく驚いたようだ。そのとき私は自分の過ちを悟った。こんな風に突然現れては、驚くに決まっている。しかし彼らの驚きはすぐに収まった。どうやら私のことを知っていて探していたらしい。私は彼らを歓迎し、長い時間を語り合った。そして私は知った。魔王はとっくに去り、地上に平和が訪れたこと。私のことは伝説となっていて、彼らはそれを頼りにこの洞窟へとやってきたらしい。冒険者たちだった。彼らと語らううちに、私の心は乾いた器に水が注がれるように、暖かい気持ちで満たされていった。私は彼らと地上に戻ることに決めた』


 俺は気持ちを落ち着かせるために一度大きく息を吐いて、それからイリアの背中に向けて言った。


「フリタウス」

「……」


 フリタウスはただの剣ですとばかりに黙り込んで、気配すら消していた。

 俺は構わずに言った。


「お前なんだろ?」


 石板に書かれている魔王という一言が決め手だった。

 イリシュアール解放戦争のあとフリタウスが語った話を思い出す。

 フリタウスはかつて人間に裏切られて心に大きな傷を負い、洞窟の奥に引きこもったと言っていた。

 ここがその洞窟だった。


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