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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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洞窟侵入

 洞窟はかなり広く、六人で並んでも歩けるほどの幅があった。

 高さは人の背丈二人分以上。

 ひんやりとした冷気が肌に心地いいはずだが……洞窟の奥からあふれてくるようななにか気配のような、瘴気のようなものに当てられて、それどころではなかった


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「うぅぅ……」


 洞窟へ入っていくらも歩かないうちに、アンナたちの様子がどんどんおかしくなっていた。

 青息吐息のアンナとユユナは俺の腕にそれぞれしがみついて、なんとか立っているという状態だ。

 エリも腰を曲げて肩を落として、まるで何時間も険しい山を登った後のように消耗していた。


「戻れ」


 誰の声か一瞬わからなかった。

 イリアが背負う大剣の、鞘からピンクの光が漏れ出していた。命宿る剣――フリタウスだ。


「フリタウス」


 俺が言うとフリタウスは輝きを増した。


「これ以上進めばこの娘たちはきっともたない。クリスよ、この洞窟の調査はあきらめたほうがいい」

「なにか知っているのか?」

「……」


 フリタウスはわずかな間押し黙った。

 それだけでわかった。この洞窟にはなにかある。そしてフリタウスはそれを知っている。

 フリタウスも自身の沈黙が俺の推察を招いてしまった過ちに気付いたようだ。観念したようにため息を吐いた。


「どうしてもというなら好きにすればいい。だがこの娘たちはダメだ。無理をさせれば本当に危険だ。わかってくれ」

「どうする?」


 イリアは俺の判断を仰いだ。


「仕方ない。一度引き返すしかないだろうな。アンナたちはミカラ村で待機だ」

「ごめんねクリス……」


 弱々しいアンナの声。なにがなんでもついて行く、みたいなわがままを言われるかもと思っていたが、そんな気力もなくなるほどだったらしい。洞窟外の人除けの結界は解除したのだが、いったいどういう力の影響なのか見当もつかない。……とにかく危ないところだった。

 一度全員でミカラ村に引き返し、宿に三人を預けた。

 体調の悪い三人だけでは不安だったので、一応ミリエも残ることになった。

 俺はイリアとリズミナを連れて再び洞窟へと戻ってきた。


「さあ、今度こそいくぞ」

「ああ」


 イリアの力強い返事。

 リズミナも落ち着いて返事を返してくれた。


「わかりました」


 俺たちは広く深い洞窟を進む。

 しばらく十分ほど、まっすぐな道を進んだ。

 ズルズル……。ズズズ……。

 なにかおかしな音が聞こえる。

 なにかがこすれるような音だ。

 それはすぐに姿を現した。


「魔物だ!!」


 洞窟の壁に張り付くようにしている巨大なミミズ……いやムカデか。

 人の体など一飲みにできそうなほどでかい。


『ギジャジャーー!!』


 俺たちに気付いたのか、巨大ムカデは洞窟の壁を滑るように移動して迫ってきた。

 凄まじい勢いで迫る巨大ムカデ。しかし俺たちは誰一人臆したりはしない。

 リズミナは体勢を低くしてナイフを構え、俺は懐から術符を掴み取った。

 真っ先に飛び出したのはイリアだ。

 背中の大剣を抜いて飛び掛かる。


「はああああああああっ!!」


 気合一閃。

 紅い剣閃がムカデの胴を薙いだ。


『ギジャジャジャジャ!!』


 巨大ムカデは金属をこすり合わせたような叫びを上げて、地面の上に倒れて丸まった。

 イリアが斬りつけた傷口からは炎が上がり、火の粉が舞った。


「相変わらず凄まじい威力だな」

「ああ。フリタウスの力のおかげだ」


 イリアの言葉に俺はおや? と思った。


「いいのか、呼び捨てにして。一応歴史ある大魔族様なんだろ?」

「私が頼んだのだ。言っただろう、私は人間が嫌いではない」


 フリタウスの声は弾んでいた。

 そういやこの剣は人間のために魔族を裏切って戦い、その後も自ら動けない剣の姿になってまで人間に力を貸し続けているんだったな。


「ふーん。なんだか最初のときと印象が違うな。認めた相手としか話さないとかいう話じゃなかったっけ?」

「それは人間たちが勝手に作った伝説だよ。しゃべる剣は珍しいからな。勝手に(うやま)われたり勝手に(あが)められたりして、世間話をできる相手などずっといなかった。私も彼らの恐れをなんとか取り除こうと努力もしていたのだが……そのうちめんどうになって、あまり口を開かなくなった」

「結構苦労してるんだな」

「ははは。もう慣れたものだ。それにお前みたいな物怖じしない坊やにも出会えたし、剣の暮らしも捨てた物じゃない」

「坊やはやめてくれ」

「おや? それがクリスの足の傷か。ふうむ、いつの時代も男の子は子ども扱いされることを嫌う。私にとっては誰も彼も可愛い赤子のようなものなのだがな」

「足の傷?」

「古い言い回しだ。ことあるごとにちくちくと痛んで刺激する、本人が特に気にしている心の傷という意味だ」

「本当に気さくな方なんですね。最初は威厳ある老賢者といった印象でしたのに」


 リズミナの言葉にフリタウスは心外だとばかりに息を吐いた。


「待て待て。魔族に年齢などたいした意味を持たない。まだまだおばあちゃん扱いされるような歳じゃない。見ろ、この刀身を。まるで十代のようなピチピチお肌だろう?」

「ピチピチて……」


 そういやこいつ、自分を女性だとか言っていたな。


「ムカデの返り血は、美肌効果があったりするのか?」

「……早く拭ってくれ」

「あっ、すみません!」


 イリアは慌てて刀身を振って剣に付いた血を飛ばした。


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