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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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裏町再生計画

 アセルクリラングの首都ネラグラントは本来、表町と言われている部分だけが存在していた。

 それがギャンブル破産者や犯罪者が壁外へと流出し続けてスラムを形成し、長い年月の間に国が新たな市壁を築くに至ったという歴史がある。

 表町と裏町を隔てる旧市壁は取り壊されて久しいが、長い年月を経た今も表町の住民たちの多くは裏町の人間を本来のネラグラント市民とは認めていない。

 巨人レナドレントとの戦闘時、正面から巨人が迫っていたというのに裏ではなく正面から逃げようとする住民が多かったのもそれが理由の一つだろう。裏町を通りたくないと思う住民が多かったのだ。

 表町住民たちの暴動は、いよいよ裏町へ押し寄せようとしていた。

 彼らは手に木の棒や角材等の、武器になりそうな道具を持っている。このまま侵入を許せば、あちこちの建物に入って破壊活動を始めかねない。

 群衆たちが裏町の通りに入ろうとしたそのときだった。


「ミリーニャ、行くぞ」

「わかった」


 麻縄(あさなわ)で痛々しく体を縛られたミリーニャは力強くうなずいた。

 建物脇に潜んでいた俺は、ミリーニャを引っ張って通りへと(おど)り出た。


「待て、ネラグラントの賢明なる民よ! 私はイリシュアール国主、クリストファー・アルキメウスである!!」


 まさか自らこんな演説をする日が来るとは思わなかった。

 だが人々の前で大見得(おおみえ)を切ると決めたのだ。今さら(おく)してはいられない。

 巨人レナドレントの劇的な討伐はまだ人々の記憶に新しい。その主役である俺の名は彼らの足を止めさせるに十分だった。

 通りを挟んで俺と、数千の人間が対峙する。


「表町の住民たちを苦しめていた悪の首魁(しゅかい)、今回の報復殺人事件の首謀者、ミリーニャ団の団長ミリーニャはこの私の手によって捕縛された! もう一度言う! ミリーニャは捕縛された! かの者が組織した集団は解体され、その団長にも厳正なる裁きが下るであろう! 住民たちよ! 武器を下ろし、怒りを収めるのだ!!」


 群衆は足を止め、しんと静まり返った。

 それからすぐにざわめき始めた。


「まさか、国も手出しできなかった犯罪組織を倒したって言うのか……」「信じられない……」「でもクリストファー様なら可能だ」「そうだ。あのお方は途方もない巨人の化け物すら倒してくださったではないか」「ああ、ならこれは本当なのか……」


