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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
七章

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153/198

お仕事お仕事

 筆頭政務官の執務室。机が一つだけのさして広くも豪華でもないこの部屋は、イリシュアールでの俺の仕事場だ。

 イスに座って机の上に指を滑らせる。埃一つついてなかった。きちんと掃除されていたらしい。


「さーて、仕事するかー!」


 うーん、と伸びをしてから大量の書類と向き合う。

 ひと月に及ぶアセルクリラング旅行でルイニユーキには大きな負担をかけてしまった。溜まった仕事をしっかりとこなすことが一番の恩返しになるだろう。

 さっきはふざけてしまったが、ルイニユーキのあの様子を見れば限界なのは一目瞭然だ。あいつが回復するまでは俺ががんばらないとな。


「あの、クリス様。お仕事の前にひとついいですか?」


 さっきの赤毛のメイドだ。


「ああ、どうした?」


 メイドが差し出したのは新聞だ。

 そこにはアセルクリラングでの俺の活躍が書かれていた。

 大陸の危機を救ったのは我が国の国主様! という見出しで次のような記事が書かれている。


『その日アセルクリラングは絶望の闇に閉ざされた。空よりも高く太陽を覆い隠すほどのその巨人は、神話にすら描かれていない。人々が絶望に打ちひしがれたとき、一人の英雄が現れて世界を救った。それはなんと我が国イリシュアールの国主、筆頭政務官のクリストファー・アルキメウス様だった――』


 あとはまあ俺が大魔法を撃ったときのこととか、その後空を飛んで行ったことなどが書かれている。新聞には挿絵も描かれていて臨場感たっぷり。

 記事の端々から誇張を感じるが、話の大筋は間違っていない。

 アセルクリラングには各国の貴族や観光客が集まるから、この記事を書いた記者も現場に居合わせていたのかもしれない。

 もしかしたら世界中の国に知れ渡ってたり……。

 そんないやな予感を振り払うように首を振る俺に、メイドが言った。


「その新聞が出てからずっと、国中クリス様の話題で持ちきりですよ」


 まるで自分のことのように嬉しそうに声を弾ませている。


「国主がよその国でなにやってるんだっていう批判じゃないのか?」


 メイドは大慌てで手のひらを突き出す。


「とんでもない。その逆ですよ。みんな誇らしい気持ちでクリス様を(たた)えています。今イリシュアールの政治は上手く回っていますからね。文句を言う人なんかいませんよ」

「そんなもんか」


 俺は新聞を返して再び机に向かう。

 そんな俺をにこにこと見ているメイド。

 別に気が散るというわけではないが、ずっとそこにいられるというのも……。


「暇なのか?」

「えへへ。実は今日はもう上がりなんですけど、クリス様が帰ってきたっていうんで自主的に残っちゃいました」


 暇らしい。


「あー、じゃあなにか飲み物でも持ってきてくれるかな?」

「はーい」


 メイドは元気よく部屋を後にした。


「よし、じゃあやるか」


 俺は最初の書類に目を走らせた。





 そしてしばらくの時間が経った。


「クリスお兄様、お茶をどうぞ」

「お、ありがとう」


 ユユナからお茶のカップを受け取る。


「クリスー、肩の調子はどう?」


 後ろではメイド服のエリが肩を揉んでくれている。


「ああ、いい感じだ」


 肩は凝らない体質なんだけど、相変わらずめちゃくちゃ気持ちいい。


「はいクリス、あーん」


 アンナが皮をむいた果物の一房をフォークに刺して口元へ持ってきた。


「ん……うまいな」


 リンゴに似たジューシーな甘みが口の中に広がる。

 リズミナも横に控えている。というか、俺をじっと見ている。

 さらにはさっきのメイド……と、他にも数名のメイドたちが壁際に控えていた。

 っていうか……なんで全員いるんだ?

 今仕事中なんだけど……。


「お前たち、なにもここにいる必要なんてないぞ。外で遊んでくればいい」

「クリスといっしょにいるほうが楽しいもん」

「そうですよ。クリスお兄様といっしょにいたいです」


 アンナとユユナは口をそろえて言った。

 振り返ればエリも歯を見せて笑う。


「えっへっへー」


 どうやらこいつも同意見ということらしい。

 リズミナは……言わずもがなだ。

 じっと俺を見ているが飽きている様子はない。


「ま、お前らがそうしたいなら構わないけどな……でも、いつまでもそうしているわけにもいかないぞ」


 俺の言葉に全員不思議そうな顔をした。

 俺に視線が集まった。


「もう仕事も終わりそう、ってことだよ」

「え、もう……ですか!? すごいですクリス様!」


 メイドたちはきゃあっと驚いて飛び跳ねる。

 まあ書類仕事にも慣れてきてるしな。

 ルイニユーキに心配をかけさせないためにも、今日はかなり気合を入れたのは事実だ。


「やったーーーーーー!! じゃあ遊びに行こ! みんなで」

「はい!」

「わはーーーっ!」

「いいですね」


 みんなこれまで以上に生き生きとし出した。

 こんな楽しそうな雰囲気の中だと、万が一にもいやだとは言えないだろう。

 ……ま、俺も悪い気はしないんだけどな。

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