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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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間者の自白

「イリシュアール筆頭政務官クリストファー・アルキメウス様! いらっしゃいますか!」


 部屋の外から俺を呼ぶ声で目が覚めた。

 眠い目をこすりながら応対に出ると、相手はメイドの少女だった。


「お休みのところ大変申し訳ありません。女王様がお呼びです。火急(かきゅう)の用件があるとのこと」


 振り返ればベッドからアンナとエリも起きだしたところだった。

 そういえばリズミナの姿が見えない。どこに行っているのだろうか?


「わかった。すぐ行く」


 案内されて連れて行かれたのは大広間でも寝室でもない。女王の私的な部屋の一つのようだった。

 部屋の中央、絨毯の上にひざを突かされて腕を縄で縛られているのは、見知らぬ男だった。

 男の目の前には女王シェアランとユユナ。男の両側にそれぞれリズミナとラーニャが立っていた。リズミナは全身をすっぽり覆うローブ姿だ。今は顔もフードで覆っていた。


間者(かんじゃ)だ。ラーニャが捕まえた」


 淡々としたリズミナの報告に、ラーニャは微笑みで返した。


「いいえ。私はリズミナさんに気絶させられた彼が落ちてきたところを拘束しただけです。天井の上に潜んでいた間者を追い詰めたのはリズミナさんの手柄です」

「なるほど。さすがリズミナだ」


 俺が言うとリズミナはフードをつまんで目深に被り直した。


「上が少々騒がしかっただけだ。落ち着いて眠れないので静かになってもらった」


 シェアランは、まるで汚い物でも見るようにドレスの袖で口元を隠し、眉をひそめて間者の男を見下ろした。


「どうやら、ガバナケの手の者のようです。ガバナケの部下として城に入り、主にユユナの身辺を嗅ぎまわっていたらしいのです。その内容も……とても口に出せないような、おぞましいものばかりです」

「なんだって!?」


 俺が驚いたのは犯行そのものにではない。この短時間で口を割らせたことについてだった。

 相手もプロ。生半可な拷問では口を割らないだろう。それを……。

 考えられる可能性は多くない。


「私が力を使いました」

「そうか……」


 ユユナは自分の力を使うことを嫌っていた。緊急事態とはいえきっとつらかっただろう。

 間者の男は呆けたような目をじっとユユナに向けているだけだ。その口の端からはよだれが垂れていた。


「こいつはいつまでこの状態なんだ?」

「一応すぐに……一時間以内にはそれまでの日常と変わらない状態に戻るはずです。ですが心の奥に打ち込まれた魅了が解けるには数か月から一年程度はかかると思います。魅了にかかっていた間の私に対する感情や会話の記憶は、効果が解ければ解消されます」


 ユユナの説明。

 改めて恐ろしい能力だと感心する。魅了が解けないまま見た目は日常と変わらないということは、他人が見ても異常に気付けないということだ。

 時間はかかれど一応自然と効果が切れるということは、今まで洗脳してきた各国の要人たちも、これから徐々に元に戻っていくのだろう。


「部下が一人殺されていました。この男は変装して私の部下になりすまし、空いた警備の穴を突いて潜んでいたようです。警備の責任者としてどのような罰も受ける覚悟です……本当に申し訳ありません」


 ラーニャは悔しそうに唇を噛んだ。

 とんでもないことをするものだ。

 ガバナケのやったことは本来ならアセルクリラングへの完全な敵対行動。それをユユナへのストーカー行為のためだけにしてしまうとは。


「ラーニャさんはいつも一生懸命やってくれています。私は間近で見ていて一番それをわかっています」


 ユユナは笑顔で言った。

 俺も同意見だ。今は責任を追及してラーニャを責めている場合ではない。そんなことをしたところで事態は好転しない。

 だから話を進めるべく口を開いた。


「ガバナケは結局どこまで知っていたんだ? こいつの口を割らせたのならはっきりしたんだろう?」

「姫様が魔族の血を引いていることと、その目に人間にはない模様が浮かぶというところまでですね。能力について知られていなかったのは不幸中の幸いでした」


 おおむね予想通りだ。最悪の想定では能力まで知られているということだったが、可能性としては低いと思っていた。

 なぜならガバナケといえども心を操られると知っていて直接会おうとするはずはないからだ。


「他にはなにかまずいことを知られていたりとかは? 国に対する諜報活動や破壊工作とかは……」

「いえ、間者の目的はそのほとんどすべてが姫様に関する事柄のようですね。ガバナケ殿の個人的興味を満たす目的で、姫様の私的な情報を探ろうとしていたようです。他には……その……盗みも指示されていたようです」


 盗み。

 言いにくそうに視線を逸らすラーニャの様子で、その盗みの対象物が金品や機密文書ではないことがうかがえた。先ほどシェアランもおぞましい内容とか言っていたが、いったいガバナケはこの間者にどんな指示を出していたんだ?

 ラーニャがさらになにかを言おうとしたそのときだった。

 部屋のドアを叩く音。そしてメイドの大声が聞こえてきた。


「女王様! ガバナケ様が今すぐ姫様と会わせろと! もういらっしゃっています!」

「来たか」


 朝も早いというのにせっかちなやつだ。

 俺は全員を見回した。


「心の準備はいいか?」


 みんなも真剣な顔でうなずいた。


「通しなさい」


 シェアランの声が響いた。

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