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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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ガバナケの企み

 俺は(むち)を激しく振るって馬を全速力で走らせた。

 その(ほこら)は首都ネラグラントから馬で一時間ほどの林の中にあった。

 木々が生い茂るその森林は、豊かな自然そのままで、人がほとんど立ち入らない神秘的な雰囲気を漂わせていた。


「みんなでピクニックにでも来れば楽しそうな場所かもしれませんね」


 ラーニャの軽口。緊張を解こうと気を使ってくれているのだ。

 それがわかったから俺も笑みを返してやった。


「どうだろうな? そんなことしたらバチが当たっちまうんじゃないか?」

「それもそうですね。ここは一般人の立ち入りが禁止された森。祭られているのも穏やかな神様などではないですから」

「祠まであとどれくらいだ?」

「もうすぐです。見えてきました……あっ!」


 俺も気付いた。人だ。


「隠れろ」


 馬を降りて木の陰に繋ぎ、俺たちは茂みに身を隠した。

 祠は巨大な、民家ほどもある石を三つ積んだような原始的なものだった。中央にぽっかりと黒い穴が口を開けている。

 その前には十人ほどの人影。そのうちの何人かは座り込んでいるようだ。


「気付かれてないみたいだな。回り込めそうだ」


 気付かれないよう森の中を移動して、祠の裏側に回り込んだ。

 祠の石に張り付いて側面側へと移動し、連中の声に耳を澄ました。

 なにやらブツブツと、呪文のようなお経のようなつぶやきが聞こえる。

 その呪文に交じって話声がした。


『どうした? さっきの地震でお終いか? なにも起こらないじゃないか! 魔術師を二人も用意したんだ! 遊びじゃないんだぞ!!』


 ガバナケの声だ! 苛立った様子で誰かを問い詰めている。


『いえ、大丈夫です。要石(かなめいし)を割ったことで間違いなく封印は解かれました。あとは眠っているという邪神を呼び覚ますだけです』

「あの人たちっ……要石をっ!」


 ラーニャが気色ばむ。

 俺はその口を慌てて押さえた。

 どうやらラーニャの声は聞かれなかったようだ。ガバナケは話を続けている。


『邪神? 封印されているのは魔族じゃないのか?』

『さあ、わかりません。なにしろ古すぎるのです。まともな情報も残っていません。ですがはっきりと伝わっていることもあります。それが邪悪なるものであること。魔なる者に大きな力を与えて人間への災いと成すことの二つです』

『くくく……ユユナ姫が本当に魔族なら、これの復活によって正体を現すに違いない。その姿を諸侯(しょこう)に見せて糾弾(きゅうだん)すれば……あの国は終わりだ!』


 ガバナケの声にははっきりと狂気が含まれていた。

 ラーニャが目で訴えてくる。俺は口を押えていた手を離した。


「申し訳ありません。つい……」


 今しがた声を上げそうになったことについての謝罪だ。

 俺は小声でささやく。


要石(かなめいし)ってのはそんなに大事な物なのか?」

「はい。祠の中に安置されている神聖なものです。それが破壊されたとなると……もうどうすることも……」

「なんてことだ……」


 ラーニャははっと顔を上げた。


「もしかしたら女王様なら……。アセルクリラングの王族は代々祠を(まつ)祭司(さいし)も兼ねています。もしかしたら解かれた封印を戻す方法もご存知かも……」

「じゃあぐずぐずしていられないな。この気味悪い詠唱を止めさせて、ガバナケを拘束する」

「えっ……無茶です。相手が多すぎます」

「可能だ。相手が誰であろうと……俺ならな。お前はここでじっとしていろ。いいな」


 俺はあえて強い命令口調で言った。

 ラーニャも修練を積んだ忍者。それを足手まといと言って傷つけてしまうのを避ける配慮だ。

 ラーニャの返事を待たずに俺は飛び出した。


「貴様っ! 何者だ!!」


 気付いた男が武器を構えるより早く、風刃符(ふうじんふ)の刃を叩き込んだ。男は左足のひざから下を切り離されて地面に倒れた。


「敵だ!」


 他の男たちもそれぞれ剣を抜いた。

 地面に座り込む二人は目を閉じて脂汗を浮かべたまま姿勢を変えない。どうやら極限まで詠唱に集中しているようだ。

 剣を振り上げて打ちかかってきた男の胴を衝撃符(しょうげきふ)で吹っ飛ばす。もう一人の剣をナイフで受けた。

 一歩後ろに距離を取って、新たな術符(じゅつふ)を用意する。

 俺の姿を確認したガバナケの目が驚愕(きょうがく)に見開かれる。


「い、イリシュアールの国主!? なんでお前が!?」

「とんでもないことをしでかしてくれたなガバナケ。なぜこの祠のことを知っていた?」


 ガバナケはもはや俺に怯えていたファラメニアの第二王子ではなかった。その歪んだ笑みから垣間見えるのは、狂気と妄執(もうしゅう)に取りつかれたテロリストの悪意だ。


「ふん、言っただろ。僕はユユナ姫のことならなんでも知っているんだ。魔族だということ以外にも、彼女に関わる事ならどんな些細なものでも徹底的に調べ上げたんだ。その過程で、王族ゆかりのこの祠の伝承に行き当たったってわけさ」

「ユユナは魔族じゃない! 人間だ!」


 俺は二人の兵を同時に吹っ飛ばしながら言った。 

 ガバナケは突き出た腹に手を当てて笑った。


「ぶはははは。まだそんなことを言っているのか。大方真実から必死に目を逸らそうとしているんだろうね。あれだけ美しい姫だ、それも無理はない。でも僕だけは違うよ。たとえユユナ姫の正体が魔族だったとしても、僕だけは彼女を愛してあげられる。事実が(おおやけ)になってみんなから見放された彼女を、僕が救ってあげるんだ!!」


 ガバナケの狂った演説の間にも兵は襲ってくる。

 風刃符で叩き切り、衝撃符で吹っ飛ばす。

 最後の兵の剣を避けて、その腕をナイフで切り裂く。

 得意げに語っていたガバナケもようやく顔色を変えた。座り込んで詠唱を続ける魔術師以外に、もう立っている兵はいなかった。


「な、なんなんだお前……化け物か!?」

「これで終わりだ」


 詠唱が止まっていた。

 座り込む二人の魔術師の体がぐらりと傾く。

 酸欠符(さんけつふ)で窒息させて意識を奪ったのだ。


「くそっ……役立たずどもがっ! ……ぐぇあっ!?」


 背を向けて逃げ出すガバナケだったが、すぐに転んで地面に鼻を押し付ける結果となった。

 再び地震が起こったのだ。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 でかい!

 城の中で感じたよりもそれは大きな地震だった。

 祠の巨岩がぐらぐらと揺れていた。


「ラーニャっ!!」


 大声で叫ぶ。

 祠の脇から飛び出すラーニャ。

 俺は転びそうになる体勢を何度も立て直して、必死にラーニャへ飛びついた。

 その柔らかい肢体をしっかりと支えて、守るように抱き寄せた。

 障壁符(しょうへきふ)起動。

 祠がついに崩れ、天井を構成していた民家より大きい巨岩が俺たちの上に落ちてきた。


「ひっ――!」


 ラーニャの悲鳴。

 巨岩は障壁符の作り出した不可視の壁に当たって向きを変え、鈍い音を立てて目の前の地面を抉った。

 地震が止んだ。

 俺とラーニャは辺りが暗くなるのを感じた。

 いや、暗くなったのではない。影に収まってしまったのだ。

 ……天を()く、巨人の影に。

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