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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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大満足のお食事会

 和解した女王シェアランたっての希望で、俺たちは夕食を共にすることになった。

 二十人以上座れるだろう長テーブルには料理の皿が所狭しと置かれている。俺たち全員が座っても席は丸々半分以上が空席だった。

 それでもユユナはにっこりと顔をほころばせて言った。


「こんなに賑やかな食事は久しぶりです。いつもは母様と二人だけでしたので」


 なるほど。

 俺もイリシュアール宮廷での食事風景を思い出していた。

 アンナが女王だったときには広くて長いテーブルにたった一人で食事をさせられていた。給仕のメイドたちは大勢いたが、みな壁際に控えていた。俺はアンナに頼まれて食事を共にしていたが、テーブルの端と端に座らされて寂しさは募るばかりった。

 だからユユナの気持ちはわかる気がする。


「各国の貴人を招くことも多いんだろ? そのときは食事会とかはしなかったのか?」


 これに答えたのはテーブル奥の席に座る女王シェアランだ。


「よほどの……それこそ国王クラスの相手としか、同席することはありませんでした。……昔はそんなこともなかったのですけれど」


 やはり三年前の戦争がトラウマになっているのだろうか。他人と食事を共にするだけでも大きなストレスになっていたのだろう。


「私は国王ではないですけど、同等に扱ってくれて光栄ですよ」


 俺は王ではなく筆頭政務官。だからそれを軽口にしてみた。

 シェアランは目を丸くして慌てた。


「とんでもありません。クリストファー殿はイリシュアールの国主です。もちろん最上級のおもてなしをさせていただきますわ。そして……私にもようやくユユナが心酔している理由がわかってきました」

「なにがですか?」

「クリストファー殿のことです。最初にお会いしてから一貫してあなたは謙虚です。娘の力を使って罠にかけようとすらしたのに、怒るでもなく……あなたのように素晴らしいお人は、どの国の王であってもいないことでしょう」


 シェアランは祈るように目を閉じて手を組んだ。


「願わくば、クリストファー殿によるイリシュアールの治世が末永く続きますよう」


 その姿はまるで神に祈る敬虔(けいけん)な信徒のように澄み切っていて、清浄な雰囲気すら感じさせた。

 俺はさすがに恥ずかしくなって話題を変えた。


「こ、こんなにうまそうな料理をほったらかしにしておくのはもったいない。じゃあさっそく……」


 そら豆のように大きな豆がぎっしりと煮込まれているスープを一口すくった。

 とろっとしていて濃厚。スープというよりペーストに近い感じだ。

 こんなに濃厚なのに、口の中でざらつくような感じはなく、実に食べやすい。ハーブの香りがいいアクセントになっていて食欲を刺激した。

 俺が食べ始めたのをきっかけに他の面々も各々食べ始めた。


「おいしぃぃーーーーー!」


 アンナはやっぱり肉料理から手を付けていた。

 皿に美しく乗せられた小ぶりの肉は、深い赤色のソースをかけられている。

 ナイフを入れればほとんど抵抗を感じることなくすっと沈み込んだ。

 とろけるような食感のこの肉は今までに食べたことのないものだった。かけられているソースの酸味がいい具合にマッチしている。

 俺の向かいの席に座るラーニャが微笑みを浮かべて俺を見ていた。


「気に入りましたか? それは砂アザラシです」

「砂アザラシ……」

「アセルクリラング南の砂漠に生息する生き物ですね。砂の中を泳ぐように移動する不思議な動物です」


 アセルクリラングへ来る道中砂漠はなかったけど、首都ネラグラントより南には砂漠もあるらしい。

 イリシュアールで仲良くなった料理人のユイリーに食べさせてもらった砂熊に続いて、砂漠食材の二例目だった。

 いつか砂漠のほうへも行ってみたい。少し興味が出てきた。


「そういえばラーニャ、お前はユユナとはどういう関係なんだ?」


 イリシュアールへの使者に選ばれるくらいだから、それなりの地位はあると思っていたが詳しくは聞いていなかった。


「ラーニャさんは私がずっと小さかった頃からお世話をしてくれている人です。私にとっては頼りになる姉のような存在です」


 ユユナが言った。

 なるほど、側近中の側近だな。それならば仲がよさそうに見えるのも納得できる。


「もったいないお言葉です」


 ラーニャはおだやかに微笑んで目礼した。

 その姿は優雅で堂々としていて、まるで王族の一員であるかのように様になっている。もしかしたら生まれもいいのかもしれない。

 俺はテーブル真ん中の大皿に手を伸ばした。

 しかし俺が手を出すより早く、メイドの一人が俺の皿に中身を取り分けてくれた。

 席に座る一人につき一人給仕のメイドが控えていた。

 取り分けた料理は見た目はポテトサラダ。味のほうはどうだろうか?


「お、こりゃ……」


 香辛料の刺激がピリッと口の中に走った。そして豊かに香るのはやはり香辛料系の香りだ。

 食感はパサっとしているが嫌じゃない。刺激的な味わいを楽しむのにピッタリだ。そしてベースになっているのはじゃがいもではない。もっと別の……穀物系ではあるだろうけど、ちょっとよくわからない。

 そして次は別の、シチューのようなものを取ろうと皿を向ける。やはりすぐにメイドが取り分けてくれた。

 イリシュアールの王宮では食べきれるだけの、優美だが少量の食事が多かった。しかしこの国では豪華で量も種類もたっぷり。客人をもてなすことが深く文化に根差しているのだろう。どれだけ食べてもなくならないだけの量が最初から用意されていた。

 シチューのような深い赤茶のソースに沈んで、拳ほどもあるごろんとした肉の塊があった。食べてみると角煮に近かった。

 とろっとろになるまで煮込まれた肉の隅々にまでソースがしみ込んでいて最高に美味い。

 見ればアンナもエリも夢見心地になっていた。


「はわぁぁぁぁー……」

「おいしいぃぃーーー……」


 この世界では、少なくともキリアヒーストルやイリシュアールでは王宮内であっても静かに食べなければいけないというマナーはない。どうやらそれはアセルクリラングでも同じなようだった。

 シェアランもユユナも楽しそうに食べるアンナたちを見て笑顔になっていた。


「この料理、とってもおいしいです。今まで食べたことのない食感です」


 リズミナが言った。今は顔を覆うフードをしていないので丁寧な感想だ。


「それはほぐした砂蟹(すながに)の肉を、ミルマーに混ぜて蒸したものですね。リマシャという料理です」


 説明はラーニャだ。

 砂蟹だと!?

 砂シリーズは一体どこまであるんだ?

 気になって俺もさっそくメイドに取ってもらう。

 見た目はイモのペーストのようで白くてほくほくしてそうな感じ。赤い繊維状の模様がたぶん砂蟹なのだろう。

 食べると意外なことにそれはマシュマロのようにふわふわしていた。そこへプリッとした蟹肉の食感が加わる。貝で取った出汁のような深い味わいはどういう味付けになっているのだろうか。

 テーブルにはまだまだ味わってみたい料理がたくさんあった。

 俺たちはユユナたちとの食事を心ゆくまで楽しんだ。

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