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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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魔神討伐の依頼

 巨人の足は、あまりにスケールが大きいせいで、ほとんどそびえ立つ壁に等しかった。

 その壁は赤くて、ドロドロとした粘土質のように見えた。

 まるで固まりかけの血が集まってできているようだ。


「クリス様!」


 ドチャアッ!

 壁から垂れ落ちた赤い塊は、風呂をひっくり返したように大量だった。すぐに地面に溜まってどろりと広がる。

 赤いドロドロの塊は溜まり続けてどんどん体積を増していき、俺たちのほうへと迫って来ていた。


「逃げるぞ」


 俺とラーニャは必死に走るが、迫るドロドロの勢いのほうが早い。飲み込まれればどうなるかわからない。障壁符を張り直したところで壁ごと飲み込まれるのがオチだ。

 くそっ!

 ダメか……!

 ドロドロがすぐ背後に迫り、最悪の事態を覚悟した。

 そのときだった。


「えっ」


 腹に衝撃。足先がふわりと地面から離れ、体が宙に浮く。


「きゃっ」


 ラーニャが小さく声を上げた。

 俺はたった今自分を抱えて持ち上げた人物を振り仰いだ。


「お前は……」

「また会ったなクリストファー・アルキメウス」


 感情のこもらない平坦な声。

 俺たちを両脇に抱えて上空に飛び上がったのは、背中に美しい純白の翼を持つ少女だった。

 いつものオレンジ色のローブ姿ではなく、今は股間と胸を隠す布だけの姿だ。南方部族の踊り子というような恰好。褐色の肌があらわだった。


「ラルスウェイン……」


 以前から何度か会ったことがある。魔族と人間の戦争の記録を消して回っているという少女。

 ラルスウェインが力強く翼をはばたかせる。

 森の木々を越えて上空へと舞い上がる直前、俺は赤いドロドロに飲み込まれるガバナケの姿を見つけた。


「うぎゃあああああああ! あづい! 熱いぃぃいいい!! 助けてくれええええぇぇぇーーー!!」


 体の半分以上をドロドロに飲まれたガバナケは、必死にこちらに手を伸ばしている。その顔は絶望に染まっていた。


「ガバナケ!」


 俺の叫びはラルスウェインの冷たい声に遮られた。


「あきらめろ。もう間に合わない」


 ガバナケはしゅうしゅうと白い煙を上げながら、ドロドロに沈んでいって……消えた。

 ラルスウェインはさらにぐんぐんと高度を上げて、森が眼下に見渡せる高さまで上がる。

 だが恐ろしいことに、これほど高くまで飛んだというのにまだ巨人の腰の辺りでしかなかった。


「ひっ、ひぃぃぃーーーーー!! たっ、助けて! ダメです! ダメなんです!! あああああっ!!」


 端正な顔をくしゃくしゃに歪めて、ラーニャが手足をバタつかせていた。

 いつもの冷静さはかけらもなかった。


「落ち着け。落ちるぞ」


 なんとか落ち着かせようと声をかけたが、逆効果だったようだ。


「落ちる!? ひぃあああああぁぁぁぁーーーーー!!」


 暴れるラーニャ。

 ラルスウェインは舌打ちをした。


「これだから人間は……。おい、クリストファー・アルキメウス。なんとかならないのか?」

「ラーニャが高所恐怖症だったとは。くっ、どうすれば……」

「助けて! 助けてえええぇぇーーーー!! ああああぁぁーーーーーっ!!」

「ちっ、面倒だ。落とすぞ」


 ラルスウェインはうんざりしたような声を出した。

 俺は慌てた。こいつなら本当にやりかねない。


「なっ、やめろ。落とすんじゃない」

「ひっ、いやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」


 ラーニャの絶叫。

 ラルスウェインが腰を抱えていた手を離して、なんとラーニャの手首を掴んでぶら下げるような形に持ち替えたのだ。

 まるっきり物扱い。

 俺はなんとか手を伸ばしてラーニャを捕まえた。

 その体をがっしりと両腕で抱きかかえて、落とさないようにしっかりと力を込める。


「あ……」


 ラーニャは少し目を見開いて、それから俺の背中に腕を回してきた。

 これ以上ないほど体が密着してしまって、全身でラーニャのやわらかさを感じる。


「周りは見るな。俺だけを見ていろ。そうすれば少しはマシになるだろ」

「……はい」


 ラーニャは小さくつぶやいて、俺の背中に回した手に力を込めてきた。

 やっと落ち着いたようだ。


「よくやった」


 ようやく簡単な仕事をこなした出来の悪い部下に言うかのような、淡々としたラルスウェインの言葉。


「お前、俺たちを片手で……大丈夫なのか?」

「問題ない」


 なんつー馬鹿力だ。

 ラルスウェインは魔族だから、人間とは根本的に身体能力が違うのかもしれない。


「しかし驚いた。まさかお前が俺たちを助けるとはな」


 ラルスウェインとは命のやり取りをしたことすらあったのだ。最後の戦いの後も、和解したのかすら怪しい別れ方だったのに。


「ちゃんと理由がある。レナドレントのことだ」

「レナドレント? この巨人のことか?」

「そうだ。かつて魔王の軍勢の先陣を務めた魔神だ。周囲の魔物、魔族を強化活性化させるその能力は、大軍勢を引き連れての突破戦力としてこれ以上ないほど適していた。もちろん、レナドレント自身のその超巨大体躯も戦力として絶大な威力を誇る」

「歴史を消して回るお前が、そんなことを教えてくれるなんて……親切すぎて気味が悪いな」


 以前はなにを聞こうとしても任務外だと言って語ろうとしなかったというのに。


「私が消しているのはあくまで魔族と人間の戦争の、その文書記録だけだ。口伝えならばそれほど問題になるわけではない。それに、これから協力を仰ぐ相手にはそれなりの礼は惜しむつもりはない。私にもその程度の分別はある」

「は?」


 協力? それって……。


「強烈な力の波動を感じて来てみれば、まさかレナドレントの封印が解かれていたとはな。三千年も眠っていて本人は知らないことなのだろうが……魔王の定めたルールに違反するのは事実だ。あの巨体では拘束して魔界へ送還することもできないから、処分するしかない。しかし処分すると言っても私は一対一の暗殺に適した能力。このような巨大物をどうにかする力はない。……と思っていたところに、ちょうどいい火力が転がっているのを見つけたというわけだ」


 目だけを俺に向けてくるラルスウェイン。


「ちょうどいい火力って……俺のことか?」

「そう。キリアヒーストル城に大穴を開けた件は私も知っている。お前にはその魔法でレナドレントを倒してもらいたい」

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