 そして人々のざわめきはやがて大喝采に変わった。

 群衆は各々の武器を落し、笑顔で手を振った。


「英雄クリストファー様万歳!」「イリシュアールに栄光あれ!!」


 成功だ。

 やがて城のほうから警備兵が集まってきた。

 兵は住民たちを追い立てて、デモを解散させた。

 さて……ここからが大変だ。





 ミリーニャ団のアジトに再び戻った俺は、全員を見回して言った。

 アジトには俺と、アンナ、リズミナ、エリ、ラーニャ、それにミリーニャの側近たち。

 その側近の一人、最初にラーニャの店ので俺の前に立った少女を見て言った。


「お前、よく我慢したな。俺がミリーニャを引っ張って群衆の前に出ようとしたとき、殺気がすごかったぞ」

「……」


 少女は今はもう殺気を放ってはいない。ただ静かに目を閉じるだけだ。


「ケイリーンは私の一番の部下だ。もしあのとき団員の誰かが飛び出していたら、全てが台無しになっていた。他の団員たちを説得してくれたのも彼女だ。感謝している」


 ミリーニャは穏やかな笑顔で言った。

 こんな顔もできるやつだったのか。ミリーニャの笑顔はその整った容姿をより魅力的にしていた。


「……もったいないお言葉です」


 ケイリーンは静かに頭を下げたが、その声は感激したように震えていた。


「ミリーニャの公開処刑には、俺が魔法で作り出した幻影を使う」


 以前リウマトロスの幻影を作り出したのと同じ要領だ。首を吊る姿を処刑場で作ってやればいい。

 そして今俺はミリーニャの豊かな長い髪を束ねて掴んでいた。


「ミリーニャ」

「ああ、やってくれ」


 その髪を、思い切ってバッサリとナイフで切り落とす。

 そして顔に付けていた泥や血のりを拭いてやった。


「今日からお前はミリーニャ団の団長ではない。名前も偽名で暮らすことになる」


 ミリーニャはニヤリと笑った。


「ふっ、そうだな……じゃあニーナとでも名乗るか。どうだ?」


 俺はぱちぱちと拍手した。


「おめでとう、裏町――いや、新町初代町長ニーナ」


 その場の全員が拍手した。


「ミリーニャ団の団員たちはスラム化した新町の再生に取り組んでもらうことになる。まずは雇用だ。壁外農地の開墾(かいこん)、それからレナドレントの死骸の管理と周辺環境の整備。それを新町住民たちにやってもらう。大事業だぞ」


 レナドレントの死骸はちょっとした山脈ほどもあった。俺はあの死骸に観光価値を見出していた。

 周辺を整備すれば多くの観光客を呼び込めるだろう。

 そして裏町住民たちがきちんとした定職に就き、まともな収入を得られるようになれば、犯罪行為に手を染めるような人間も減るはずだ。その積み重ねがやがて裏町全体の信用と地位向上につながり、最終的には本当の意味でお互いの町が一つになる日が来ればいいと思っている。


「その……費用ですが……」


 ラーニャがおずおずと口を挟んだ。


「俺が城の賭場で勝ちまくった金があったろ。あれを使う」


 ちょっとした小国の国家予算程度の金額だったはずだ。


「ええっ!?」


 ラーニャは声を上げて驚いた。


「みんなも……文句ないな?」

「クリスが手に入れたお金だもん、いいに決まってるよ」


 アンナはあっさりと了承。


「これで少しでもこの町の人たちが幸せになるなら、すっごい素敵だよね」

「はい。いい考えだと思います」


 エリとリズミナも笑顔でうなずいてくれた。


「よし、あとは女王にも話を通して、計画をまとめていくとしよう。裏と表、二つの町の長年のわだかまりがすぐに消えることはないが、その溝を少しずつでも埋めていく、これはその第一歩だ」

「「「「はい!」」」」


 全員の返事が重なった。

 えっ?

 笑顔のミリーニャ……泣いてる?

 あの泣く子も黙るミリーニャ団の団長が泣いて……そして――。


「うわっ!?」


 あっという間だった。

 イスから立ち上がったミリーニャはさっと俺に顔を寄せたかと思ったら唇を重ねてきたのだった。


「女の子にキスされて、「うわっ」はないだろ。失礼なやつだ」

「ああ、いや……お前、こんなことするやつだとは思わなくてな……」


 いきなりのことに混乱して返答もしどろもどろになってしまう。


「ひどいですよ姉さん。私だってまだでしたのに」


 ラーニャも泣き笑いでそんなことを言う。


「なんだ、そうだったのか。女性をいっぱい連れているからな、てっきり……」


 ラーニャと同じようなことを言いやがる。

 たしかにミリーニャはラーニャの姉だった。


「待って待って待って! クリスの一番はあたしなんだからね!」


 がばっと飛びついてきて思いっきりキスしてくるアンナ。

 人目もなにもあったもんじゃない。

 最近気づいたことがある。アンナは嫉妬する代わりに同じだけのイチャイチャを要求することが多い。


「あはは! クリスもてもてだねー」


 エリが言った。

 リズミナも少し頬を膨らませつつもその顔には笑顔。


「もう、仕方のない人ですね」


 そしてすぐにその場の全員に笑いが広がった。



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