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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
二章

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温泉旅行

 俺とアンナはキリアヒーストルでもアリキア山脈に近い町アカビタルに来ていた。

 この町はかなり高所に位置していて肌寒い。

 アリキア山脈を越えてシャーバンス国を目指す者たちの玄関口の町だが、俺たちの目的は別だった。


「この町は温泉が有名なんだ」

「温泉?」


 通りを歩きながらアンナが聞いてくる。


「地面からお湯が沸きだしている場所が無数にあって、それを溜めた池に入るんだよ。あったかくて気持ちいいぞ」

「お湯の池!?」


 アンナは目を丸くして驚いた。

 この世界では入浴自体がかなり贅沢なので、お湯を使って体を洗うことはあっても、入浴する機会はほとんどない。

 ああ、王宮ではでかい風呂にも入ったっけ。


「この町の宿はその全てが温泉宿だ。料金は割高だがその分宿それぞれが管理する温泉に入れるぞ」

「わぁ」


 ぱっと目を輝かせるアンナ。

 こう楽しみにしてくれると連れてきたかいがあったというものだ。

 宿に入ると、口ひげを生やし頭の禿げあがった店主が迎えてくれた。


「いらっしゃい」

「二名お願いします」

「はいよ。二階奥突き当り右側の部屋ね」

「奥ですね、分かりました」


 階段を上がり廊下を歩く。

 なかなかの規模の宿だ。やはり温泉街ともなると宿泊業は儲かるのだろうか。

 宿の料金もざっと他の町の三倍はした。

 まあ王都での仕事の謝礼が十分にあったので余裕はあったが。

 部屋に入り荷物を下ろして、ふかふかのベッドに腰を掛ける。

 アンナとの二人旅だと、当たり前のようにダブルベッドの部屋を用意される。もう慣れたものだ。


「じゃあとりあえず温泉に入るか?」

「うん!」


 元気よくうなずくアンナ。

 決まりだ。

 俺とアンナは意気揚々と宿の温泉へと向かう。

 一階へと降りてロビー抜け、廊下を曲がってまっすぐ歩くと浴場までたどり着く。

 脱衣所でぱぱっと服を脱ぎ、いざ温泉へ。

 浴場に他の客はいない。

 木の桶でかけ湯をしてから、岩を組んで作られた湯船に浸かると、湯の温かさが旅の疲れを解きほぐす。


「ぎゃあーーーーーーー! あついーーーーーー!」


 女湯のほうからアンナの大声が聞こえる。

 大丈夫だろうか?

 まあ入る前にあんまり長く浸かりすぎるとのぼせるから気を付けろとは言っておいたが。

 ああー最高。温泉旅館。

 転生前子供の頃は温泉で泳いで怒られたっけな。

 ちらっと男湯女湯の仕切りの、木製の柵を見上げる。


「きゃーーーー! あはははは!」


 柵の向こうで、ばしゃばしゃと水の跳ねる音。

 ああ、泳いでるわ、あいつ。

 向こうも客がいなければいいのだが……。

 目を閉じて湯の暖かさに浸っていると、昔の、転生前のことを思い出す。

 俺は大学に入ったはいいけどろくに通わず、ニート生活を送っていたんだった。

 理由は単純で、勉強に嫌気がさしたから。

 受験勉強をがんばりすぎた反動でサボリを覚えてしまったのがいけなかった。

 親はそんな俺を見捨てず色々励ましてくれた。

 気分転換にと連れて行かれたスキー旅行でコースを外れて滑落。首の骨を折ってあの世行きってわけだ。

 まあ実際行った先はあの世ではなく異世界だったわけだけど。

 俺が転生したことに気付いたのは、物心ついて言葉と文字を覚えた頃だった。

 赤ん坊の頃の記憶はない。成長するにしたがって段々と前世の記憶が蘇ってきたんだ。

 はっきりと記憶を思い出してからは、貪るように家の蔵書を読んだ。

 キリアヒーストルのそこそこ金持ちの家に生まれた俺の実家には腐るほどの本があった。

 それは父の趣味だった。

 本集めが趣味の親父のおかげで、パソコンやゲームなどの娯楽のない異世界でも、わりと退屈せずに済んだ。

 そして魔術師の才があることに気付いてからは、魔法を試したり研究することに没頭した。

 その後、術符を発明して商売を始めようと思い立って、色々あって現在に至る。そんなところだ。

 女湯のアンナのはしゃぎ声を聞きながら、そんな回想にふけっていた。

 たっぷり湯に浸かって温泉を楽しんだ後、浴場を出た。

 そして脱衣場に戻った時、違和感に気付いた。

 服が……服を入れたかごがない!

 俺の服どこいった!?

 まさか……泥棒!?

 俺の服には大量の術符が! 作るのに一ヵ月はかかるほどの術符が!

 盗られたらマジでヤバイ。

 廊下に飛び出して左右を見回し――いた!

 女だ。

 犯人とおぼしきその女が持っているかごの中身。間違いない、あれは俺の服だ。

 その女は、俺を見て驚いたようにあっと口を開けた。

 逃がすか!!


「うおおおおおおっ!」


 体当たりで肩をぶち当て、問答無用で吹っ飛ばす。


「きゃあっ!?」


 女は廊下に尻もちをついて倒れた。


「この泥棒野郎! おとなしくしろ!」

「きゃあああっ! 服! 服着て下さいーーーー!」


 女は紫っぽい短い髪をツインテールにしていて、地味目のシャツにスカート姿。よく見れば俺より年下。顔にあどけなさの残る少女だった。

 少女は顔を真っ赤にして視線を俺の股間に……。


「あっ!?」


 気付いた。

 俺は少女の持っていたかごから服を引っ掴んで股間を隠した。


「服着ろって、おまえが盗んだんだろうが!」

「違います! その服は……拾ったんですーーーー!」


 なわけあるか。

 少女は俺に背を向けて逃げて行った。

 思わず追いかけようとしたが、まずは服を着るのが先決だ。


「くそっ! 後で覚えてろよ」


 パンツ、ズボン、シャツ。術符のホルダーが付いた特注のジャケット。そして外套。

 大急ぎで服を着た。

 ったく、とんだ目に遭った。


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